第8話(1-2)疑惑のカスタムお父さん

 ちょっと前、少し前までは、二七歳の私は人生の勝ち組だった気がする。自分だけのカスタムお父さんを手に入れたからだ。

 しかし、今ファミレスの家族席、目の前でうまそうに安いミートソースパスタを食べている人は、なんというか、思ってたのと違うとしか言いようがなかった。そもそも全然、真面目そうじゃない。

 そう、優しくて真面目そうな父が良かった。今目の前にいるのは、控えめに見ても遊び人だ。

「あの、アンドロイドは食事とか……しませんよね?」

「最新のはするんだな。これが」

 絶対嘘だと思ったが、強く言い切れない自分の性格がいやだ。目の前のおと……いや、おじさんは、そうおじさんは、ヘラヘラ笑っている。

 悔しいことに一番大事と思っていた目元だけが、ばっちり私に良く似ていた。

 それで、それだけで私は、この怪しい人を拒絶できないでいた。なんだかもう、心は散り散り、気分はばらばらという感じだった。心があがったり下がったりしている。

「えっと、あの、なんの御用……でしょうか」

「親子の交流ってやつだな。ここのワインはそんなに悪くないぞ。おねーさーん」

「庶民的過ぎませんか? じゃない、アンドロイドがお酒飲むわけないでしょ!」

「だから最新なんだって」

「やれやれって感じで格好つけないでください」

 そう言ったら、急に真剣な目で私を見つめてきた。

「格好はいつだってつけていいんだ。娘の前だからな」

 笑ってもいないし、怒ってもいない。ただこれまでの人生の全部をそれが当然だと振る舞い続けてきたように見える言葉と態度だった。

 なんというかそれは、私が本当に欲しいものだったような気がして、それで私は。思わず、うっと声をだしてしまった。可愛い声じゃなかったのは反省している。でも仕方ないじゃない、そんなこと言われるなんて思っても居なかったのだから。

「そ……それはそうかも知れません、でももう少しですね」

「高級レストランで言って欲しかったか? それとも娘以外にも言って欲しかったか?」

 私は少し黙った後、水を飲んだ。いつもならグラスビールを注文して飲んでいるところだが、恥ずかしくてできていない。

「答えは両方ともノーです。でもその、設定ではもう少し真面目な……」

「細かい事は気にすんな。まったく誰に似たんだか」

 少しの笑い、七割のため息と一緒に言われると、なんだか本当の親子みたいな気がするから不思議だ。どこかの映画で見たような親子。実際の親子とは違うのかもしれないけれど、私は映画やドラマ以外の父親なんて知らないし、正直に言えばそういうものからも自分を遠ざけてきた。

 だからそう、なんというか。細かいってなんだよ! もー!

 おじさんは私の顔を眺めながら、ちょっと笑った。勝負あり、とか思ってそうなところがすごく悔しい。

「私は詐欺とか警戒してますから」

「俺を注文した関係で、ほとんど無一文だと思うんだがな。騙しても旨みないだろ」

「そんなところに気を回さないでください」

「だから、最新なんだって」

 私はおねーさーん、ビールジョッキで! と大声を出した。しらふでこのやりとりを続けられる気がしなかった。二七歳仕事に逃げてきた系女子としては、恥ずかしすぎる。

 私はビールを一気飲みすると、ジョッキをおいてお父さんを見た。

「確かに似てるかもしれませんね」

 私はそう言って、自分に似た目元が少し下がるのを見た。

「だろ?」


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