【特別短編】ー夢旅人ー
辻 長洋(つじ おさひろ)
「深海」
少女はパジャマに着替えると、電気を消してベットの中に潜り込んだ。
(ドキドキの冒険の時間。今日はどこに行けるかな。)
少女は目を瞑り、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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パチッと目を開ける。
そこは真っ暗。
日の光も、街灯も無い。
(ここは何処だろう?)
少女が疑問に思って居ると、目の前を見慣れない魚が通った。
「ねえ、お魚さん。」
すると魚は、優しい声でこう答えた。
「なんだい?」
「ここは何処なの?」
少女が聞くと、魚は答えた。
「ここは、深海だよ。陸から何千メートルも下にあって、不思議な魚や海藻たちが暮らす神秘の世界さ。」
魚の声を聞いた途端、辺りがほんの少しだけ明るくなって、深海魚に珊瑚に貝に、色々な生き物がチラリと見えた。
「ここは深海なんだ。とっても神秘的だけど、なんだか暗くて怖いところだね。」
すると、魚は答えた。
「慣れない人間が見れば、そう思うかもしれないね。実際、僕だって天敵が居て、その天敵にも天敵が居て。そんな風に、皆が生きる為に必死になっているところでもあるんだ。」
「お魚さん、あなた、大変なんだね。」
「そうかもしれないけど、僕はとても楽しいよ。泳ぐのだって大好きだし、仲間達もとっても優しいんだ。」
そんな風な会話をしていると、魚がこう言った。
「おっと、そろそろ行かないと。仲間達と合流しなきゃ行けないんだ。またね。」
「うん。またね。色々教えてくれてありがとう。バイバイ。」
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その魚と分かれた後、少女は周辺を歩いて回ってみる。
(なんだか、体がとてもふわふわして、空を飛んでいるみたい。)
歩いていると、一枚の貝を見つけた。
「こんばんは。貝さん。」
貝はパカリと体を空けて答えた。
「やあ、こんばんは。」
「貴方は何をしているの?」
「僕はね、今、天敵から隠れてるんだ。」
「あそこんとこに居るだろう?目付きが悪くて、ブサイクな魚。」
「本当だ。あのお魚さんは貴方を食べるの?」
「そうさ。だから、こうして身を守ってるってわけ。君もあいつに見つかる前に、早く逃げた方がいいよ。」
「ありがとね。それじゃあ私もここから離れるよ。バイバイ。」
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少女がふわふわと歩いて居ると、今度は足の長いカニを見つけた。
「こんばんは。カニさん。」
カニはこちらを向いてお辞儀をした。
「やあ、お嬢さん。こんばんは。」
「カニさん、貴方は何をしているの?」
「僕かい?僕はね、今食べ物を探しているんだ。」
「食べ物?お腹が空いてるの?」
「ああ。この辺は昔エサが沢山あったんだけど、最近じゃ上から来た潜水艦が研究材料だって言って持って行っちゃうんだ。だから僕らはいつも腹ペコさ。今も早く何か食べたいね。」
「そうなんだ...。でも、その潜水艦の人達、嫌な人達だね。私も叩かれてお菓子を取られた事があるけど、とっても悲しかったもの。そんな事を人にするなんて嫌な気分がするよ。」
「仕方が無いさ、僕らは皆他の命を奪って生きているんだ。だから僕らの命を奪われたって文句は言えないよ。僕はお腹が空いているけれど、きっとあの潜水艦に乗ってた人間は、僕よりもっとお腹が減ってたのさ。だから思わず僕達が食べようとしていたものを食べちゃったんだ。君だって、お腹が空いて他の人にお菓子をねだった事くらいあるだろう?」
「彼らも皆生きてるんだ。だから僕はお腹が空いて困ってる人が居るなら、その人に食べ物を分けてあげるよ。」
「.........。」
「カニさん、貴方、とっても良いカニさんね。人間は皆、嫌な人ばっかりだと思っていたから、私とっても感動しちゃった。」
「嫌な人ばっかりなんて決めつけちゃあいけないよ。人間にも優しい人が沢山居て、僕達カニにも嫌なカニが沢山居るんだ。」
「ふふ、カニさん、学校の先生みたい。すっごく勉強になっちゃった。お礼に、食べ物が沢山ある所、教えてあげるね。」
「本当かい?それは嬉しいなぁ。」
「あっちの方に、穴の空いた岩があるでしょ?あそこの岩陰に、食べ物がいっぱいあったよ。」
「ありがとう。そこを探してみるよ。それじゃ。」
「うん。こちらこそありがとう。またねカニさん。バイバイ。」
────────────────────
カニを見送ると、目の前の空間から光が指してきた。
(もう朝なんだ...。なんだか残念。もっと色んな生き物達とお話したかったな。)
差し込んできた光は、どんどん広がり、気がつくと少女はベッドの上にいた。
少女は、喧しく鳴る目覚ましを止める。
枕元には、深海を模したスノードームが1つ。
「皆おはよう。それじゃ、行ってきます。」
【特別短編】ー夢旅人ー 辻 長洋(つじ おさひろ) @tsujifude-shihan
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