4章 柚李安
第25話 新たな調査
宮田は無限の専用施設でログを見直している。
次のターゲットは、6番目に死亡した工藤柚李安、48歳、結婚しているが子供はおらず、殺される直前までゴミの収集工場で管理人として働いていた。
「このグズ! 収集ロボットの点検が終わったらすぐに報告しろって言ってんでしょ! 何度言ったらわかんのよ!」
キンキン声が頭に響き、宮田は顔をしかめた。
「何? 声小さくて聞こえないんだけど! 言いたい事があるなら言いなさいよ! え?」
柚李安が声を荒げている相手は、
柚李安はよほど弥生が気に入らないらしく、ログを見る限り毎日毎日飽きもせずに彼を怒鳴り散らしていた。
(でも、この男の態度も問題だよねぇ)
弥生はボソボソと言い訳を繰り返すばかりで謝罪の言葉一つ言わない。いつも無言でゴミを収集していて、他の同僚と話すそぶりもない。
(これはいじめたくなるわぁ)
というのが宮田の意見だった。
「全部やり直しておいて。明日の朝までによ」
「……」
ボソボソと弥生の口が動く。
「は? なに?」
宮田はデバイスでボリュームを上げた。耳を
「この量を全部は、無理です」
弥生の声を何とか聞き取る。
「はぁ!?」
今度は大きすぎる。すぐにボリュームを絞った。さっきから宮田はこんな作業ばかりしている。
「無理かどうか聞いてんじゃないの! やれって言ってんのよ!」
「でも、この仕事は今月中まででいいって……」
「直前に報告受けて、またやり方違ってたらどうすんの? やり直す時間なくちゃ困るじゃない」
「いえ、もうやり方はわかりました」
「信用できるわけないでしょ! 昨日も今日もミスばっかり!」
「作業の途中に報告を挟むのも、途中経過を記録しておくということも、俺は知りませんでした。」
「知らないなら聞かないと! なに? 私が手取り足取り教えないと貴方って何もできないの?」
「……」
弥生がうつむいていた顔を上げた。
長い髪の隙間から、血走った目が見える。
「何よ。文句あんの?」
「いえ」
工藤の視線が動く。弥生を一瞥し、事務所に戻っていくようだ。
その一瞬、
「あれ?」
弥生の口が微かに動いている。
ログを一時停止。口元を拡大しスロー再生。
殺してやる……
宮田がいる小さな部屋に、その言葉が響き、そして消えた。
弥生の顔をじっと見つめる。
(こいつ、探るか)
宮田は重い腰をあげた。
***
次の方針が立った宮田は、亘を呼びに家を訪ねる。亘の無限嫌いは継続中で、敷地内に住んでいるというのにほとんど出社しないのだ。
「あれ?」
家の前まで来ると、ちょうど亘が出てくるところだった。トレンチコートに革靴を履いている。
「おー……ぃ」
手を上げたまま停止する。
その後ろから、沙樹が出てきた。
「待ってよ!」
「なんだよ」
「これ、忘れ物」
赤いマフラーを亘の首に巻き付けようとする。
「ちょ、届かない!」
沙樹が文句を言うと、渋々という感じで亘が背を丸めた。
その首に向かってくるっとマフラーを投げる。
「はい。今日も夜から冷えるから、風邪ひかないようにね」
「あぁ、それにしても。このマフラーは子供っぽくねぇか?」
両端にある白いポンポンを摘みながら、亘が不満を漏らす。
「良いじゃん。可愛いよー」
「ウルセェな。可愛くてどうすんだよ」
文句は言いつつ満更でもなさそうな亘が、こちらに向かって歩いてくる。
(やば!)
一部始終を呆然としながら眺めていた宮田は我に返る。
踵を返し、全速力!
(嘘だろー)
沙樹と亘が? 親子くらいに歳が離れているが、枯れ専ってやつだろうか? 渋いところがいいってか?
「ああああああ!」
叫びながら敷地内を一周して戻ってくると、宮田の家の前には可愛らしいマフラーをした亘がいた。
「おい宮田! お前どこほっつき歩いてたんだよ」
「はぁ、はぁ……すみません」
「なんだジョギングか? それがいい。お前は刑事にしては弱すぎる」
「いやぁ、あのぉ」
「なんだ?」
「その……」
仲睦まじそうな二人の姿が脳裏に浮かぶ。
「いや、あの、いいマフラーですね」
「お、そうか? 俺には派手すぎるがな」
心なしか亘の頬が赤かった。照れているようだ。
(まじかー)
なぜだか仕事のやる気が一気になくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます