第25話 反撃(1)
中では鳳龍があれからずっと戦っていた。
意外に手強かった。
今まで倒した男達とは明らかに違っていた。
銃を使う気配はまったくない。
自分と同じ無手で勝負を挑んできた。
(やはり、コイツできる)
一旦離れて間合いを取った。
「小僧、いい腕だ」
「あなたも相当な手練れですよ。ぼくとこんなにも長い間、組み合う人も珍しいですから」
少し乱れてきた呼吸を整えようとした。
「ほう。随分な自信じゃないか。まるで自分は天下無敵と言っているように聞こえるぞ」
まるで嫌味のように言って笑った。
「そうは言ってません。修行中の身ですし。けど、そう聞こえたのなら謝りますよ」
何を言われても動揺しないように努めて冷静を装った。
心理的誘導から攻撃に転じる。
よく使われる手だ。
男は鳳龍を怒らせようとしていた。
そこに産まれる隙を突こうというのかもしれない。
「あんな小娘の側に立っても何の得にもならんぞ」
「どうでしょう?一宿一飯の恩義というものもあります。それにぼくは損得で人を傷つける人は嫌いです」
「言ってることが青いな。やはりガキだ」
「ガキにはガキなりの信念があります。あなたにそれをとやかく言われる筋合いはありません」
「言葉で懐柔することは難しいか」
「言葉より拳で語った方がお互い、らしいんじゃないんですか?」
固く握った拳をただ前に突き出した。
「理由より行動による結果がすべてだとどこかで誰かが言っていました」
「全く同感だ!」
「はっ!」
取っていた距離を数歩で征服すると激しい突きを連発しはじめた。
出しては捌かれ、捌かれては出しの攻防戦を繰り返した。
鳳龍は徐々に拳のスピードを上げた。
ここまでのスピードについてこられた人物を初めて見た。
いつもならもう確実に急所を捕らえていてもいいはずだった。
しかし、まだその確実な1発が入らないのだ。
攻撃の先読みも非常に正確だ。
鳳龍は足からの攻撃と見せかけて、顔面に目突きをはなった。
「くっ」
攻撃はかわされたものの男はバランスを崩した。
指先がほんの微かに男の目尻を切り裂いた。
ビュッと血飛沫があがった。
片目をつぶりながら、再び距離を取った。
「小僧、えげつないことをするな」
目に入り込んでくる血を手で無造作に拭った。
「真剣勝負ですから」
「ま、そうだ。」
男は拭った血をペロリとなめた。
「俺に傷を付けるなんざ相当の
男の顔も幾分うれしさを表していた。
自分にこれだけ食らいついてくるヤツもそういないと思った。
鳳龍も次の攻撃を最後にすべく、独特の呼吸をし始めた。
よく臣人がやっている息吹にそっくりだ。
身体中を巡る気を集め始めていた。
「俺と組まねぇか?」
「もちろん、遠慮しときます」
きっぱりと鳳龍は答えた。
榊達と別れてから、バーンと臣人を先頭にして美咲は工場内に戻ってきた。
臣人が入り口に着くと、壁際に身を寄せて中の様子をうかがった。
視線を遠くへ飛ばすと何人か男達が倒れていた。
(1,2,・・・3,4)
人数を確認する。
アニスの報告では5人。
最後の一人が今、鳳龍とやり合っていた。
臣人はバーンと美咲に合図を送り、奥へとさらに進んだ。
「!」
足に何か固いものが当たった。
と、美咲は入り口の隅に落ちていたガバメントを見つけ、拾い上げた。
さっき
慣れた手つきで弾倉を取り出すと残弾を確認しだした。
まだ弾丸が残されていた。
その様子に気がついた臣人が不安そうに尋ねた。
「本条院?一体、何するつもりや?」
もう一度、弾倉を元に戻した。
カチッと小さな音がした。
「見ていればわかります」
質問と答えが噛み合っていない。
淡々と準備をする美咲の手は止まらなかった。
セイフティを解除し、すぐにも撃てる状態にした。
「イヤ、そういう意味やのぅて」
困った顔だ。
「大丈夫。死人は出さないように心掛けますから」
黙り込んでしまった彼らをよそに、そういうとツカツカと中へと歩みを進めた。
当然のように右手にはガバメントが握られている。
人差し指もトリガーにかかっていた。
鳳龍達が目にも止まらぬ速さで攻防戦を続けていた。
カツン。
美咲の靴音が鳴った。
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