第11話 誘拐(2)

美咲を乗せた車は走り続けていた。

景色がどんどん後ろに流れていく。

自動車のスピードが上がっている証拠だ。

3列になったシートの2列目に彼女は座らされていた。

両側にはヤクザのような外見の体格の良い男に挟まれていた。

背筋を伸ばし、両手を合わせジーンズの太腿部分に置く。

視線は真っ直ぐフロントガラスの方へ向けられていた。

彼女の目には誘拐されたことに対する恐れを見ることはできなかった。

いつもと変わらない表情で男たちといた。

とにかく今は置かれた状況をつぶさに観察し、相手の情報を集めなくてはならない。

何が目的で、自分を誘拐したのか。

どんな組織がこの誘拐に絡んでいるのか。

それによって対処法も変わってくる。

自分の命がどうのこうのという問題ではないのだ。

彼女は父親の会社を守らねばならない。

そんなことを思って、彼女は短いため息をついた。

そして、不意に美咲が言葉を発した。

はっきり通る声で呟いた。

「わたくしをどうするおつもり?」

高校生の小娘から悲鳴以外の言葉が聞こえてくるとは思わなかったのか、男たちは驚いたような雰囲気だった。

沈黙が続いた。

どうやら両隣にいる男たちは答える地位にないらしい。

美咲の表情や体の動きに目を配りながらも、彼女の質問の答えは前方に座る人物に向けられていた。

「答えるつもりはありませんわね。当たり前ですけれど、」

走り続ける車の中で美咲は助手席に座る男に声をかけた。

けれど、答えはなかった。

「………」

「いいですわ。好きになさい」

毅然とした態度で、シャンと座ると車の中に引き込んだ男達を睨みつけた。

男はヒュ~っと口笛を鳴らした。

彼女の言葉を気に入ったのか、横に座る黒っぽいスーツを着た男が言葉を発した。

「気の強い女だ。これから何が起こるのか怖くないのかい?」

「別に。」

「もしかしたら俺らがあんたのこと強姦ちまうかもしれないぜ」

「あなたがたはそれはしないでしょう。最初からそのようなおつもりであれば、わたしを車の中に導くなどという愚行はしないはずです。これだけの人数をさいてわたしを拉致したということは、きちんとした目的がある。計画性もある。だからお尋ねしました」

答えるつもりはないと言うように、男はニヤッと笑って会話を打ち切った。

「いい度胸だ」

(綾が巻き込まれなかったことがせめてもの幸い…)

「お嬢さん、悪いが目隠しをさせてもらうぜ」

「………」

黒い布のようなモノを目に巻かれ、きつく縛られた。

それと同時に両手を合わせ、親指にはビニールバンド、手首のところにはガムテープのような物でグルグルに固定された。

手を使っておかしな真似ができないようにするためだ。

「窮屈かもしれないが、まあ、我慢してくれ。じきに外してやるよ。」

「………」

(運転手が一人、助手席に一人、私の両脇に二人。

犯人は複数。

鮮やかな手並みだった。

そこからも計画的な犯行。

そして、わたくしがどこの誰かも知った上での犯行ね。

お父様の仕事関係のやっかみか?

あるいはもっと他の何かか?

…いずれにしても、コイツらは首謀者じゃないわ。

連れて行かれるところまで連れて行ってもらいましょう。

命のやり取りはそれからよ。)

美咲はそれきり口を結んだ。

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