第三章 魔法学園
第1話 魔法学園に入学しました。
ラルブムーア魔法学園。
王城の近くに設けられた、王国が運営する施設の一つであり、魔法の研究を行うと同時に、魔法の才能を持つ者を見出し、教育を行う機関だ。
学園は、見上げるほどの高い塀で囲われていて、外から中の様子をうかがい知ることはできない。
「ついに……ついにやってきたのね。魔法学園に」
私は思わずつぶやき、その重苦しい門を見上げた。芝居がかったセリフが出るのは、乙女ゲームの内容を思い浮かべ、主人公の気分を味わいたいと思ったからだ。
とはいえ、私は脇役の悪役令嬢なのだ。だからせめて、気分だけでもと思う。
私は、さきほど馬車に乗って来て一人でこの門の前に降り立った。これから門を潜り、学園に向かう。今日は、学園についての簡単な説明があり、本格的な勉強は明日からだということだった。
マヤは荷物を整理するため、寮に向かうそうだ。他の貴族達も同じで、従者などは寮に先回りし、令嬢や令息は一人でこの門を潜っていくそうだ。
辺りを見渡すと、門の前に衛兵さんが何人か立っていて周りには人影がない。
早く来すぎたのかもしれない。
そういえば、この門を背景に高らかに笑う悪役令嬢の姿を描いた一枚絵も、乙女ゲームにあったような。
なぜか、私はやってみたくなった。怪訝そうな表情で私を見る衛兵さんはとりあえずスルーして……。
「おーほっほっほっほ……」
と、大きく開けた口に手を添え、もう片方の手は腰に当てて声を出したところで、どんと背中を押された。
「ぐぇっ……えっ誰?」
突然のことにびっくりして振り向くと……私よりも少し目のつり上がった女の子がいた。ハーフアップの黒髪に、少し大きめの真珠のイヤリングがよく似合う。不敵に微笑む口には、八重歯が光っていた。
服装から想像するに、恐らくどこぞの貴族の令嬢なのだろう。魔法学園の生徒なのだと思うけど……。
「
突然後ろからどつくなんて……。でも、確かに門の前に仁王立ちしていたのは悪かった。
「ご、ごめんなさい」
「分かればいいのよ」
いそいそと道の角に寄った私を見て、彼女は満足げにその場に仁王立ちした。
そして大きく開けた口に手を添え、もう片方の手は腰に当てて……。
「おーほっほっほっほ……ついにやってきましたわ、魔法学園に!」
と、さっき私がしようとしたことを完遂してしまった。
なんだ……この令嬢は?
「あの、あなたは……?」
「急ぎますので。ご機嫌よう」
彼女は私から逃げるようにして、門を潜っていった。
本当になんなんだいったい……。
学園入学初日は、聞いていたとおり、簡単な生活ルールや、施設の説明があっただけで、あっという間に終わった。王族、貴族、平民とで別々に説明を受けた。
この前の誕生日パーティーで見かけた顔が数人いたけど、それ以外の殆どの学生は初対面だった。
門の前で見かけた、あの不思議な貴族令嬢も見かけた。同じ学年のようだ。
説明が終わり、私は一刻も早く休みたくて、説明を受けた寮の自室に逃げるように向かった。
「お嬢様、お待ちしていました」
先回りしていたマヤが、荷物を広げ準備していてくれていた。
机にベッド、応接用のソファがある、とても質素な部屋だ。
「マヤは……別室で寝泊まりするの?」
「はい。使用人は、こことは別の建物に住まうことになります」
「じゃあ、朝は……」
「もちろん、お嬢様を起こしに参ります」
マヤは、にっこりと微笑みを浮かべて言った。ああ、よかった。これでとりあえず寝坊の心配が無くなった……。彼女がいなくては、遅刻しないように起きられる気がしない……。
「じゃあ、明日からよろしくね」
「はい、おやすみなさい、お嬢様」
「おやすみ、マヤ」
かくして、入学初日はあっという間に終わったのだった。
翌日。無事にマヤに起こされた私は、朝食をとり、準備ができると早速講義室に向かった。
一学年にクラスは一つだけ。王族から平民まで、同じクラスで講義を受けることになっている。レナートやヴァレリオ殿下、カリカに会えるのが楽しみで、ついつい急ぎ足になる。
【一年生講義室】
そう示されている大きな部屋に入る。机が教壇を取り囲むように囲み、後ろの方は高くなっていて、ちょっとしたコンサートホールのようだ。
さて、どこに座ろうか……と席を見渡すと、棘のある、聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。
「平民のくせに、私の言うことが聞けないって言うの?」
「……あの……その……」
どうやら、どこぞの貴族が、平民の子に因縁をふっかけているらしい。
昨日門の前で見かけたあの貴族令嬢が怒鳴っている。彼女に詰め寄られている女の子は、カリカだった。
「ちょっと、何をしているの?」
私は、二人の間に割り込む。
「邪魔をしないで下さいな。平民の分際で良い席に座ろうとする身の程知らずに、教育をしてあげているのですわ」
「この学園では貴族や平民の区別はしないと昨日教えてもらってるでしょう。貴族と言うだけで威張ってよいはずがない」
「どうして平民の肩を持つのです?」
「友達だから」
そう言うと、カリカが私を驚いたような顔をして見つめてきた。
カリカとは友達になったつもりだけど……もしかして……馴れ馴れしかった?
「平民と友達? あなたは……名前はなんていうのかしら?」
「ロッセーラ。ロッセーラ・フォン・クリスティーニよ」
そう名乗った瞬間、教室の他の生徒達がざわめくのを感じる。
「クリスティーニ……。え……あなた、公爵家の」
「そうよ」
「……公爵家の方がいるなんて聞いてませんわ」
「あなたこそなんていう名前なの?」
「私は……。私は、アレッシア・マリア・ガラン……」
彼女の声は次第に小さくなっていった。ガラン? あまり聞いたことの無い家の名前だな。
すると、突然アレッシアは昨日見たようなポーズをとった。片手は口に、もう一方の手は、腰に当て仁王立ちをしている。そして、ニヤリと口元を曲げとても大きな、とてもよく通る声で言い放った。
「私は……平民の
えっ? 『悪役令嬢』? 何言ってるのこの人……?
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