第27話 反撃(3)
グンッと何かが空を裂いた音がした。
ナイフだった。
ナイフが美咲の額めがけて飛んできていた。
「!」
それを認識するや後ろに下がりながら美咲も引き金を引いた。
ガァーン‼︎
弾丸が剥き出しになった地面に当たり、土が吹き飛ばされたのが見えた。
それとナイフの刃先から血が滴り落ちているのも見えた。
しかも自分の目の前でだ。
「!」
美咲が自分の周りで何が起こったのかを認識するまで数秒間かかった。
目の前の男は床に倒れ込んでいた。
その横には鳳龍がいた。
肩で息をしていた。
おそらくは反射的に身体が動いたのだろう。
ナイフを投げきるか投げきらないかの一瞬で男を殴りつけたに違いなかった。
しかも渾身の一撃で。
男は口元がグシャグシャの血だらけになって、横たわっていた。
そして自分の背後には臣人がいた。
臣人が後ろから彼女のを抱きかかえるような形になっていた。
彼の筋肉質の太い腕が美咲の目の前にあった
彼の右手には深くナイフが突き立っていた。
ナイフが突き立った場所はちょうど美咲の眉間の位置だ。
飛んできたナイフと自分の右拳を盾にして止めたのだ。
もうひとつ。
彼の左手は彼女の右手を外に押しやるような形で止まっていた。
ガバメントはシングルアクションの銃のため、チャンバーに弾丸があれば、引き金さえ引ければ撃てるのだ。
リボルバーのように弾倉の回転を手で止めればいいというものではない。
撃つのをやめさせるのは不可能に近い。
であれば銃口が男の方ではない方へ向ける以外になかった。
この二つのことを同時にやってのけたのだ。
「!?」
「これ以上はあかん」
臣人はなだめるように言った。
「臣人先生…」
「わいは教え子を人殺しにしとぅはない」
そう言うと両手を退け、美咲から離れた。
彼女はうつむいてしばらく黙り込んだ。
「はい……」
そう言うと手からガバメントが自然に抜け落ちた。
重たい音をたてながら1回バウンドして、埃まみれになった。
臣人は血が滴り落ちるナイフを左手で引き抜いた。
ナイフの狙いは正確だった。
その正確さがあったから止められたようなものだったのだが。
(なんやプロっぽかったなぁ)
「これで一件落着やろか?バーン?」
くるりと向きを変えて背後にいた彼に近づいていった。
「…………」
何も言わない(それはいつものことであるが)彼を臣人は不審に思った。
いつもなら一言くらい返しているのに。
何かを追っている、感じとろうとしているような眼をしていた。
みゃあと肩に乗ったアニスが短く鳴いた。
臣人の目に綾那と榊の姿が飛び込んできた。
あまりにも立て続けに銃声がしたので心配になって、侵入してきたのだ。
「おう!劔地!榊センセ、ようやく終ったでぇ」
「みっさは?」
臣人は血だらけの右手で後ろを指さした。
「きゃあああ!臣人先生どうしたんですか、右手!」
血だらけの臣人の手を見て綾那が真っ青になった。
「あぁ、ちょいっとな」
さも何でもないように自分の右手を見ながら、ギュッと拳を作ってみた。
血が指のあいだからさらに流れ出て、地面にボタボタと落ちた。
左手に持ったナイフを極力綾那には見せないようにした。
「こんくらいどうってことあらへん。悲鳴あげんでもええから、早う本条院のそばに行ってやれ」
「は、はい」
そういうと綾那は駆けだした。
放心状態の美咲のそばに駆け寄るとやさしく声をかけた。
「みっさ」
その声を聞いてもうつむいたままだった。
無理もない。
さっきまで人を殺めようと覚悟を決めた顔をしていたのだから。
そんな顔を綾那には見せたくなかった。
何回か綾那が美咲の名前を呼ぶと少しずつ顔が上がった。
「あ…や…」
「大丈夫?」
大丈夫ではなかったが「大丈夫」と言わなければかえって心配させると思った。
「…ええ。」
「私に寄りかかって。ほら」
「ありがとう…綾」
身体のどこからも力が抜けてしまったように美咲はその場所にへたり込んだ。
「ふふふ…変ね。今頃になって足が言うことをきかないわ」
「こわかったでしょう?」
美咲は口をつぐんだ。
綾那にとっては初めての出来事でも自分にとっては初めてではない。
怖かったわけではなかった。
「嬉しかったみたい。あなたが私を捜しに来てくれて」
そう言いながら美咲は綾那に寄りかかった。
ほっとした顔をしていた。
さっきまでの表情とはうって変わって、年相応の少女の表情に戻っていた。
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