第36話 リアルトーク

 宮田が止めるのも聞かず、沙樹はウキウキしながらボストンバックにお泊まり用品を突っ込むと、詩季の家に泊まりに行ってしまった。


「亘さんは、その、いいんですか?」


 超絶可愛いとは言え、恋人が男の家に泊まりにくのは嫌だろうと、宮田は心配になる。


「俺もまぁ、男の家に行くなんて許さんと怒ったんだが、あいつは一度決めると頑固だからな」


 俺に似て、と言う言葉を飲み込んでため息をつく。


「ですよね」


 何だろう。自分から振ったくせになぜだかダメージを受けてしまった。


(本当に付き合ってんだな)


 ここは無限の中の会議室だ。

 詩季の芸名がユリアだと言う事と、新しい情報を共有するために亘に来てもらった。


「で、亘さん。これがその男です」


 なんだか暗くなってしまった気持ちを立て直し、詩季のログから取った男のデータを表示させる。


 端正な顔立ちだが、よく見ると体全体が薄汚れていた。


「先生にデータを送りました。今日中に返答がくるはずです」


「あぁ」


 亘が、じっと男の顔を見つめる。


「こいつは、どうして同じ名前の奴ばかり殺すんだろうな」


「先生が言うには、そうインプットをされているからだろうと」


「何だってそんな変なインプットをする?」


「そうですねぇ」


 考えてみるが、わからない。


「ゆりあと言う名前の女に振られて恨みがある、とか?」


「……」


「言ってみただけですよ」


「いや、その可能性もある」


「本当ですか?」


 めちゃくちゃ適当に言ったのだが。


「つまり、殺しの動機を持っているのは、アンドロイドじゃなくて人間の方だって事だ。ロボットは恨みで人を殺したりしねぇだろ」


「えぇ。確かに」


 こいつを捕まえたとしても、その裏にある人間を引きづり出さなければ意味がない。


「わからない事だらけだ。2ヶ月前からずっと止まっていた殺しがなぜ昨日になって再び動き出したのか? なぜゆりあを襲うのか?」


 亘はしばし画面を睨んだあと、宮田の方に顔を向けた。


「宮田。13人の名前と住所がバレたのは、ネットワークにハッキングしたか、裏帳簿を入手したかのどちらかだろうと、無限は考えてたよな」


「えぇ。個人情報を売っている悪徳業者はたくさんありますから」


「その中に書いてあるのは、勿論本名だろ?」


「……そうか」


 犯人が正式な情報を受け取っていれば、詩季は襲われるはずがない。


「宮田。櫻井詩季がユリアと名乗っている場所は?」


「ネット上です。動画サイト、SNS、あとはネット上のコミュニティ」


「その中で一番利用者の多いサイトは?」


 次々にくる亘の質問に、宮田は必死で食らいつく。


「えっと、リアルトークと言うアプリです」


「詩季のページを見せろ」


「はい」


 ワークアームで表示させたページを画面共有で会議室の巨大スクリーンに映す。

 詩季の日記や友達とのやりとり、動画更新のお知らせなど、様々な情報が集まっている。


「この中から、詩季の家が割り出せる投稿があるか探し出せるか?」


「え! ちょっと待ってください。システムにかければ」


 個人情報保護のシステムをインストールする。

 次々と、危険度の高い情報から順に投稿が表示された。


 近所で買ったプリン! 今から食べます、の写真には店名が。またある日の写真には、部屋の位置が特定できる建造物が窓の外に写り込んでいる。


「場所、特定できます!」


 宮田は叫んだ。点と点が線で繋がっていく感覚を覚える。

 デバイスを操作しながら口が勝手に動く。


「今までの被害者が全員そのアプリを使用しているか。そして、住所を特定できるような写真を投稿しているか、すぐに調べます」


「同時に、新たなターゲットも探してくれ。セキュリティが強い家に住んでいないって言う条件もつけろ」


「はい!」


 ゆりあ、と言う文字を入れると画面一杯にユーザー名が表示された。


(この中から、新たな被害者が出るかもしれない)


 目の前に映るゆりあ達の笑顔が、宮田に迫る。


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