第12話 捜索(1)

同じ頃。

STC shopの前で綾那はヤキモキしながら待っていた。

キキキキイィィ。

赤い車が急停止した。

「あ、バーン先生!臣人先生!」

彼らの車を視認するや手を挙げて綾那が駆け寄った。

「おう、劔地、大丈夫かいな?」

ドアを大きく開け放って臣人が外に降り立った。

続いて助手席からバーン、後部座席から榊が降り立った。

綾那はなぜ榊までもいるのかとちょっとムッとしたような表情だった。

「ええ、私は。でも、」

「本条院か、」

珍しくバーンから声をかけた。

「はい。大西さんの話だと見知らぬ男達に車に乗せられたとか。その様は私は見ていないんですけど」

「するってーと、あんさんが大西はんで?」

「はい。今回はとんだご迷惑を…」

額をハンカチで押さえながら、一礼した。

前髪も乱れ、憔悴しきっているように見えた。

「迷惑だなんて思っていませんわ。早く何とかしないと美咲さんが」

榊が丁寧に応対した。

バーンはアニスを肩にのせたまま、その周囲をぐるりと見回した。

「どんな状況だったのか……話してくれないか?」

「はい。」

綾那は一呼吸おいた。

「私たちあの店でお茶をしてて、そうしたら美咲の携帯が鳴ったんです」

「誰からの電話やった?」

「旦那様からでした。それは間違いございません」

「それを受けながら席を立って、外へ行ったの」

「そのあとはわたくしから、…」

「…………」

「お嬢様は私どもに近寄らないようにと指示され、話しておいででした。そのすぐ後でございます。襲われたのは、」

「何人くらいの誰に襲われたんや?」

「4名の男達でございます。年は葛巻様よりほんの少し上のように見受けられました」

「4人かぁ。な、どう思う?」

臣人はこの手際の良さからただ者ではない感じがしていた。

「…………」

それに対するコメントをバーンは避けた。

「SPがやられた後、私にも襲いかかられるのをお嬢様が止めてくださいました。そして、この場所に横付けされた車に自ら乗り込まれたのです」

「……自分から?」

「はい。」

「…………」

「みっさ…」

思わず綾那は美咲の名を呼んだ。

美咲らしい行動といえばそうだ。

自分のことよりも他の人のことを優先させてしまう。

それが例えどんなことでも。

そんな傾向が彼女にはあったのだ。

心配そうにバーンと臣人の顔を見比べた。

考え込んでいたバーンが口を開いた。

「…大西さん。本条院は携帯を持っているんでしたね」

「はい。持っておりますが。何か?」

「バーン」

「GPS機能は付いている…携帯ですか?」

「もちろん。いざという時のためにその機能はあります」

「それを今ここで…チェックできますか?」

「あ、なるほど!やってみます」

彼に言われて初めて気がついた。

自分でもかなり気が動転していたということなのだろう。

大西は携帯を取り出すと画面とにらめっこし始めた。

「バーン」

臣人がこっそり話しかけた。

「何で携帯の話をしたんや?」

「防犯対策……」

バーンは淡々と言葉少なに説明を加えた。

「GPS携帯は主電源を切ると同時に…その位置を自動発信する。そのまま電源を入れないと…何時間かに1回ずつ位置を発信し続ける…はずなんだ……」

「は~ん」

「あくまでも…携帯を彼女が持っているということが前提だけど…」

「わいが誘拐犯なら真っ先に捨てる代物やな」

「…………」

こくっとバーンはうなずいた。

そんなドジを踏む犯人ならそう心配もいらないのだろうが、そうでなかった場合、少しやっかいになってくる。

そう思った。

「表だってできる…最後の方法だ。これがダメなら…奥の手を使う」

「はん。」

臣人はアニスを連れてきている理由を理解した。

彼女の持つ特殊能力にかけようというのだ。

『遠見』という方法もあるのだが、ポイントを絞らないで行うには時間がかかりすぎるのだ。

美咲の霊気を辿っていかなければならない。

生きている人達のあいだをぬってそれを行うには時間がなさすぎた。

ことは一刻を争う。

いつまでも犯人が美咲を生かしておくという保証はどこにもないのだ。

そうこうして待つうちに、大西は画面を閉じると深いため息をついた。

「大西はん?」

「ダメでした…」

「…………」

やはり!という表情でバーンも臣人も顔を見合わせて、目配せした。

「ここから3kmほど先に捨ててあるようです」

「…………」

バーンはまっすぐ前を向いたまま名を呼んだ。

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