第11話 我は海の子(「酒湊」さんの綿津見)

「俺は魚しか信じない!!」

この強烈なフレーズにノックダウンさせられたのは、四年前の秋ではなかったか。

秋の深まりに比例し、秋刀魚を食べたいという欲が高まり、抑えきれずに入ったこの店の在り方はそれだけで肴になる。

また、系列の店に「天草研究所」という店があり、そこが私の主戦場であった。

この店の出す串カツは大阪風とは異なるもので、それこそ「牛深流」とでもいうべきものであった。

また、突き出しに出るじゃこおろしがたまらない。

臓腑を整え酒を勧めるこの逸品は本当に憎らしいほどにたまらない。

「100円串カツとハイボールの店 角てん」となってからはコロナの影響もあって訪ねていないが、この天草を誇る飲み屋遺産は守られねばならない。


日曜日に合わせて買い入れたアジフライ弁当を呼吸を整えてから開ける。

儀式の様に開けるのは、プラスチックの使い捨て容器とは思えないほどに重厚な弁当箱のせいである。

そして、開けて真っ先に飛び込んできたのは堂々たるアジフライの姿である。

手を合わせて、タルタルソースをたっぷり搦めてまずはその主役を口に運ぶ。

光物特有の旨味と脂の旨味が一瞬で左脳を制圧し、見事な怪気炎を上げる。

卵焼きで一息つき、肉じゃがで右脳を抑え込むと、今度はあら煮に心を奪われる。

魚自体も美味いのであるが、炊きあわされた牛蒡が土壌の滋味を以て磯の香りを制する。

やはり魚はいい。


もう一度、主菜のアジフライに箸を向ける。

冷凍食品で多い小鰺の開きのフライも乙なものであるが、肉厚の切り身のフライは正しく甲をつけるのに相応しい。

そして、普段のウスターソースの香味よりもタルタルソースの旨味の方がよく似合う。

気付けば肴の姿は消え、ウィスキーソーダも消え、銀シャリだけが残る。

この山の街で嗅いだ潮の香りに恍惚としつつ、休みの晩は更けていった。


【店舗情報】

酒湊さかそう

〒860-0803 熊本県熊本市中央区新市街4−18 松下ビル

電話番号:096-352-7117

営業時間:17:00~24:00

(テイクアウト限定:受取→11:00~19:00/受付→9:00~19:00)

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