第3話 美しい少女はビションフリーゼを連れて歩く
次の日の散歩で出会ったその女の子は白い帽子をかぶり、品の良さそうな白いワンピースを着ていた。その子は切れ長の目をしていて、一目見てこの子は将来美人になるのだろうなと僕は想像した。その子の手元には僕が使っているものと同じタイプのフレキシの伸縮リードが握られ、伸びるコードの先に白い小さな子犬を連れていた。
「その子、ビションフリーゼですか?」女の子は僕に声をかけてきた。ルーシーは白いトイプードルと思われる事が多いので、僕は驚いて言った。
「せやで、ビションフリーゼ。よう分かったね」
「この子もビションフリーゼなんです」
彼女の連れている犬は小さく、またビション特有のアフロカットでもなかったが、確かによく見るとルーシーの子犬の頃の姿によく似ていた。
ルーシーは彼女の連れた犬に興味深々といった様子だったが、その子犬はまだとても臆病そうにしていたので、僕は距離を取ってルーシーを引き留めていた。
「そうなんや。ほな、まだ子犬やね」
「ミーちゃん四か月」
「そりゃ僕が思ってたよりかなり子犬やね。ミーちゃんって言うんや。なんか猫みたいな名前やね?」
「うん。犬やけど、ミーちゃんです」
この子も猫みたいな名前だとは思っているようだった。
「その子の名前は?」
「こいつはルーシー」
「ルーシーって、スヌーピーの女の子?」
「いや、オスやけど、ルーシー。ルーちゃん三歳です」
「ミーちゃんもルーちゃんみたいになんのかな?」
大きさのことか、ビションカットのことを言っているのだろう。
「まあ普通にしてたらなると思うよ」
「普通って?」
「そうやねえ、トリミングは月に一回やね。トリミングっていうのは犬の美容院やけど、まあその辺はお母さんとかが知ってるはずや」
「ミーちゃん、ルーちゃんと挨拶できるかな?」
「そうやねえ、初めてやから慎重にしないとね。見た感じミーちゃんは少し怖そうにしてるから。ちょっとだけ近づいてみようか……」
僕は尻尾を立てて期待している様子のルーシーを、少しだけミーちゃんに近づけてみた。近くで並ぶとミーちゃんはまだルーシーの半分ほどの大きさに見えた。恐る恐るといった様子でルーシーを見ていたミーちゃんだったが、ルーシーの鼻に自分の鼻を一度触れさせると、突然尻尾を立て左右に勢い良く振り始めた。
「すごい。ミーちゃんめっちゃ喜んどる!」
「よかったな、ルーシー。受け入れられたかな」
ミーちゃんは立てた尻尾を勢い良く振り続け、ルーシーの周りを左右に動き回り、伏せの格好になったりしながらルーシーと鼻を合わせていた。
「若いなミーちゃん。めっちゃ元気や」
「ルーちゃんまた会ってもいいですか?」
「もちろん。大体いつもこの公園を散歩してるから、君も来たら会えるよ」
「ありがとうございます」
僕の方がありがたいかもしれない。こんなかわいい犬友達なら大歓迎だと思った。
「ルーちゃんの写真撮っていいですか?」スマホを取り出しながらその子は言った。
「かまへんけど、なんかに使うの?」
「お母さんに見せるねん。あとインスタも」
「そうか。良かったらインスタまた見してね」未だにガラケーを使う僕は笑って言った。
写真撮影が終わり、別れ際に僕が「その帽子は日焼け対策なん?」と聞くと「お母さんが被りって、ダイソーで買ってもらってん」と言った。
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