第7話 お嬢様のお父さん

 久しぶりに実家に帰る途中、怒られることを承知で治安の悪い裏町を通って家に帰っていると、うらびれたジャンク屋さんを見つけましたの。

 そこの店先にすてきなおじさまが売ってあったので、わたくし、我慢できずに衝動買いしてしまいました。なんて素敵な骨格構造なんでしょう。昔の人の創意工夫に惚れ惚れしましたわ。

 家に持って帰ったら、案の定、皆から説教と小言の大合唱。向こう一年分くらい怒られました。

 でも、後悔はありませんわ。だってこんなに素敵なおじさまをみつけてしまったのですもの。

 早速寮の自室に送りつけて、部品や工具、表皮用の細胞プリンターなどを持っていきましたの。暇を見つけて作っていくつもり。

 ああ、それにしてもなんてお買い得だったのかしら。そうそう髪の毛を植毛しなきゃね。


 それからは毎日が夢のようでしたわ。寮に帰っては修理したり整備したりプログラミングしたり。ジャンクなだけあってあちらこちらが壊れていますけど、わたくし、見た目に反して電子機器はお任せくださいなんですの。

 私の妹たち、すなわち後輩からは、お姉様、怖いですと言われることもありますけれど、わたくし、自重はお母様のお腹の中に置き忘れて来た系女子ですの。死ぬまで勝手に好き放題ですわ。

 問題は既に生産が五〇〇年以上前に止まってる人工筋肉部分ね。共食い整備する手もあるけれど、私、なるべくオリジナルに近くするとかの原型坊ではありませんので、全部最新のものに入れ替えてしまいます。幸い医療用の人工筋肉はわたくしのお古があまり余っていますからそれを使えばどうにかなるはずですの。

 しかしそうなると人工筋肉の制御系が異なるのでプログラムを書き直さないといけないし、基板も交換になりますわね。ああ、なんて手間がかかるんでしょう。でも障害があるほど愛は燃えますの。そりゃもうメラメラと。

 あっというまに時間が過ぎていって、もうそろそろ一年ですわ。私はそっとおじさまの電源を入れましたの。これまで三回くらい起動実験に失敗して、一度は人工筋肉が暴走してばらばらになったので、若干不安ですけれど、でも私、死ぬまで自重はしない主義なんです。

 ブィンという音を立てて、わたくしのおじさまが立ちました。ああ、立った、立ちましたよ!

 顔もきちんとお作りしてメイクも施してありますから、おじさまはもうどこから見ても白い悪魔、かつてのロックスターにそっくりですわ。髪まで完璧に逆立ててますの。

 やった、やったと小さく手を叩いていたら、おじさまは私を見て跪きました。

 あら、そんなプログラム入れた覚えもないのですけれど。

「大丈夫か?」

 そう言われて、思わず涙が零れてしまいましたわ。人工呼吸器がエラー音を出していますの。

「最後に何か、残したかったの。どんなものでもいいから。それが……心優しいひとで良かった」

 なんとかそう言って、目をつぶりましたわ。ああ。最後の最後まで、あきらめないでよかった。

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