第15話 世の中に絶えて酒肴のなかりせば(「しゃぶ×バルTAMARI」さんの万国博)
今の下通の人口密度はいかほどであろうか。
満員の電車に比べれば、今の夜の街は余程安全なのではないかと錯覚するほどである。
ただ、密接に話をすることを考えれば今は座して待つべき時なのであろう。
だからこそ、その中で凛然と戸外に立つ男性を見かけた時、その日の晩餐は決まった。
まずは、開けた小籠包に邪道と知りつつ大量の酢醤油をかける。
店であれば蓮華の上に酢醤油を垂らし、そこに刻み生姜を添え摘まんだ小籠包とともに口に運ぶのがいいのであろう。
ただ、そのような儀礼的な食べ方も家であれば不要である。
我欲に従い、箸で摘まんでそのまま口に運ぶ。
熱湯の水風船という恐怖が消え、純粋に小ぶりの饅頭としての味が楽しめる。
続いて豚しゃぶサラダで野菜を補給する。
どうしてもこうした食事を繰り返していると生野菜が恋しくなるが、その思いを晴らすに十分な量であった。
そこにゴマダレをかけて大口で飲んでいくのであるが、どのような人物がこの肉のためのタレを思いついたのかと考えるほどに自然と頭が下がる。
当たり前のものは当たり前ではなく、振り絞られた脳漿と努力の連続によって初めて成立する。
そこに楔を打たせるわけにはいかない。
私もまた飲むのを止めずビーフシチューに匙をつける。
飲み始めの頃は食いでのある揚げ物や肉をあてにし、汁物などで酒が飲めるかという姿勢であった。
それが今では煮汁や出汁で酒が澱みなく進んでしまう。
特に、ブラウンソースでしっかりと煮込まれたビーフシチューは赤ワインだけではなく力強い日本酒などにも合う。
肉の旨味をしっかりと噛み締めれば酒が止まらなくなる。
そして、いよいよ焼肉弁当に箸を伸ばすが、ここで自分の節操のなさに気付いてしまった。
ただ、もう遅い。
一人でこれほど多種の食に触れられる有難みに感謝しながら、白飯と併せて肉をいただく。
やはり牛肉とタレと白米のコンビネーションは罪深いほどに酒に合う。
あとは炭水化物とアルコールというカロリー爆弾を体内に収め、静かに手を合わせた。
そろそろ膨らむ腹に怯えつつ、それでも、そのまま床に就いた。
【店舗情報】
「極上しゃぶしゃぶとイタリアン&アジアン しゃぶ×バル TAMARI」
〒860-0807 熊本県熊本市中央区中央区下通1丁目12−29 浜田ビル 2F
電話番号:096-355-2800
営業時間:11:00~17:00/平日:17:00~25:00/金・土・祝前日17:00~27:00
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