第22話 乱闘(5)

茫々と芦のような背の高い草をかき分けながら一同は周囲に気を配り建物へと近づいていった。

アニスが警備の男たちを殲滅したとはいえ、どこかに潜んでいないとも限らない。

警戒をするに越したことはないからだ。

サビが目立つ壁面はもう随分長い間、ここを使っていないことがわかる。

太い剥き出しの鉄骨の柱。

そこからぶら下がるフックの付いた何本もの鉄の鎖。

建物の高さはちょうど3〜4階建てのビルと同じくらいだ。

町工場でよくある自動車修理工場のような感じだった。

耳を澄ますと工場の外まで鈍い音が響いていた。

身体と身体、力と力がぶつかる音だ。

それに時々混じって銃声も届いていた。

「ひょぉぉ~派手にやってるなぁ~」

臣人が右手を額の前にかざし、背伸びをしながら、先を見た。

「非常識なっ、感心している場合ですか?」

ムッとして榊が釘をさした。

工場まであとほんの目と鼻の先まで迫った所で4人は作戦を練っていた。

その頃には大西も別車両で到着していた。

「お嬢様は?」

おどおどした様子で向こう側を見ていた。

「大西はん、落ち着いて。さっき電話で説明したとおり本条院は無事だ。ただ下手に手出しすると取り返しがつかんことになるさかい」

「SPの者たちも何人か連れてまいりました。突撃させますか?それとも周囲に配置して警戒を?」

「民間のSPやろ?武器は持っとるのかいな?」

「武器と言われましても、基本は警棒のみの装備でございますゆえ。何分日本では銃火器の携帯は法律に…。体術においてもみな有段者ばかりです」

「とはいえ実戦経験はあまりあらへんやろ?」

「…残念ながら、葛巻様のおっしゃるとおりでございます」

「…………」

で、どうする?とバーンが無言で聞いていた。

「わいが様子見てくるさかい。みんなはここで待っとって」

「そ、そんな、」

『私も行きます』と強攻されそうなのを必死に止めた。

臣人は武術の心得がある。

自分が先頭をきって行かなければと思っていた。

「ぶっちゃけた話、足手まといはいらん。人質を増やすわけにもいかんし、危ないからな。OK?」

この一言にさすがに勝気な榊も口をつぐんだ。

バーンは何も言わず、臣人の顔を見つめていた。

「…………」

「じゃ、頼んだぜ、バーン。」

そう言い残すと臣人はくるりと身を翻し、単身、廃工場の中へ向かった。




「美咲さんっ」

鳳龍は思わず叫んだ。

(しまった!離れすぎたか!?)

美咲の後頭部を拳銃のグリップが襲った。

「きゃっ」

猛烈な激痛が彼女の頭を突き抜けた。

そのまま土埃の舞う床に倒れ込んでしまった。

鳳龍は美咲に照準を合わせられた拳銃を右脚で蹴り飛ばした。

銃は高く空を舞い、出入り口近くにある旋盤機にあたって落ちた。

握っていたものがなくなった右手を左手で絡め取り、手首を極めるとそのまま上に向けてへし折った。

ベキィと骨が砕けた音がした。

それでも動きはとまらず、そのまま飛び上がると回し蹴りを右脚で男の側頭部に叩き込んだ。

持っていた手首を離さなかったので、手首を軸に男は不自然な形で1回転すると床に崩れ落ちた。

これで3人目。

着地を狙っている4人目がいることをわかっていた鳳龍は左手を下につけたまま身体を回転させて、倒れている美咲の前に出た。

「美咲さん!聞こえてますか!起きてください。でないと狙われます!美咲さんっ」

鳳龍は叫んだが、美咲からは何の反応も返ってこなかった。

気を失っているようだ。

「ちっ」

鳳龍は動けなくなっていた。

ここで動くと目の前の男は美咲に向けて発砲するだろう。

自分ひとりなら反撃のチャンスはまだあったのだが、美咲がいるこの現状では無理だった。

4人目の男は勝ったと思いながら銃口を鳳龍の心臓にピタリと合わせた。

鳳龍はしゃがんだまま、両手を広げながら彼女をかばった。

視線はまっすぐに目の前の男に向けられた。

鳳龍フェイ!」

突然、声がして誰かが駆け込んできた。

男はとっさにその声の方へ銃口を向け直した。

その一瞬を鳳龍が見落とすはずがなかった。

迷わず突進していった。

ものすごい勢いで男の軸足に蹴りを入れた。

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