第16話 己を知り酒肴を知れば百杯危うからず(「磯っこ商店」さんの勝鬨)

家に帰りついてからウィスキーソーダを作ると、真っ先に豚汁の蓋を開ける。

一通りの品を注文し終えてから百円で追加できるという一言に、矢も楯もたまらず飛びついたのである。

汁物で酒を飲むのがたまらないという話は書いたばかりであるが、豚汁は飲むにも飲んだ後にも良い。

程よく豚の脂が溶けだした味噌の味は野菜の甘みを包み、その深みを増す。

小さな一杯がジョッキ一杯を空にするまでにそう時間はかからなかった。


深夜営業の雑貨屋に面した通りは僅かばかりにしてもその周囲よりは人通りが多く認められた。

客引きと思しき男女もいるが、いつものような元気はない。

それでも、ここに集まるのは煌々たる電光と陽気な音楽というものが惹きつけるためではないか。

そうした中で、門戸を開いた店が並ぶのは当然の帰結なのかもしれない。

対応された女性の快活な在り方が、その中でも一際印象深かった。


そうした光景を思い出しながら、三種のおつまみセットに箸をつける。

まず、冷奴で頭を冷やし、もろみで落ち着きながらポテトサラダを口に運ぶ。

上に食べる辣油のようなものが乗っており、それが胡椒以上に味を引き締める。

これはいけない。既にジョッキが半分も空いてしまっている。

慌てるようにハムカツを口にすれば、もう止まらない。

ソースのかかったそれに、さらにからしマヨネーズをつけると圧巻である。


ただ、この日の弁当は豚カツとじが主菜である。

単純な豚カツではなく、煮込むことで増した旨味がより酒肴としての存在感を示す。

それを時に白米に載せて食べる楽しみは、かつ丼では味わえぬものである。

付け合わせの煮物も箸休めに丁度良く、時に、梅干を挟むことで口を清める。

そこで新鮮な思いで対すれば否が応もなく酒がすすむというものである。

ジョッキをきれいに干してから、最後に残した高菜と白飯を一口ずつ収めると、掌を合わせて頭を垂れた。


持ち帰りの折をいただく際に、チラシとチケットをいただいたが牡蠣がひとつ無料とのこと。

岩牡蠣の頃に伺えればとささやかながら大きな夢を見るばかりであった。


【店舗情報】

「磯っこ商店 熊本店」

〒860-0803 熊本県熊本市中央区新市街 3-3 岡村ビル

電話番号:050-5269-7331

営業時間:月~木 17:00~翌1:00/金・土・祝前日 17:00~翌3:00/日・祝日 17:00~24:00

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