第2話 真? 悪役令嬢が現れたのですが、どうしましょうか。
ここで、悪役令嬢を名乗るなんていい度胸だー! というのは何か違う気もするので、冷静に対処してみようと思う。
「悪役令嬢って……あなた、意味を分かって言っているの?」
「…………」
彼女は私の声に応えず、目を泳がせた。少し様子がおかしい。
もしかして……本当に意味を分かっていない? 乙女ゲームのことを知っているのだと思ったのだけど。
「そういうことやっていると……あなた、いつか酷い目に合うわよ!」
「はっ…………す、すみませんでしたあぁぁぁ」
彼女は、急に我戻った様子で顔色を変えると奥の方の席に駆けていく。いったい……何がどうしたのだろうか……?
おっと、こうしてはいられない。
「カリカ、大丈夫?」
「はい……あの……」
カリカの方を見ると、やや頬を染め私を見つめていた。
彼女の視線を追うと、そこには私の手があった。その手のひらは、彼女の手を強く握りしめている。カリカの指の先は、血の気が引いたようにやや白くなっていた。
慌ててぱっと手を離す。
「ごごごごごごごめん! 痛かったでしょう?」
「いいえ……こんなに強く握られたことなくって……びっくりしました」
「あー。うん、ごめんね……。じゃあ悪役れ……悪も去ったし、座ろうか」
「ふふっ。悪って……はい。ロッセーラ様」
私は彼女の隣に座った。
その席は四人がけであり、あと二人座れるはずなのに、私達の隣には誰も座ろうとしなかった。
その代わり、ざわざわとみんなの話し声が耳に飛び込んでくる。
「さすが公爵家を背負ってるだけあるな……さっきの凜とした姿勢は見習わなければ」
「ヴァレリオ殿下と婚約をされたということですが、納得ですわね……」
「見て、庶民の子にも普通に話しかけて……気さくな方なのか?」
一瞬、昔の記憶が蘇りヒソヒソと聞こえる声に耳を背けようと思ったのだけど、意に反してその内容は好意的なもののように思えた。
しかし、次に登場した人物により、そのざわめきは一瞬にして消え去り、静寂が訪れた。
「ロッセーラ、おはよう」
「やあロッセ」
「レナート殿下、ヴァレリオ殿下、おはようございます」
王子達の登場だ。二人の顔を知らぬ者はいない。
彼らは迷うこともなく、私の隣の空席に座った。
ん? そういえばさっきのカリカに対するやりとりって……乙女ゲームのイベントだったような……。
主人公カリカが悪役令嬢に絡まれているところを、攻略対象であるレナートやヴァレリオが仲介に入り彼女を救うのだ。
もっとも、この段階では好意度は攻略対象ごとに差が付いていないので、ランダムで救ってくれる人が変わるという雑なシステムだったはず。
うーん、何か引っかかるな……。
しばらくして、中年くらいのダンディな男性がやってきて、自己紹介をした。
壇上に立つ彼は講師で、ソインと名乗った。短い黒髪でさっぱりとしつつも、やや神経質そうにも見える。
「おほん、では、これから魔法の講義を始めたいところですが……今日の所は、まず諸君の魔法力を調べましょう。みなさん、学園の広場に移動して下さい」
魔力の有無とその力量、種別を測るのだそう。
魔力量なんていつも感覚的なもので、こうやって第三者から測ってもらうことなんて今までほとんどなかった。どんな結果になるのか、少し楽しみだ。
ぞろぞろと、みんなで学園の庭に向かう途中、カリカが話しかけてくる。
「ロッセーラ様、先ほどは、ありがとうございます!」
「ああ、あれね。何だったのかしらね、あの子……」
「はい、私も驚いてしまって……」
そりゃ初対面の相手にあんなこと言われたら誰だってびっくりするだろう。
「私には強く言いにくいようだし、なにかあったら私をいつでも呼んでね」
「はい、ありがとうございます! ロッセーラ様のおかげで安心して過ごせそうです」
彼女はやや頬を紅潮させ、満面の笑顔で言った。
ああ……この笑顔を見たら何でもできそうになる。そりゃ、誰だって彼女と親しくなりたくなるよね。
この笑顔は、カリカを悪役令嬢のイジメから守った攻略対象に向けたご褒美なのだろう。
私も笑顔で応える。
ん? キラキラとした演出で好感度アップ! とか表示されるシーンがあった。私の顔がどアップでカリカの瞳に映っているなら、ちょっと恥ずかしいな……じゃなくて……カリカ視点に映ってるのは、私?
つまり、私が彼らのイベントを奪ってしまったということだ。
うーむ。ロッセーラとしては、カリカと王子達の仲が進展すると破滅してしまうのなら、これで良いのかもしれない。
二人にとっては可愛いカリカと仲良くなるきっかけを失うわけだから、微妙な罪悪感があるけど……仕方ないと割り切ろう。
しかし、心配に思うことがある。
私の立ち位置って悪役令嬢だったはずだ。でも、さっきアレシアが放った、悪役令嬢という言葉にとても違和感がある。
ゲーム内でそんな言葉が出ることはないのに、いったい、彼女はなぜ発したのか。
私が悪役令嬢としては不甲斐なさすぎるので代役を用意されてしまった……わけじゃないよね? 悪役令嬢をクビになった?
ま……まさかね。
「ロッセーラ様、どうされました? 広場に着きましたね」
私は隣を歩いているカリカの声で我に戻った。
授業の後にでもアリシアと二人きりになる機会を設けて、悪役令嬢という言葉をなぜ知っているのか聞いてみる必要がありそうだ。
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