第48話 孤独(6)

空港へ向かって走る赤い車。

運転席の臣人も助手席の鳳龍も押し黙ったままだった。

何を言ってよいかすらわからず、言葉を発することが億劫だった。

鳳龍は腕をウィンドーと窓枠の際にのせるように頬杖をついて外を見ていた。

その窓に映る臣人の横顔を見ていた。

こんな雰囲気の臣人は初めて見た。

自分の中にあるを抑え込もうとしているようにも見えた。

つらそうにも見えた。

それにバーンをあの場に残していった事に対してもおかしいと鳳龍は感じとっていた。

普段ならそんなことをするはずがないのに、なぜ今日に限ってそうするのか。

いつもいつもバーンは臣人に、臣人はバーンのそばにいるようにしていたように思った。

四六時中一緒にいる。

時々は違う行動をとったとしても、それは非常に稀なことであった。

住んでいる場所も一緒。

働いている場所も一緒。

それが何を意味するのか?

そうしなければならなかったのかどうか?

彼らが何を抱えながら生きているのか知らない。

知らない自分がそれを尋ねるのはおこがましいように思えてならなかった。

それについて追及することもできず、臣人の運転する車に揺られながらぼんやりと夜の景色を眺めていた。

そうこうしているあいだに暗闇に管制塔の真っ白な建物と滑走路を照らし出すオレンジ色の照明が見えてきた。

空港が近づいてきた。

ゲートをくぐって、一般車両の駐車場へと向かった。

榊が乗っていた時とは違う、乱暴な運転で車は空いているスペースに駐車した。

タイヤがキッと鳴って止まった。

無造作に臣人がギアをPに入れると、キーを回してエンジンを切った。

「…………」

「臣人さん、」

鳳龍はシートベルトを外すとチャイナ服の内側にあるポケットに手を突っ込んである物を取りだした。

白い封筒だった。

ちょっと角が丸くなっているところをみると常に肌身離さず身につけていたことがうかがえた。

ほのかに墨の匂いが漂ってきた。

「今日これを渡すためにぼくは___」

最後まで言えずに鳳龍は口を結んだ。

臣人は表に書かれた筆跡を見ただけで送り主がわかった。

何も言わずにそれを受け取るとすぐ、シャツの胸ポケットへ放り込んだ。

それを開けなくても書かれている内容については予想がついた。

あの時、警告されていた件だと。

今日、それが現実のものとなったのだ。

「機会があったら國充じじいに礼、言ぅっとってくれ」

「はい」

「これからどないすんや?鳳龍フェイ?」

「もうひとつお師匠様から頼まれごとがあるので、それを果たします」

「そうか」

それ以上は聞かなかった。

聞いても鳳龍は言わないことがわかっていたからだ。

國充も何か考えを持って動いている。

それも自分たちのため、特にバーンのためなのだと臣人にはわかっていた。

「臣人さん……」

「ん?」

「___今日のこと、すいません。ぼくがもっとちゃんとしていたらこんな事には」

鳳龍は責任を感じているのか、うつむいた。

美咲の件はもっと自分が気を配っていれば防げたかもしれないという思いもあった。

連れ去られる前に阻んでいれば、もしかしたら榊の件も『混沌の杖』の件も違ったものになっていたかもしれないと思っていた。

それを聞いて臣人は黙り込んだ。

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