第43話 孤独(1)
どこまでも白い土壁が巡らされた大きな屋敷が見える。
ここまで大きい純日本家屋はそうないだろう。
どこかの城を思わせるような大きな門を抜け、黒塗りに車が敷地内に入ってきた。
車の後部座席には痛々しい格好の美咲が乗っていた。
ピンッと背筋を伸ばして座っているその姿からはケガの様子など感じられない。
美咲は綾那を寮へ送り、大西を伴って本宅の方へ戻ってきたのだ。
車は5分ほど走ると正面玄関に横付けされた。
何人ものメイドが頭を下げて彼女を出迎えていた。
大西が先に降りると、反対側に周り、うやうやしくドアを開けた。
美咲が颯爽と降り立ち、建物の中へと入っていった。
長い長い廊下を歩き、何回か曲がるとエレベーターが見えてきた。
さきにボタンに手をかけ、扉を開けて大西が待っていた。
美咲が乗り込むと直ぐさま地下へ向かって動き始めた。
「大西、」
「はっ」
「被害の方はどの程度でした?」
「グループ全体で見てもさほどではないかと。お嬢様のお出しになったご命令が功を奏したようでございます」
「そう。株価の方は?」
「安定しております」
「この件で動きがあるかもしれないから注意して監視して頂戴」
「かしこまりました」
大西は頭を下げた。
こんな事務的な会話をしているうちにエレベーターがガクンと停止した。
ここからは特定の人物しか入れない領域なのだ。
液晶画面にパスワ-ドを入れるように要求されていた。
大西がテンキーを素早く叩き、入力する。
すると今度は小さな箱を覗くように要求されていた。
網膜スキャンだ。
ここも彼が覗き込んだ。
本条院家の執事であることが確認された。
続いて美咲も覗き込んだ。
本人であることが確認され、液晶画面に通過許可の表示が出た。
それと同時に再びエレベーターが動き始めた。
随分長い間エレベーターは下降し続けた。
ようやく目的地に着いたのか、扉が開いた。
地下とは思えないほど広々とした空間が広がっていた。
明かり蛍光灯ではなく自然光に近いものだった。
エレベーターの前にある木製の扉を大西は開け放った。
美咲が入ると一礼して、再び静かに閉ざした。
部屋の中には秘書が大きな机に向かって仕事をしていた。
美咲が入ってきたことに気がつくと即座に席を立ち次の部屋へと続く扉を開けてくれた。
「会長がお待ちでございます」
「ありがとう」
美咲は微笑んで扉をくぐった。
奥にはさっきいた部屋よりも、もっと大きい部屋が広がっていた。
照明が落としてあり、壁には何枠にも区切られた中に時々刻々と変わっていく数字が赤く表示されていた。
その部屋の一番奥で誰かがモニターを見つめていた。
画面から漏れる光に顔が浮かび上がって見えた。
スーツに身を包んだ初老の男だ。
美咲はゆっくり近づき、机の2Mほど前で立ち止まった。
「お父様」
「!」
画面を見ていた視線がその声の方向へ注がれた。
ボロボロになって戻った美咲の頭の先からつま先までを見つめた。
「無事だったか」
安堵の声でほんの少しため息をついた。
「はい。ご心配をおかけしました」
半分腰が浮きかけたが、美咲の声を聞いてそのまま黒い牛革の椅子にどっと身体を沈めて座り込んだ。
そして目頭を押さえた。
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