第14話 捜索(3)

どのくらい走っただろうか。

自分の体内時計では1時間ほどか。

急に車は停止した。

無造作にドアが開けられた。

右側に座っていた男が車から降りた。

その後、大きな手でギュッと二の腕を掴まれ、車の外に出るようにと引っ張られた。

自由になっている足だけを動かして、シートの端まで行くと体が浮き上がった気がした。

美咲の両脇を堅める男たちが彼女の体をコントロールしていた。

美咲は五感を集中させた。

どんな小さな情報でも欲しかった。

その場所は静まりかえっていた。

街の中の喧騒はまったく聞こえない。

太陽の日差しがあれば方角もわかるのだが、顔に日差しは感じれらない。

すると北側か、あるいはもう建物の入り口近くか軒下か。

嗅覚に残るのは風の匂い。

緑の香り。

自然豊かな都会ではない場所であると推察された。

男達が目隠しをしたままの彼女の両腕を抱えて歩かせた。

導かれるがまま美咲は歩みを進めた。

(134,135,・・・136歩。)

歩みが止まった。

(直線距離にして30M弱か。)

自分の歩幅から車との距離を計算して算出した。

目隠しを取られると辺りは薄暗い場所だった。

見た感じはさびれた何処かの廃屋か倉庫といったところか。

手の戒めはそのままだった。

その不自由な格好のまま、両側の男達に促され先に進んでいった。

その男達が離れた。

美咲の目の前には中年の品の良さそうな40代後半の男性が立っていた。

「本条院美咲さんだね?」

「どなたですの?」

顔をギッと睨みながら抑揚のない声で答えた。

自分の記憶を辿るが、見覚えのない顔だ。

「手荒なことをしてすまない。自己紹介は遠慮させてもらおう。後が怖いのでね」

からかうように笑って言った。

「いろいろと思い当たる節がありすぎて困っていますの。できたらどちらの方面の方かある程度、名乗っていただけると助かるのだけれど」

美咲は努めて感情を読み取られないように気をつけながら、冷静に話した。

静かな口調で、丁寧な言葉を使っていた。

「そんなに恨みをかっているのかね?」

「立場が違えば、考え方も違いますわ。父の仕事上のトラブルに巻き込まれるなんて珍しいことではありません。大企業のトップに立つとはそういうことではありませんの?」

誘拐されたからといって取り乱すわけでもなく、怯えるわけでもなく、いつもと変わらない態度で意見を述べた。

その態度に毒気を抜かれたのか、男は目を丸くした。

「全く同感だ。気の強いお嬢さんだ」

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

美咲はほんの少し頭を下げた。

男は美咲の頭からつま先までじろじろと品定めでもするように見た。

その行動の裏には彼女が高校生に見えないほどの度胸を持っていたからだ。

こんな場所に一人で連れてこられて不安にならないはずがない。

ましてや見も知らぬ屈強な男達に伴われて、こんな場所に来たのだ。

どうにかならない方がおかしいとその男は思っていた。

泣くわけでもなく、凛とその場に立つ美咲には威厳さえ感じられた。

「それでは君のその態度に敬意を表して、『混沌の杖』ということだけ名乗っておこうか」

(『混沌の杖』?)

「聞き覚えはありませんが、」

首を傾げる美咲の反応を見て、口の端だけで笑って見せた。

「お嬢さんは…だろう?さ。ま、聞いてみるがいいさ」

両手を広げたまま、首をすくめた。

美咲はその態度にちょっとため息をついた。

「生きて戻れたらでしょう?無事返す気もないでしょうに。」

今度は鼻でせせら笑った。

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