Sex Friend :4
そして金曜日。レストランには宮ノ内さんがいた。手を上げて私に笑顔を向け、「良かったら一緒に」と言った。先週のお礼だそうだ。
◇
食事を、誰かと……。私の夫を知らない、私の境遇を知らない誰かと……。誰か元気な人と、会話をするのは楽しかった。私を知っている人は、みんな、私のことを可哀想、と言う。もしくは、大変だね、とか。
可哀想なんかじゃない! そう、態度で示したかった。私は洋平を愛しているのだからって。愛されていたのだから。きっと今でもって。
介護をしていても、おつりがくるくらい、それまで洋平との生活で幸せをもらったって、そう証明したかった。
でもそうやって、みんなの、おそらくだけど優しさを突っぱねていたら、いつの間にか孤独になった。
そんな生活を8年。限界が来ていたのかもしれない。
その晩、私は小悪魔的になった。食後、カフェの外に、宮ノ内さんと出て、自分から送りますと言い、それから携帯で介護士さんに、遅れると連絡した。
車の中で、自分の境遇を宮ノ内さんに涙して話した。決してそれは嘘ではないけれど……。彼は、「もう少し話を聞きましょうか?」と言ってくれた。私は計画的だった。まんまとアパートに上がり込んだ。誘ってくれた宮ノ内さんはオロオロし始めたけれど……。そんな彼にコーヒーを頂きたいと甘えた。計画的に。寂しそうな私を、きっと今、宮ノ内さんは可哀想だと思っているだろう。
可哀想? そうだ。可哀想かもしれない。
私は可哀想なのかもしれない……。
「インスタントコーヒーだけど、どうぞ」
そう言い、宮ノ内さんが差し出してくれたそのカップを両手で持って、できるだけ、できるだけ、可愛い声で、「誰かに甘えたかった」言ってから、コーヒーを啜った。私の口紅のあとが、くっきりと白いカップについた。
彼も寂しかったのだろう。宮ノ内さんは、もう駄目だった。そういう雰囲気にすぐになった。
「俺で良かったらいつでもどうぞ」と優しく言ってくれたその声に、なんか下心がはっきりと見えた。だからすぐに、「じゃあ、お言葉に甘えて」って、彼の隣に座り、ゆっくりと肩に頭を乗せた。
元気な人のぬくもりを肌に感じたら、それは久しぶりすぎて、洋平が元気だった頃の幸せだった思い出が鮮明に蘇りすぎて、また、私は洋平と結婚して良かったのだと思った。
それから毎週金曜日、宮ノ内さんに慰めてもらっている。
◇
私達は、たわいもない会話や、お互いの結婚生活の昔話をする。宮ノ内さんは、本当は離婚したくなかったそうだ。でも、どうしても奥様とは会話が噛み合わず、口論になるのだとか。
私には想像できない。彼は始終穏やかに、呆れたような、だけど柔らかい話し方をする。人間って、誰が悪いとかではなく、相性なのだと思った。
それから、宮ノ内さんの話を聞きながら思った。
宮ノ内さんは、あたしの夢――男の子と女の子の子供がいる。なのに離婚……。つまり色んな人生があるのだなぁ、と……。そんな当たり前の事を思って、それが、私を支え始めた。
◇
今、前向きに、介護できている。洋平の顔を見て、微笑むことができるようになってきた。毎週、宮ノ内さんに会って甘えているうちに、また、洋平と寄り添って生きようと思えるようになった。
介護をまだしばらく続けれそうだ。
最近、洋平の寝顔を見て、やっぱり愛されていたあの頃を思い出して、感謝で、少し泣けるようになった。心に優しい生きるエネルギーが湧いている。
◇
私と宮ノ内さんは、無責任に愛し合うことができている。
私には、セフレがいる。神様に感謝している。
《了》
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