第3話 監禁されていた少女を助けました。

 程なくして、少女は私の腕の中でまぶたを開けた。

 私の顔をじっと見つめ、目をまん丸に広げている。


「キャ……むぐむぐ」


 私は、悲鳴を上げようとした彼女の口を慌てて手で塞いだ。


「しっーー!」


 あっ。そうだ……。私今透明化していたんだった。いきなり姿の見えない者に抱きかかえられたら、そりゃ怖いだろう。急いで透明化を解く。


「んんんん…………?」

「ごめんね……びっくりさせて」

「…………はい…………。貴方は……?」


 彼女は私の顔をじっと見つめると、少し落ち着きを見せた。


「私は、クリスティーニ家のロッセーラ。あなたは、どうしてここに?」

「昨日からここに閉じ込められていて……それで……どうしてここにいるのか分からなくて」

「やっぱり……可愛そうに……もう、大丈夫よ」


 彼女の瞳に溜まった涙を手で拭う。

 一人でこんな所に監禁されるなんて……どんなに心細かっただろう。私は、彼女をぎゅっと抱きしめた。


「!」


 彼女から温もりと共に、魔力が漏れ出しているのを感じた。触れて分かる位なのだから相当なものだ。私はさらに腕に力を込め、体を密着させる。

 これは……この魔力量は……? 魔王と呼ばれていた頃の私に匹敵するかもしれない。この少女はいったい何者だろう?


「あっ。あ……あの……?」


 彼女は、顔を真っ赤に染めていた。あ、まずい、強く抱き締めすぎて苦しくさせてしまったのかも。

 私は腕の力を抜き、そっと体を離した。彼女は心なしか、そわそわしていて落ち着かないようだ。


「あっ。ごめん……体は大丈夫?」

「はい」

「顔が赤いけど……?」

「だ、大丈夫です……それで、ロッセーラ様はどうしてここへ……?」


 私は、今までの出来事をかいつまんで説明した。

 コンサートホールからの誘拐のこと、怪しい白装束の者を追ってきたこと。


「そんな……ヴァレリオ殿下が……。しかもロッセーラ様一人で助けようと?」

「……う……うん」


 私のような者が一人でここにいることの場違い感。

 さすがにヴァレリオが失明するかもしれなくて、いてもたっていられなくなったとは言えないのが苦しい。


「……危なくないですか? 誰か人を……」

「ううん……奴らが殿下に何かする前に何とか助けたい。あなたは、ここから逃げて衛兵か騎士を呼んで来てもらえないかしら?」


 すると彼女は、ほんの少し考える素振りを見せた後、私の目を見据えて話し始めた。


「……よかったら御一緒させてもらってもよろしいでしょうか? 私、多少魔法の心得があります。足手まといにはなりません」


 とても可憐で、可愛らしい彼女。しかし今は、凜々しい顔つきで私を見つめている。

 強い意志を感じるけど、何か理由が……?

 説得するとしても、時間が惜しい。いざとなれば彼女の魔力を利用することができるかもしれない。

 それに、さっきからどうも、この子に見覚えがあって気になって仕方ない。一緒にいれば思い出すだろうか?


「分かったわ。一緒に来て頂戴」

「はい!」

「そういえば、名前を聞いていなかったわね」

「私は、カリカ——カリカ・シーカと申します」


 ああ、思い出した。

 彼女は、乙女ゲームの……主人公だ。

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