第14話 取り調べ
亘はアサギが薬を購入した商店街で、再度聞き込みを開始した。宮田からもらった調査官のIDを表示させると、皆色々と話を聞かせてくれる。だが、やはり有力な情報は何一つ得られなかった。
アサギの事を悪くいうものはいない。皆笑顔の可愛い人懐っこい子だと話す。
そしてここの人達は調査官の事を便利屋と誤解しているのか、聞き込みが終わると今度は亘に雑用を依頼してくる。
Aさんの場合
「調査官さん。キララちゃんが数日前から行方不明なの」
「キララ?」
「うちの犬よ」
「犬ですか」
「犬と言っても私の家族ですからね。ちゃんと手術してヒューマログもつけてあげてるの。だからキララちゃんのログを見て貰えればどこにいるかわかるわ」
「いやぁ、確かログは設置されてる本人がいなきゃ見られないはずですよ。その都度変わるIDとかいう奴を入力しなきゃならんので」
「あらそうなの? じゃあやっぱり探して頂けます?」
Bさんの場合
「もう腰が痛くてねぇ。重い荷物を運べなくて困ってますよぉ」
「そりゃ大変ですね」
「イタタタ! 家まであとちょっとなんだけどねぇ。角を曲がった所なんですけどねぇ」
「はぁ」
「あー! 誰か運んでくれないかしら?」
Cさんの場合
「清掃ロボットの調子が悪いんだけど、見てくれる?」
「いや、俺にはわからんです」
「え? 調査官なのに?」
「えぇ」
「じゃあ誰がわかるの?」
「ロボットの管理会社じゃないですかね」
「じゃあ管理会社に連絡して」
「俺がですか」
「当たり前じゃない!」
出来るだけニコニコして頑張っていたが、イライラがピークに達するともう笑顔は作れなかった。仏頂面に戻った亘に、もう誰も近づかない。最初からこの顔をしていれば良かったと後悔する。
(どうしたもんかな)
刑事の仕事は8割無駄足だと宮田にはいったが、なんの成果もないと流石にくじけてくる。
公園に寄ると、小さな子供が集まって花壇を掘り起こしていた。
「おい。何やってんだ?」
子供達は亘の顔を見ると、鬼だ! と言って逃げていってしまった。
若干ショックだ。
「失礼なガキどもだ」
花壇を見ると
「!」
死んだ鳩が1羽、穴の中に埋まっている。
子供達が殺したのか? いや、鳩に触るともう硬直が進んでいた。死んでいるのを見つけて埋めてやっていたのかもしれない。
鳩を見つめていた亘。気づくことがあった。
「……もしかしたら」
ワークアームを使って宮田に連絡を取る。
「宮田! 急いでこっちに来い!」
「なんですか、いきなり。まったく人使いの荒い人だなぁ〜」
死んだ鳩の瞳を見つめる。
「行けるかもしれねぇ。うまくいけば」
***
「おい! どういう事だ宮田!!」
怒号が鳴り響く。
ここは無限の中にある取調室だ。
目の前の白い壁には、一人で座っているアサギの映像が映し出されている。
この映像はバーチャルで、実際のアサギはここにはいない。
「アサギはどの部屋にいる! 答えろ!」
九谷が宮田の胸ぐらを掴んだ。
「教えられません。九谷主任に乗り込まれたら困りますから」
九谷の息が宮田にかかる。
「史上最年少の長官だかなんだか知らないが、調子に乗るなよ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ」
亘が、九谷の手首をとって捻りあげた。
「いっ!」
「強行班のお偉いさんが、こんな老いぼれに後ろを取られちゃいかんでしょ」
笑いを浮かべならがその手を離した。
「お前は誰だ!」
「この人は元捜査一課の刑事、亘夢路さんです」
宮田は首元のボタンをゆるめながら九谷を睨む。
「須藤アサギの犯罪について、証拠を見つけてきてくれました」
「アサギが何をしたっていうんだ! お前ら、俺の娘に恥かかせて、タダで済むと思うなよ!」
九谷は怒りで体をワナワナと震わせている。
「はは。そのセリフ、本当に言う人いるんだ」
「宮田、そうからかうな」
「それもそうですね。では、行ってきます」
宮田が自動ドアを開け外に出ていく。後を追おうとした九谷の前に、亘が立ちふさがった。
「おっと、ここから先は長官にお任せを」
「……再調査の許可は降りていないはずだ」
「あんたは知っていたのか? 娘がやった事を」
「なんのことだ! 知るわけない! 俺は何も、知らない!」
その顔に、明らかな動揺が広がった。
***
アサギが待つ部屋へ宮田が入っていく。
向かいの椅子に腰を下ろすと、アサギは魅力的な笑顔を浮かべた。
「お久しぶりです、宮田さん。体調はもういいんですか?」
「えぇ。おかげさまでー」
「今日はどのようなご用件で?」
見つめ合い……
宮田が動く。
「……須藤アサギさん。貴方を、逮捕します」
「え?」
手首にリングが出現した。ガチャン! と両リングがくっつく。
「!」
「九谷主任の娘である貴方なら知ってますよねぇ。逮捕者のログは閲覧許可を貰わなくても見ることができるって」
「逮捕? 証拠もないくせに逮捕とは、笑えますね」
「証拠はありますよ」
「ないわ」
「これです」
ワークアームのボタンを押し、空中ディスプレイを表示させる。
それは”誰か”のログ。
アサギがしゃがみ、目線を合わせてくる。
目の前で注射器に薬品を注入している。”誰か”は体が硬直して動けない。
「これは……」
そのふわふわした腕を取って、注射針を刺した。
直後、唸り声をあげ”誰か”が苦しみだす。
倒れ、絶命するその瞬間、見えたのは微笑を湛えたアサギの顔だった。
「……これは、誰のログなの」
「キララです」
「は?」
「貴方に殺された、犬ですよ」
「……!」
気づいたアサギの表情に、初めて動揺が走る。
「許可なしにログを見るには、条件があります。その人が犯罪を犯しているという明確な証拠がある場合、そして」
アサギの耳に顔を近づけ、囁いた。
「その人物が死んでいた場合」
「!」
「亘さんが聞き込みして出会ったんですよ。犬を探すおばさんとか、土中に埋められた鳩とかね」
アサギが唇をかんだ。
「野良犬にヒューマログが設置されているとは思わなかったんでしょう。ですが、この犬は飼い犬です。そこに気づかなかったのは痛いですねぇ」
「……」
アサギに対しても、別件逮捕が有効ではないかと宮田に提案したのは亘だった。
アサギが薬物の調合のため人に使う前に動物で実験をしていたのではないかと言う予想はドンピシャにあたり、商店街で聞き込みをすると鳩の数が減った、野良猫が見当たらなくなった。などの証言を多く得られた。
宮田と亘はアサギの家に忍び込み、その庭を掘った。(ちなみにこの行為は完全に違法だ)。土の中からは、様々な動物の死骸が見つかった。その中で、比較的毛並みの良い犬を見つけデバイスにかけると……ヒューマンログを設置されている事が判明したのだ。
「動物愛護法の違反により、あなたを逮捕します」
アサギの目が揺れる。
「これで犯人となったアサギさんのログは閲覧許可がなくても見られますねぇ。その中で、もっといろんな犯罪が出てきちゃったりして」
「ダメよ」
アサギがつぶやく。
「ダメ」
突然、アサギが宮田めがけて体をぶつけてきた。
「私のログは、誰にも見せない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます