第11話 阪神ビションフリーゼーズ
「あなたは完全におっさんやね!」妻はあきれたように言った。
僕らはダイニングテーブルで向かい合い夕食を取っていた。妻は僕の焼いたビーフステーキをナイフで切り分け、僕はビールを片手にコロッケを二つ食べていた。妻へのリスグラ記念に僕が用意したプチ贅沢だった。
「めっちゃおもんないやんイヌスタ。それからね、天王寺さんにはうけたって言っとったけど、阪神ビションフリーゼーズも全然おもんないで?」
「おもろいと思ったけどな。選手全員ビションカットのヘルメット被るねん」
「おもんない! おもんないって言うより何より弱そうや。どう考えてもビションフリーゼで勝てるわけない。ただでさえ弱いチームをより弱そうにしてしまってどうするん。人生で一回ぐらいしか優勝見られへんで?」
「冷静に考えてみ。カープは鯉や。犬は鯉にやったら勝てるかもしれへん」
「あほらし!」妻は切って捨てるように言った。
僕はコロッケのソースを冷蔵庫から取り、ティッシュ・ボックスを机の上に置いた。
「まあでも、悩める十代やね……」妻はいかにもな表現をした。
「聞いてて思ったわ。悩みのない十代なんかおるはずないやろうから、まあ自然と言えば自然なんやろうけど。ラインって子供が使うのはどうなんやろうね? 僕はまだ小学生は難しいんちゃうかなって思ったわ」
「あれやで。あんまりいらん事聞いたりしたらあかんよ。ただでさえシングルマザーの難しい家庭やのに、友達や学校やきっと他にも悩んでたりもするはずやん? 良かれと思って話したり聞いたりしたことが、裏目に出ることもあるんよ。言うてたやんあなた。兄弟のこと話して失敗したって」
「まあその辺も気を付けます」
「以前も言ったと思うけど、あんまり深入りしたらあかんよ」
「解りました……」
「それから一応言うとくけど、あなたも嘘の仕事に行ってるんよ」
「どういうことそれ?」
「あなたはね、私の職場では嘘の仕事に行っている事になってるの! 旦那が無職なんて、恥ずかしくて言えるわけないやん!」
それは初耳だった。僕は申し訳なく頭を下げた。
「でもなんであなたはコロッケを食べてるの? あなたの分もステーキ肉買ってきたら良かったのに。竹園のお肉めっちゃ美味しいよ」
「それは君のリスグラ記念です。勝者のステーキ。それに僕はこの竹園のコロッケが好きなんよ。子供の頃はこれが昼のおやつやった」
「そんなん気にしないでも良かったのに。でもあなたの焼くステーキは本当に美味しいね。芦屋でステーキハウスを開いたらええんちゃう。ステーキハウス『リスグラシュー』っていい感じやない?」
「勝手に名前を取ってはいけないし、元手がありません。それにそのステーキは素材がええから、美味しくなるに決まっとる」
「元手は私が作るわよ!」妻は自信ありげに言った。
「どうやって?」
「来年の宝塚記念は上限の二万円を解除して、青天井にしてもらえれば……」
「絶対にダメです!」僕はやれやれと思った。
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