第13話 Veni Vidi Vici(「サンパチキッチン下通店」さんの我らが海)
イタリアンが食べたい。
ときどき私がこのような発作を起こすのはローマ帝国を中心としたイタリアの歴史が好きだからである。
特に、内乱の一世紀を彩る英傑たちの群像はそれだけで血沸き肉躍る。
そして、英傑たちが「我らの海」として所狭しと駆け回った地中海の豊饒は今、食の在り方となって残されている。
折を開ければ食卓に南伊の香りが来る。
そして、見れば鮮烈な色彩に勝ちが確定する。
トリコローレは「国土」と「平和」と「熱血」の意味を含むそうであるが、それを見せつけられている思いがする。
まず、蒸し野菜バーニャカウダで野菜分を補給する。
このご時世で免疫が求められている以上、こうした酒肴は素直にありがたい。
それに加えて大蒜と磯の香りが単純な甘みで終わらせようとはしない。
次いでクリスピーチキンに手を付けるが、オニオンサワークリームのソースを合わせたのは我ながら名差配であった。
バーニャカウダソースで満たされた口腔を爽やかに清め、鶏の旨味を素直に認めさせる。
合間にジャーマンポテトのピザを一切れ頬張り、息を吐きつつ決戦の場へと近づいていく。
ここで牛すじのトマト煮込みが前に出てくる。
トマトを得たイタリア料理は色彩を増し、その味わいを深めたというのは想像に難くない。
出汁や醤油や味噌で煮込んだすじを芥子で以ってちょいとやるのも味わいがある。
ただ、この独酌に燦燦たる光を与える太陽の味は饒舌にイタリアの良さを青年に語り尽くす。
本当は乙女を口説きたいのであろうが、今の街中にはその姿が少ない。
そうしたラテン気質の悲哀を合間に見せないのは、底抜けの明るさ故であろう。
たっぷりとした汁をも飲み干し、ピザを平らげたところでいよいよ会戦に挑む。
ガーリックライスが堂々と目の前に布陣する。
香りだけで酒を進め、匙を交わせばそれだけで圧倒される。
そこに和牛の旨味が口腔の中で所狭しと暴れまわる。
その全てをウィスキー・ソーダで攻め立て、包み、殲滅する。
僅かな合間で終わった戦いに、今日もまた勝利を収めることができた。
帰りしな、深々と頭を下げられていた店員がふと脳裏に浮かぶ。
今は雌伏し、我々は別の勝利を収めねばならない。
【店舗情報】
「サンパチキッチン」下通店
〒860-0801 熊本市中央区安政町5-21 クリスタルパレス1F
電話番号:096-247-6438
営業時間:【日~木】18:00~翌2:00【金・土・祝前】18:00~翌3:00
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