第5話
「ルマンが、死んだよ」
リュゼは確かにそう言った。
いつもへらへらと笑い、人をおちょくるように茶化す彼もさすがにこんな笑えない冗談を言うとは思えない。その表情も沈んでいて、彼の言葉に偽りがないことが見て取れる。
「ルマンが……? 殺しても死なないような奴だぞ?」
「それでも死んだんだ。あいつだけじゃない。採集に出た奴らは、オレ以外全員死んだ」
正しくは殺されたのだと付け加え、リュゼはまた視線を落とす。二人の間に重い沈黙が流れた。
にわかには信じられない。信じたくない。けれどそれを受け入れなければ、この先もっと殺されるだけだ。頭ではわかっていても思考が上手く回らなくて、ただただ呆然とその事実を反芻するしか出来なかった。
「フォルティ、ぼーっとしてる場合じゃない。ウィリーに知らせねぇと」
「あ、ああ。分かっている」
リュゼに促され、二人はウィリーの部屋へと向かった。
洞窟の最奥、陽の光が一番届かない場所――とはいっても、滝に隠された洞窟の中はどこにいても日光なんて拝むことも出来ないのだが。そこまで足を運び、部屋の扉をトントンと叩く。
「ウィリー、話したいことがある。少しいいか」
――返事は、ない。
部屋の中の様子を伺うと物音が聞こえてくるので、何処かに出かけているという訳ではなさそうだ。
もう一度声をかけようと扉を叩いた時、前ではなく後ろから声が聞こえてきた。
「あんたたち、こんなとこで何してるのよ?」
少しだけ怒ったように腕を組みながらピウスがこちらを見つめる。
「見ての通りウィリーに用がある」
「ウィリーは忙しいからあんたたちの相手は出来ないって言ってるじゃない」
「こちらだって伝えなければならないことがあるんだ」
「私が伝言してあげるわよ。とにかくウィリーの邪魔をしないでちょうだい!」
フォルティとピウスは頑として譲らない。
いつかは伝わることだがルマンが死んだのを伝えることでピウスに余計な心労をかけたくないフォルティと、ウィリーの身を案じ彼女のために私室の安寧を守ろうとするピウス。どちらも大切な幼馴染のことを思ってのことだからか、二人とも譲る様子はない。
「ピウスさぁ、邪魔っつったけどウィリーは今この中で何してんの?」
「いろいろ、よ。あんたたちみたいな脳筋には想像も出来ないようなこと」
「ふーん。まる二日ぶっ続けで? 一昨日
「私は何も知らないわ」
リュゼは苛立ちを隠せなくなりつつも溜息を吐いて極めて冷静に言葉を紡ぐ。
「オレたちだって大変だったんだよ。すごく苦しい思いをした」
「だから、私が伝えるって――」
「話にならねぇって言ってるんだよ。ウィリーには用が終わり次第オレたちのとこに来るよう言っておいて」
それだけ言うとリュゼはフォルティを連れて踵を返した。
ウィリーの部屋の前に一人取り残されたピウスはそのドアへ崩れるように寄りかかる。部屋の中の様子は分からない。ウィリーが何を考えているのか、何をしているのか、それが全部分かればいいのに。
『オレたちだって大変だったんだよ。すごく苦しい思いをした』
リュゼの言葉が頭の中を反芻する。彼らに何があったのかは分からない。あとで一緒に外に出たルマンにでも聞いてみよう。彼らの苦しみを、負の感情を頭ごなしに否定するつもりはない。それでも――
「――ウィリーが一番苦しんでるわよ……」
それぞれの思いはすれ違ったまま交わらない。
ピウスにはリュゼたちの身に何が起こったのかわからない。
リュゼやフォルティにはピウスが何を考えているのかわからない。
そしてウィリーの行動は、思考は、その誰にもわからなかった。
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