第9話 大切な三つのことを聞きました。

「まあ、その話は……本当に大切な話なので、最後に話します。まず一つ目です。私の、貴女の場所を特定する能力ですが、最近その力が衰えているようなのです」

「そうなんだ。よかったわ」


 なんだ、そんなことか。

 私は、胸をなで下ろした。

 まったくもう。

 驚かさないで欲しい。


「いいえ、よくありません。これが何を意味するのか分かっていますか?」

「レナートにストーキングされなくなるっていうことだよね?」

「あのですね。いつ私が……。じゃなくて!」

「じゃなくて?」


 レナートが少し苛ついてしまったようだ。

 ごめんなさいと心の中で謝る。


「この事実は、新しい魔王の出現を示唆しているのだと思っています。本当に魔王という存在があるのか、実は疑っていたところもありますが、実在したということです」


 ふむ。

 私はこの世界では、あくまで「元魔王」ということか。

 レナートから認識されなくなるのは、本当の魔王が現れたからという可能性もなくはない。


 私は、前世の記憶と能力だけ残っている。

 魔力は半分くらいだけど、きっとそれはこの体の元々の力なのだろう。

 昼間には聖女の判定も出た。

 まさか私が聖女ってことは、ないよね。


「もしも、ということがあるかもしれません。これを差し上げます」


 そういってレナートは、古めかしいネックレスを手渡してきた。

 ペンダントトップには、碧い宝石が収まっている。

 シンプルな作りで豪華さはないけど、落ち着いたデザインは私の好みだ。


「とても綺麗ね」

「はい。いざというときは、それを握り、念じて下さい。会話などは出来ませんが、どこにいるかくらいはそれで把握が出来るはずです。ヴァレリオには了解を得ているので、気にせず身につけてもらっても構いませんし」

「わかったけど、どうして私に、このようなものを? 」


 そういうと、レナートは急に目を逸らし、そっぽを向いて言った。


「い、いざというときのためです。二人で協力すると約束したではありませんか」


 緊急用の連絡の道具ってことね。つまり、別に私にプレゼントって訳でもないのか。

 なぜか、ちょっと残念な気持ちになった。


「そんな顔をして……大丈夫、ヴァレリオもまた何か用意してくれますよ」

「う、うん」


 私は、早速ネックレスを身につける。

 すると、サイズも丁度良く、私用にあつらえたように、首元に収まった。


「なかなか、いいわね」

「その制服には派手かなと思いましたが、意外と似合いますね」

「意外と、は余計。でも、嬉しい。ありがとう」


 そう言うと、レナートは「礼はいい」といいつつ、口角を上げてくれた。

 どことなく嬉しそうだ。

 彼はちらちらと私の首元を見ながら、二つ目の話を始めた。


「アリシアを怪しいと思いませんか?」


 彼は、アリシアのことを疑っているようだ。

 彼女が魔王ではないか、と。

 まだ覚醒などしていないため、自覚もないし人間の形状を保っているが、いずれ本性を表すかもしれないと。


「それに、彼女の家の爵位は伯爵なのですが、領地は持っていません。その代わり、王都のある建物の管理を任されています。本来は、国教である精霊教の聖堂なのですが、その実態はどうやら異なる宗教のようなのです」

「えっ、それって……?」


 大精霊と異なるものを崇拝するというだけで、かなり問題であるのに偽っているとは。

 もし本当で、王家に知られたら……それだけで国外追放はおろか処刑される可能性がある。


「完全に私の憶測に過ぎないのですが、今後、少しアリシアのことを調べてみるつもりです。ロッセは、怪しい者がいたら目を光らせつつ、彼女に注意して下さい」

「わ、わかった」


 なんと、処刑エンドが最も近いのは、案外アリシアなのかもしれない。

 私も危なかった。

 ヴァレリオとカリカとの関係を巡って婚約破棄からの処刑ルートに繋がる可能性がある。

 だけど、カリカの気持ちを知った今、その可能性はかなり低くなったと思う。

 婚約破棄なんて……なかったんだ!


 さて。

 彼の長い話もそろそろ終わり。

 三つ目の話だ。

 レナートは、今度はまっすぐに私の目を見て、話し始めた。


「そして三つ目。これが一番大切な話なのですが……。王家には、ある盟約があります。かなり昔、聖女と交わした約束です」

「ふむふむ」


 いにしえの盟約ってやつか。

 そういう謎めいたもの、ゲームの設定にはよくあるよね。

 乙女ゲームには、王家の盟約なんて設定は無かったはずだけど。

 私は、レナートの言葉に耳を傾ける。


「……それは、王族と聖女とされる者は、決して結婚してはならないということ」

「えっ?」

「つまり、このまま貴女あなたが聖女であると認定されると、ヴァレリオとの婚約は王家によって破棄されるでしょう」

「こ……婚約……破棄……ですって……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る