第14話 なんとかします。
「ちゃっちゃっと、武器を出す魔法か何かを」
「あのね、そんな都合のいい魔法あるわけ——」
いや、あった。
「【
「おお……?」
レナートの両腕が淡い光を帯びた。
これは、肉体を武器に変える魔法だ。
拳が鋼鉄のように硬くなり、牙がある者は、その鋭さが増す。
「これで腕の攻撃力が増したはず! 直接殴ってみて!」
「え? 肉弾戦?」
だって。
何も無いところから武器を生み出す魔法なんて無いんだもん……。
「そうよ。がんばって!」
「仕方ありませんね……」
レナートはそう言って、背筋をすっと伸ばし腕を身体の前で構えると、上級悪魔に接近した。
彼は、悪魔の爪による攻撃をかわしつつ、懐に飛び込むと、その腕を振るった。
ぶしっという、皮膚と皮膚がぶつかるような音がする。
「グッ」
レナートの右パンチが、上級悪魔の右頬に当たった。
上級悪魔は、身体をのけぞらせ、大きく傾く。
正直、時間稼ぎくらいにしかならないと思っていたのだけど、悪魔にはかなり効いているように見えた。
ひょっとしたら倒せちゃう?
「すごい……勇者って戦闘ならなんでもできるの?」
「……これは……悪くありませんが——」
今度は左のパンチで悪魔を翻弄する。
「——ダメですね。多分、気絶はさせられますが、止めは刺せません。何か、武器を!」
「う。うん」
私は、周囲を見渡す。
しかし礼拝堂の壇上には、これといってめぼしい物が無かった。
周囲を見渡す。
人々が逃げ出した入り口の方向はダメだ。
この悪魔を市外に出すわけにはいかない。
反対側を見ると、礼拝室の奥の方に扉があることに気付く。
なんとなく勘ではあるけど、何かありそうな予感がする。
さっそく駆け出そうとした瞬間、ドーンという大きな音が聞こえた。
音の方向を見ると、立っているレナートと、仰向けに倒れた悪魔が見えた。
倒したんだ!
しかし、レナートは厳しい表情のまま、私の方に駆け寄ってきた。
「奴は、気絶しているだけです。すぐ気がつき追ってくるでしょう」
見ると、ぴくぴくと倒れた悪魔の腕の辺りが動いている。
近づいて何か魔法を使うのも……どんな魔法が効くのかもよく分からない。
悪魔は魔法に対する抵抗力を持っていることが多い。
魔法によらず、確実に倒せる方法を探す必要がある。
私は、さっき見つけた部屋を指差した。
「あの部屋。出口と反対方向で誰もいなさそうだし、何か武器になるものがあるかもしれない」
「行ってみよう」
私たちは「聖具室」と書かれた部屋に入っていく。
部屋の中は乱雑としており、机が乱雑に積まれている。
それ以外に目に付くのは、白一色の修道服だ。
そういえば、この白い服を、この聖堂の関係者は着ていたっけ。
「武器は……見当たらないな」
レナートがガサガサと机の引き出しを開いたりして家捜ししている。
なんだか手際がいい。
「レナート、こういう泥棒みたいなこと良くするの? 王子の身分ではしないでしょうから……前世の勇者の時とか」
「……どうしてそれを?」
「してたのか……」
なんだか聞いて後悔したような……しないような。
そう離していると、ガサッという物音が、扉の向こうでした。
「もう、気が付いたようですね、あの悪魔。隠れながら、武器になるものを探しましょう」
私たちは、腰をかがめ、積まれた机に隠れながら、家捜しを続けた。
いつ、扉が開いて、悪魔が入ってきてもいいように。
しかし……。
バタン。
すぐさま、上級悪魔が部屋に侵入してきた。
私たちは、机の陰に隠れる。
いつのまにか、レナートが、私の手を握ってくれている。
私は、つい先ほどのことを思い出す。
悪魔の爪が腕をかすりかけたこと。
あの時、もしレナートの反応が少しでも遅れていたら?
多分、それなりの怪我を負っていただろう。
私の身体が震え始める。
怖い。
ダメだ。今そんなことを考えては。
腕を組み震えを落ち着かせるように努める。
私たちは二人とも息を殺し、音を立てないよう気遣いながら、武器を探し続けた。
レナートは周囲を警戒しつつも、身をかがめながら辺りを見回している。
真剣な顔で、私を気遣いながら行動しているのが分かる。
レナートの姿を見ていると、不思議と心が落ち着く。
この気持ちは……いったい?
そう思った瞬間、頭に血が上り……顔が赤くなるのを感じた。
——ああ。
改めてレナートの姿を目で追って、私は確信する。
ああそうか……。
私は……きっと……彼のことが……。
こんな状況なのに。
こんな状況だからこそ。
場違いな考えが、私を覆い尽くした——。
最低だ。
最低の女だ。私は。
婚約している身なのに……。
いや、とうの昔に分かっていたことなのに。
なぜあのとき、ちゃんと断らなかったのか。
迷いがあったことを、分かっていたはずなのに。
いや、今さら、何を……。
ヴァレリオに、合わす顔がない。
——レナートにさえ。
「ロッセ……どうしました?」
レナートの声に顔を上げる。
「え? ううん、なんでも」
「涙が……泣いているのですか?」
ああ……。
私は彼から顔を背ける。
涙を堪えようとすればするほど、それは止めどなくあふれ出た。
こんな涙、見せるわけにいかない。
「な、なんでも……ないよ…………えっ?」
震える私を、包むように肩に手を回し、レナートは抱き締めてくれた。
温かい。
震えが……不思議と止まっていく。
「大丈夫、私がいます。守りますよ」
「ううん。そうじゃなくて……」
私は手で涙を拭った。
きっと酷い顔をしているのだろうけど、仕方が無い。
「ロッセ」
顔を上げると、微笑むレナートの顔が目に入った。
私は、状況を忘れ……彼の首に手を回す。
「ロッセ?」
こんな状況なのに。
こんな危機的な状況だからこそ?
私は、目を瞑る。
すると、彼が私を抱く力が強くなり、引き寄せられた。
目を瞑っていても、分かることがあった。
彼の顔が少しづつ、近づいていることに——。
唇と唇が近づき彼の吐息をすぐ側に、感じた。
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