第15話 失われた十年

 挙式も滞りなく終わり、結婚披露宴も新郎新婦登場から、挨拶、ケーキ入刀、食事にお色直しと一般的な結婚式のパターン通りに続いていった。

「さすがに帝国ホテルやな、めしが美味い」もっちゃんが言った。

「もっちゃんの結婚式の時も美味かったで。まあもっちゃんは食えてなかったやろうけど」

「あれは食べる暇がないわな。山中の時も食べられへんかったんとちゃう?」

「あれな。実は結婚式の後、ホテルの部屋で同じ料理を一部用意してくれて、食べる事ができてん」

「まじで。そうかホテル・ウエディングはそういうプランもあるんや。知らんかった」


 僕らは神戸の北野ホテルで挙式し、もっちゃん夫妻は東京のお台場にあるウエディング専門の式場で挙式した。

「山中の時の北野ホテル、めっちゃ美味かったで。めっちゃ美味かったってうちの奥さんに言ったら、自分も食べてみたいって言うんでこの前連れてってん」

「ほんまに、北野ホテルまで。そう言ってくれると嬉しいわ」


 お色直しのあと各テーブルを回っていた新郎新婦が壇上に戻り、次は日本酒の樽の鏡割りだった。鏡割りが終わると、和装の新郎新婦を「かわいいー!」という声をあげた、新婦の友人と思われる女性たちが、大きな一眼レフカメラとスマホを持って群がった。

「あれじゃ撮影の邪魔になって、酒取りにいけへんな……」もっちゃんは言った。

「まあ酒はあきらめよ。せやけどみんな、ようけ写真撮っとるね」

「インスタとかツイッターに載せるんやろ? 結婚式なんかインスタ映えの塊やん?」

「あの子ら若いね。新婦は何歳やったけ?」

「うちの奥さんと同い年やって聞いたから、七歳下の二十八のはずやで。あのぐらいやったらあんなもんちゃう?」

「そりゃ若いはずやな。あんなもんか」僕は言った。


 もっちゃんが阪神電車で帰るというので、僕も阪神電車で帰ることにした。阪神梅田駅のホームに待機していた特急電車に乗り込むと、僕らはスーツの上着を脱ぎネクタイを外し引き出物の入る紙袋の中に入れた。


「七月はさすがに暑いな。何もこんな季節に結婚式せんでもいいのに……」僕はワイシャツの袖をまくりながら言った。

「でも女性にはその方がいいっていう人も多いらしいで? ドレスとか衣装とか、寒い季節よりかはよっぽどいいって」

「あれやな。電車とか職場の冷房問題みたいな、永遠の課題のひとつやな」

 僕らは阪神西宮で普通電車に乗り換え、阪神打出駅を降りた。土曜の午後八時だったが、阪神打出駅は多くの人が降りて行った。打出商店街を南に歩いていったが、一日履いた履きなれない革靴が痛かった。


「知らん間に年取ったと思わへん?」もっちゃんが聞いてきた。

「なんか知らん間に年取ったわ。十年とかあっという間に過ぎた気がする」

「僕もそう思う……」僕は言った。

「これからも十年ぐらいとか、あっという間に過ぎるんかな?」

「せやけど、もっちゃんは娘がおるやん。娘の成長を見ないかんやん」

「まあそれぐらいやろな、これからは……」もっちゃんは言った。

「ほなまた年末にでも」と言い僕はもっちゃんと別れた。家に帰る途中僕はコンビニでウイスキーを買って帰った。

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