第2話 クリームソーダ
数分後、山本刑事が健太と手を繋ぎやってきた。
「よお、健一。泥棒に入られるとは、お前も出世したものだな」
「しゅっせしたな」
と山本刑事の後、続けて健太。
山本は百合子の弟で、健一にとって義理の叔父に当たる。
「泥棒に入られて出世って、なんだよそれ」
「まあ、お前の作品が評価されたって事だろ」
「作品が評価と言うより、金額がだろ?」
「高値で買うやつがいるって事は、評価されたって事だ。俺には理解出来んが」
山本には健一の作品のどこが良いのか、全く判らない様だった。
「有り難い事だけど、これからは防犯を意識しないとダメだな。由美や健太、それに美幸もここに連れて来るから」
「今日は美幸、家か」
と、ぼけたような顔が呆けたような顔になっている。
姪の由美にも甘かったが、その娘の美幸は目に入れても痛くないようだ。
「ああ、百合子さんと由美がみてくれている」
「そうか、それなら家に行った方が良かったかな」
どうも本気で言っているようだ。
健一自身、娘の美幸が可愛くて愛しくて、山本の反応に複雑な気持ちだ。
「健太をありがとう」
「パトカーのサイレンが気になったようでな、喫茶店の前にいたから連れてきた」
「俺が浩二を連れて来た」
浩二は山本刑事の名前だ。
百合子の弟だから言わば大叔父になるのだが、山本も百合子と同じ理由で名前で呼ばせている。
”浩二おんじ”と呼ばれていた頃もあったが、いつの間にか”浩二”と呼ぶようになった。
山本も孫のような健太にそう呼ばれるのがうれしいようで笑顔で答えてくれている。
「そういえば健太、変な事を言っていたな。匂いがどうとかこうとか」
「気にしなくて良いさ。あの子の表現は微妙なところがある。親の僕にも時々判らないような言い方をする」
そう言って健一は流すが、健太にも自分と同じような感覚があると思っていた。
「そういえばクリームソーダも色によって匂いが違うと言っていたな。俺には同じ匂いに思えるが、子供の感覚は面白いな」
目尻を下げながら話す山本。
「俺は変じゃないぞ。クリームソーダは色で匂いが違うんだ、本当だ」
「味は違うのかい」
と尋ねる健一。
「クリームは甘い、ソーダはシュワシュワ」
健太の返答を目を細め、愉快そうに見ている山本。
色によってシロップの味を変える店も多いようだが、行きつけのあの喫茶店はマスターがソーダに食用色素を入れてだけで、味は同じなのを山本は知っていた。
健太の感覚が健一には少し判る気がする。
「今日は何色のクリームソーダ?」
「赤、今度は青にする」
クリームソーダにハマっているのだ。
「健太。今度は俺と一緒に来ような」
そう言って山本刑事はその場から離れていった。
多分、美幸に会いに行ったのだ。
以前は申し訳ないと思っていたのか百合子に直接会うのを避けていたが、健太と美幸が良い触媒となってくれているようで百合子がいても良く顔を出すようになっていた。
「ところで健太、今日は作業場で何をするんだい」
「正義の味方を作る。そんで由美と美幸と百合子さんを守って貰う」
「・‥。何かあった?」
「匂いの無いやつが家の近くにいる」
「マンションの中にかい」
「うん」
「正義の味方を作るのなら、そいつは悪いやつかい?」
「匂いが無いから判らん。心配だから作る」
微妙な何かを感じているようだ。
健一は組織の見張り役だと考えていた。
問題は何故、誰を、何のためにと言う事だ。
組織からは何の連絡も無い。
健一自身、気にはしていたのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます