第26話 反撃(2)

カツン。

美咲の靴音が鳴った。

その音に引き寄せられるように男は美咲の姿を見て、驚いて動きを止めた。

逃げてしまったと思っていたので、まさかこの場所に再び戻ってくるとは予想していなかったようだ。

そこへすかさず鳳龍がアゴ下と腹部に重い一発を食らわせた。

「ぐぁっ」

短いあえぎ声とともに男は膝をついた。

さらに数歩、美咲は歩みを進めた。

銃を突きつけながら、男の顔を覗き込んだ。

「さっきと形勢が逆になりましたわね」

静かな声で美咲が話しかけた。

自ら尋問しようと言うのだ。

その横で鳳龍は警戒していた。

まだトドメの一撃を入れていない。

膝を折らせただけだ。

この男は油断がならない。

この状態でも何をしでかすのかわからないのだ。

それは臣人達も同じだった。

美咲の行動に意表を突かれ、そばに急いで駆け寄った。

男は口に溜まった血をぺっと外へ吐き出した。

「お嬢さん、箱入り娘がそんな物を持っているとケガをするぞ」

これは脅しだと確信して男はイヤらしく笑った。

美咲は額にあてていた銃口を下げると迷わずにトリガーを引いた。

ガァーン

大きな音がして煙をあげた薬莢が1つ足元に転がった。

「がぁ!」

左脚の膝下を打ち抜かれていた。

弾丸は至近距離から発射されているため貫通しているものの、ドクドクと血が流れ出ていた。

痛みで身体中が震えた。

「要らぬ心配です」

バーン、臣人、鳳龍に緊張が走った。

美咲が本気なことを知った。

冷たい目で男を見据えると銃口を再び額の位置に戻した。

「質問に答えなさい。この一件の黒幕は?」

「知らん」

ガァーン

今度は右脚の膝下が打ち抜かれた。

引き金を引く美咲に全く躊躇はなかった。

「『混沌の杖』がバックにいるのなら、あなたたちを送り込んできたのは誰?」

(『混沌の杖』!?)

美咲の言った言葉に臣人の表情が変わった。

耳を疑った。

美咲の口から出たその言葉。

國充からちょうど8ヶ月前に聞かされた言葉。

バーンには聞かせたくなかった言葉だった。

「…………」

ガァーン

再び黙り込む男の左肩を打ち抜いた。

「ぐっ」

「正直に話していただかないと撃ち抜く所が無くなってしまいますわよ」

冷たい目で男の顔を見下ろしていた。

「……知ら…ねぇな。俺たち下っ端にそんなことまで…知らせるわけが」

ガァーン

正直に話す気がないのがわかったので再び、引き金を引いた。

右肩が撃ち抜かれた。

全身血だらけになった男が美咲を睨みつけていた。

よく意識を失わないものだと驚いた。

至近距離とはいえひとつも外さない美咲の腕からも相当銃を扱い慣れていることがうかがえた。

「言われたとおり誘拐して、交渉して、・・・バラせば終わりだった」

「そう。では仕方がありません」

美咲はさらに一歩近づいた。

「どうしても思い出せないとおっしゃるのなら、」

照準を額のど真ん中に合わせた。

「ここを撃ち抜く以外にありませんわね」

そう言われても男は睨みつけるのをやめなかった。

17,8才の小娘にいいようにされているのに腹を立てているのだろう。

「残弾の……確認はしてあるのかい?」

「さあ?どうでしょう?」

抑揚のない声で答えた。

ずっと男の顔を見据えたままの美咲は残忍なまでの仮面をかぶったままだ。

「試してみます?」

ガクッと男の頭が急に下がった。

次の瞬間。

男は右手をズボンのウエストに走らせ、何かを握ると腕を下から上にしならせた。

グンッと何かが空を裂いた音がした。

ナイフだった。

ナイフが美咲の額めがけて飛んできていた。

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