第17話 捜索(6)
美咲は男達の位置を注意深く見ながら、反撃の機会をうかがっていた。
ひとりずつならば自分でも何とかできるはずだ。
初撃はかわせるという自信もあった。
が、この人数で一斉に来られたら無理に決まっていた。
じりじりと間合いは詰められていた。
美咲としゃべっていた男はその場所よりも少し後方で、銃を持つわけでもなく立ち尽くしていた。
「そこまで言われたとあっては我々も引き下がるわけにもいかんな」
「…………」
「お嬢さん、どこまでできるか、お手並み拝見と行こうか」
この言葉を合図に男達が動き始めた。
一人が一歩前へ出て美咲の頭に銃口を向けた。あとの2人は美咲の背後から銃口を向けていた。
「!」
美咲は一度しゃがんで飛び出すとワイヤーを銃口に巻きつけながら、その男とすれ違った。
引き金が引かれるのと美咲がワイヤーソードを引くタイミングが同じだった。
ガァーンッ!
大きな破裂音が響いた。
「ぐぁ」
「ほお」
ソードに切り落とされた銃身で撃ったものだから弾が暴発してしまったのだ。
美咲はタイミングよく撃った男の背後に回り込んだため無傷だったが、男は破片を浴びて血だるまになっていた。
「なかなかやるね。だが同じ手は二度は通用しない。どうするね?」
男は鼻で笑った。
倒れ込む男を見届けながら美咲は無表情でそんなことを言っている男を見た。
顔のには男の手の中で暴発した弾丸の破片によって撒き散らされた血がスパッタリングのようについていた。
美咲は左右に視線を飛ばして、男たちの位置を確認した。
(あきらめてはダメ。コイツらの思うつぼだけは御免よ。
まだ方法はある…考えて。考えるの。どこかに突破口が必ず…)
そう自分に言い聞かせた。
すると、突然、彼女の頭上から何かが降ってきた。
何の気配もなくただ何かがいきなり落ちてきたのだ。
異変に気づいた男が銃口を上に向けるが間に合わなかった。
首に足を絡みにつけられたまま勢いよく倒され、地面に頭から叩きつけられた。
ゴギッと鈍い嫌な音が聞こえた。
小さな影が男の身体の上に立っていた。
「美咲さんっ、無事ですか?」
美咲は目を疑った。
喫茶店で一緒にいたあの男の子だった。
「
動かなくなった男の腹の上から床に降り立った。
ととんっと素早く移動し、美咲と背中合わせに立った。
お互いの顔が見えぬまま言葉を交わし始めた。
「どうしてここに?」
驚きを隠せないまま肩越しに声を掛けながら、美咲はワイヤーソードを構え直した。
「車のトランクに隠れてたんです。ケガは?」
にこっと子どもっぽい笑みを見せた。
(車のトランクに!? どうやって?)
腕に擦り傷があり、血がにじんでいた。
鳳龍は流れた血をぺろっと一舐めすると無手の構えをした。
彼が拳士であるのはどうやら本当のようだ。
今の身のこなし、俊敏さ、そして背中合わせになって初めて気づいた彼の鍛え上げられた身体。
獲物を追うような鋭い目つきで残りの男達を見据えた。
パフェを嬉しそうに頬張っていた彼からは想像もできない姿だ。
「大丈夫。」
美咲はようやく安堵の表情を浮かべた。
「すいません。ぼくが油断したばっかりに。こんなことに、」
パフェに夢中になりすぎて、周囲の異変に気づくのが遅れたことを詫びた。
いつもならこんな不覚をとることなどないのに。
あり得ないミスだった。
普段あまり食べることのないパフェに心を奪われてしまったからなのか。
いずれにしても、もっと早くに気がついていればこんな事にはならなかったと思った。
「違うわ。私の所為よ。気になさらないで」
あっさり、美咲は否定した。
彼は悪くない。
むしろ巻き込んでしまった自分が悪いと思っていた。
その答えを聞いても鳳龍の気持ちは晴れなかったが、ここはやるべきことをやる以外になかった。
「もう大丈夫です。ぼくに任せて」
「え!?」
「言ったでしょう?ぼくはこっちの方が得意なんですよ」
顔つきが変わった。
幼さはもう微塵も感じられない。
抜き手で構える彼の姿がなんだかふた周りほど大きく見えるような気がした。
助けに来てくれただけでもうれしいのに、こうも言いきる自信はどこからくるのだろう。
「鳳龍君…」
「美咲さんは隠れていた方がいい」
美咲の顔つきも変わった。
彼に甘えてばかりもいられない。
自分に降りかかったもめごとは自分の手で解決したかった。
「いいえ。邪魔はしませんわ」
そういって美咲は自信に満ちた顔で微笑んだ。
一瞬、鳳龍も驚いたが、たまにはこんなコラボもいいかな?と思い始めていた。
「了解しました。美咲さんは自分の身の安全だけに集中してください。あとはぼくに!」
こくりと美咲はうなずいた。
そして、凛とした声で告げた。
「わかりました。行きます!」
鳳龍はダッシュで前へ突進していった。
声ではない咆吼が建物の中にこだました。
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