第4話 少女と手を繫ぎました。
乙女ゲームの主人公。私が操作する限りは、素直で裏表もなく、良い子だった。現実に目の前にいるカリカは……同じように見える。
遊び方次第ではヤンデレ的な性格もありそうだったけど……。
しかし……王子を
身代金? どうせ狙うなら貴族だろうし。彼女はとても可愛らしいから、まさか人身売買だろうか?
うーん、考えてもわかんないし、白装束をとっちめて聞けばいいか。
「手、繫ご」
「はい?」
「さっき、私が見えなかったと思うけど、透明化の魔法を使うの。するとお互いが見えなくなる。離れるとお互いの位置が分からなくなるから、手を繫いで移動をしたいの」
彼女はおずおずと手を差し出してきた。カリカの手のひらは、しっとりとしていて触れているだけで心地いい。
お互いの息づかいが聞こえるくらいまで近づくと、彼女は抵抗せずに体を預けてきた。
「じゃあ、魔法を使うね」
【透明化】の魔法をそれぞれにかけると、お互いの姿が視界から消えた。本当にそこにいるのか? 私は確かめるように、彼女の背中に繫いでいない方の腕を回す。
カリカって可愛らしいし、乙女ゲームに感情移入しすぎたせいで愛しくてしょうがない。
「ロッセーラ様……あの……」
カリカが蚊の鳴くような細い声で訴えてきた。
いかん。彼女の体温が気持ちよくて、くっつきすぎていたようだ。距離感をつかむのが難しい。
「あの、ロッセーラ様は、私に触れて大丈夫なのですか?」
「え? いや……別に平気よ? むしろ柔らかくて気持ちよく……じゃなくて、どうして?」
おっと……これでは危ない人みたいじゃないか。自重しなければ。
「私に触れると気味が悪く感じる人ばかりで……皆が避けるようになってしまったのです。両親でさえ……」
彼女の声は次第に小さく、沈んでいった。
カリカは私と同じなのだ。私は前世、魔力のせいで森の中で、孤独に一人で暮らすことになった。
多くの人々は、漏れ出す魔力や、年齢にそぐわない魔法が使えることに恐れを抱くのだ。噂が噂を呼び、忌み嫌う。
カリカは、魔力のせいで損をしたり、寂しい思いをしているのだとしたら……。以前の自分を見ているような気分になってくる。
彼女を引き寄せると、ぎゅっと抱き締めた。
「ロッセーラ様?」
「ほら、全然平気。それどころか、ずっとこうしていたいくらい」
私はさっき言い淀んだ本音を口にした。
「私は、シーカさんがとても素敵な女の子だと思うの。貴方の優しい性格も、人を思いやれる心も」
「性格……?」
「あ、いや……そんな気がして……」
乙女ゲームの振る舞いから想像しただけなんだけど、初対面でこんなことを言うのは変だよね……。私は、誤魔化すように彼女を抱えている腕に力を込めた。
「嬉しい」
カリカはそう言って、私に体を委ねた。
彼女から漏れ出す魔力は濃い。私は少し魔力を消費していたのだけど、こうして接していると、まるで彼女から魔力が注がれ、満たされるように感じる。
おっと……ここは敵地だったのを忘れてた……。
私はうっとりとしてしまっていたけど、なんとか自分を取り戻し体を離した。彼女は、よほど信頼してくれているのか、私のなすがまま。
「それで、奴らは何人くらいいるの?」
「多分、二、三人だけだと思います」
そんなに少人数? ヴァレリオ殿下を誘拐した手際から察しても、もう少しいそうだけど……。少なくとも魔法の使い手が複数人いてもおかしくない。ここにいないだけなのかな?
でも、少人数ならなんとかなる。
「あいの人たち、どういう集団なのか分かる?」
「いいえ、分かりません」
ずっとあの部屋に監禁されていたのなら仕方ないか……。
二、三人程度なら、もし見つかっても囲まれる可能性は低い。いざというときでも私の魔法でなんとかなりそう。
「分かったわ。ありがとう。ヴァレリオ殿下を救って、こんな所からさっさと帰りましょう。そしたら、シーカさんとお茶をご一緒できたらいいな」
「えっ?」
「嫌でなければだけど」
「そんな、とんでもありません。私のような者でよければ、喜んで」
彼女の心から弾む声は透き通っていて、とてもまっすぐだった。
部屋を出てさらに進んでいくと「いかにも」という装飾が施された扉があり、その奥から話し声が聞こえた。
二人して聞き耳を立てる。
「……なぜ俺を誘拐した?」
ヴァレリオ殿下の声だ! 声も力強く、元気そうな様子にほっとする。
「……ん? この魔方陣……まさか……?」
「……さすがに察しがいいな」
「何をする!」
よくない状況になりつつありそう。声の様子から、恐らく部屋の中にはヴァレリオ殿下と敵が一人だと察する。
私は、カリカと打ち合わせをした。
まず、二人で部屋に突入する。次に、透明状態のカリカがヴァレリオ殿下を部屋の外に連れ出す。同時に私が敵を魔法で部屋に釘付けにして逃げ、カリカ達に追いつく。
そんな、単純な作戦を立てた。不意を突けば、きっとうまくいくはず!
「じゃあ、そんな感じで。あとは流れで」
「流れ、ですか? うまくいくでしょうか……?」
「大丈夫、落ち着いてやればきっと、いい結果になる。あなたは殿下を連れて逃げることだけを考えて」
「はい……でも、ロッセーラ様が心配です」
「平気よ。だって、私は魔お…………」
「まお?」
「まままま魔法が使えるから……」
「は…………はい」
もし追われても暗闇の魔法など目くらましをすれば、いくらか時間は稼げると思う。敵が魔法を使う前にケリをつけたい。
私は、カリカと繫いでいる手をぎゅっと握りしめ、ドアを開ける準備をした。
「行くよ!」
「はい!」
力を込め、勢いよくドアを開けるとバン、とすごい音がした。同時に、私達は部屋に突撃する。
戦端の火蓋が切られてしまった。あとは、思い切りよく行動するのみ。
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