第11話 (6-2)お父さんVSお父さん

 目の前で、巨大な自律兵器が倒れた。五mくらいの大きさがある。私たちが宇宙に広がる前、五世紀以上前に起きた第三次世界大戦で使われたものに、良く似ている。

「なんでこうなるのよ」

「さてな」

 自分を父と呼べというふざけたボディガードアンドロイドは、ブラスターを冷却しながらそんなことを言う。周囲をきちんと警戒しているのはよかったが、私は不満だらけだった。

「機械の連中から逃げ出した先で機械の連中に襲われるなんて……」

「こっちの敵の方が倒しやすくていいと思うがね。はて……」 

 無駄に映画のような動きで、パパは倒れた自律兵器を眺めた。ブラスターで焼き切られた胴体から、中身を覗いているようだった。

「最寄りの文明圏から見ても五光年くらいは離れていると思うんだが」

「侵略でしょ。ここを機械の連中の楽園か何かにするつもりじゃないかしら」

 私は予想を口にしたが、パパは自らの顎をなでている。

「こんな田舎では機械ってのは動かないもんだ。メンテナンスが難しい」

「パパは機械でしょ」

「俺くらい旧式なら、なんとかなるのさ。ああ、こいつらもか」

 自律兵器を蹴って、パパは私を持ち上げた。

「なんにせよ、ろくでもない話だ」

 本当にそうだ。私はため息をついた。自分を父と呼べ、でなければ働かないなんていうポンコツとシャワーもないような辺境惑星を歩くのはぞっとしない。

 あまつさえ機械の連中までいるのなら、なおのことだ。

「生ものは滅びるしかないのかしら」

「生とか機械とか、そんなに差があるもんかね」

「私は生ものだから地下の連中に殺された、違う?」

「美人市長による地下クリーニング計画に反発したんだろ。住むところがなくなるとなりゃな……」

「それよそれ。生ものを攻撃するなんて、自分たちの故障を認めているようなものじゃない」

 私が言うと、パパは苦笑した。

「そういうところかもな。まあ、俺としちゃどうでもいいが」

「少しは雇い主をいたわりなさい」

「残念ながら金より娘でな」

「じゃあ、娘を守って」

「はいはい」

 パパは走りながら、私の身体を気遣った。また自律兵器。ブラスターで一瞬で破壊した。

「胸じゃなくて頭が弱点ぽいな」

「どうでもいいから、安全なところへ」

「そいつが分かれば苦労はしないが」

 パパはそう言いながらブラスターを連続して射撃している。ちょっと開けたところにでたら、見渡す限り自律兵器がいた。パパはそれを、全部破壊した。

「下水道から辺境世界へ、連中何を考えているのかしら」

「そもそも同じ連中なのかもあやしいがね……む」

 私はパパが見る方向を見た。黒髪の少年が浅黒い肌の娘と連れだって歩いている。微笑ましいと言えば微笑ましそう。敵意もなさそうだった

「あれがどうしたの?」

「同型だな」

 パパと少年は同時にブラスターを向けた。射撃はしない。ただ、睨み合うだけ。

「こっちと違って父と呼べとか言わない分、まともなのかもしれないわ」

「そんな同型がいるものか」

 見れば向こうは言い争っている。娘のセンスは悪くなさそうだとか少年が言ったのに対して、姉に見える肌が浅黒い娘が、かなり本気で怒っている。

 娘は私だけだと言ったろうが! という、声が聞こえて来た。私は脱力した。パパの言うとおりだった。

「ほんとこのタイプどうかしてるわ」

「娘の心配してどこがおかしい」

「言い争ってパパのパフォーマンスを下げるようなことはしないわ。がんばって、パパ」

「もう少し笑顔で言ってくれ」

「そこまでサービスはしないわよ」

 向こうとこっちのアンドロイドが同時にブラスターを撃った。自律兵器たちが倒れている。

 言い争う場合じゃなさそうね。

「ねえ、協力しない?」

 私は言った。少年はちょっと面白そうに笑ったが、すぐに浅黒い手が伸びてきて、もみくちゃにされていた。

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