エピローグ
エピローグ 創立祭 前編
「……なるほど、そのようなことがあったのですね。ご苦労様でした」
一夜明けて創立祭一日目の朝。
ここはソイン教授の研究室だ。
あのドタバタした魔法学園創立祭前夜のことを一通り報告した。
「はい。結局あれは何だったのでしょう?」
「悪魔の一部による暴走だったのでしょうかね」
悪魔は単独では、この物質世界に影響を及ぼせないとグラズから聞いたことがある。
すべてはあの魔王に準じる者の仕業だと思うのだけど、いったいどうやってこの世界に来たのか謎がいくつか残っている。
ソイン教授がヴァレリオに託した指輪のおかげで倒せた。
しかし、その代償だったのか、あの指輪は力を失ってしまったようだ。
「指輪の力の復活も含め、準備はしておきましょう。もしまた何かあったら、いつでも頼ってください」
「ありがとうございます。助かります」
「こういうのは何ですが、ありがとうございました。貴女が……やはり、この騒動の中心だったのですね」
「中心って程ではないと思いますが……」
敵を倒したのはレナートで、鍵になっていたのはカリカだ。
私が事件に何か関わっていたのかというと疑問が残る。
「それで、ロッセーラさん、あなたのその格好……創立祭の方は大丈夫なのですか?」
そろそろ開店の時間だ。
私たちの学年は、スイーツなどケーキを出す喫茶店、それも貴族風の雰囲気で行うという模擬店を出すことになった。
私は接客をするためにメイド服を身につけている。
なぜ私が接客役をすることになったのかというと何者かの推薦があったらしい。
まあ、だいたい誰なのか見当はついている。
くっ。いつかお仕置きをしなければ。
「では、ソイン教授、これで失礼します」
「はい。では、楽しんできて下さい」
ソイン教授に送り出された私は、模擬店を行っている部屋に向かって走り出した。
模擬店の入り口にはすでに長蛇の列ができている。
一体何事だろう?
「ロッセーラ様!」
入り口でアリシアが出迎えてくれた。
彼女もメイド風の服を身につけていて、可愛らしい。
小柄な身体に、メイド服が丁度良いサイズに直してある。
「やっぱりメイド服姿もお似合いですね。といいますか、着こなしていませんか? 公爵令嬢という立場だとメイド服を着ることも?」
「そんなのないから」
確かに、大聖堂に潜入するときに変装のために着たけど。
普段の服装やドレスとかよりもメイド服の方が似合っているのだろうか。
しかし、誰だろう?
開店前からこの行列ということは……誰かがカリカのメイド服などリークした人がいるのだろうか。
いるのだろうな。
「それにしても、すごい行列だけどあれ何?」
「きっとロッセーラ様のメイド服を拝みに集まったので――」
言いかけたアリシアの足を踏む。
「いたっ何するんですかぁ?」
「あなたの仕業でしょう?」
「私はロッセーラ様の素敵なお姿を、多くの人間に鑑賞して欲しくてですね」
はぁ。
あまり目立ちたくないのだけどこの子は……。
溜息をつく私の視線の先に、カリカの姿が目に入る。
「ロッセーラ様も素敵ですが、カリカ様もなかなかですわね」
「確かに、あのデザインかわいいわね」
カリカは仕立屋での経験を生かしオリジナルのメイド服を着ていた。
プロポーションの良さも手伝って、私でさえファンになりそうなくらいかわいい。
さっそく接客の準備をしているカリカに近づく。
「カリカ。素敵ね」
「ロッセーラ様こそ。そろそろ開店時間です。頑張りましょう!」
皆すごく楽しそう。
私たちは、ようやく学園生活を楽しめつつあるのかもしれない。
レナートやヴァレリオも執事風に装い接客するらしい。
彼らを眺めるのも楽しそうだ。
模擬店を開始して一息ついた頃。
「午後より、剣術大会が始まります。華麗な男子生徒の勇姿を是非ご覧ください」
園内に魔法によって大きな声が響き渡った。
剣術大会。
魔法学園内で有志によって競われる剣の競技大会だ。
トーナメント方式で行われる。
「あら、レナート? どうしたの?」
学園の女生徒達にキャーキャー言われながらやってきたレナートが、真剣な眼差しで私に言った。
「ロッセ、私とヴァレリオは剣術大会に出場します」
「そうなの? じゃあ、頑張って!」
「はい。もちろんです。それに、ヴァレリオから提案があり……」
「提案?」
「……いえ、申し訳ありません。忘れて下さい」
何か意味ありげに言うレナート。
こんなこと言われて気にならないはずが無い。
とはいえ、いくら問い詰めても話してはくれなかった。
大会に何があるのか、私は見届ける必要があるような気がしてきた。
「私、剣術大会見に行くわ」
「そうなのですか? それを着たまま?」
「あっ」
確かにこんな格好をして大会を見物に行ったら、すごく目立ちそう。
「でも、時間がありませんね。私はそろそろこちらを抜けて出かけます」
男はそれほど着替えに時間がかからないらしい。
ちょっと羨ましく思った。
さて、と。
レナートもヴァレリオもあまり話をできていないぶん、しっかり応援しよう。
私はそう思いながら、剣術大会の会場に向かった。
かくして、私はメイド服という姿のままで剣術大会に向かうのだった……。
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