第2話 迷子(2)

店に入って十数分後、目の前にはパフェグラスの山ができていた。

それも1つや2つではない。

もう10個は越えようかという勢いだ。

少年はものすごい勢いで次々とアイスクリームやフルーツを口にほおばっていた。

そのペースは落ちることを知らなかった。

綾那と美咲が同じソファに座り、その向かいに少年が陣取っていた。

窓際のボックス席に座りながら二人はもう目を丸くする以外になかった。

「すいません。おごっていただいて」

スプーンを握りしめ、口の端に生クリームをつけたままで恥ずかしそうに笑った。

「遠慮しないでどんどん食べちゃっていいわよ!」

綾那はあまりにもしあわせそうに食べているその姿を微笑ましく思っていた。

「はい!おかわりしてもいいですか?」

「どうぞ、どうぞ。好きなだけ」

その言葉を言い終わるか終わらないうちに、通りかかったウェイトレスに追加オーダーをした。

「じゃ、チョコレートパフェをあと3つ」

見事なまでの食いっぷりに、一体この小さな体のどこにそれだけの量が収まるのだろうと不思議に思った。

カラになった器の山を見て、ちょっと胸が悪くなるような気もした。

まあ、本人が美味しいと言って食べているうちはいいだろうと自分を納得させた。

美咲は始終黙り込んだまま、静かにコーヒーを飲んでいた。

「そういえば自己紹介がまだだったわ。私、劔地綾那つるぎちあやな。高校3年生。こっちが友達の本条院美咲ほんじょういんみさき。同じく高校3年生」

「よろしく」

持っていたカップをソーサーに戻しながら、上目遣いで美咲がよそよそしくあいさつした。

「よろしくお願いします。ぼくは鳳龍フェイロンといいます。香港生まれの中国人です」

スプーンを置き、姿勢を正して、ぺこっと頭を下げた。

笑顔にはまだまだ幼さを残している。

年の頃は10代前半だろうか。

「それにしても奇遇よね。どうして私たちの通っている高校へ行こうとしているの?」

綾那は感慨深げに言った。

鳳龍はどこまで彼女たちに話してよいものかと考え込んだ。

「あの、ちょっと人に会って、渡さなきゃならない物を預かっているんです」

「誰?もしよかったら、私たちで預かって渡してあげようか?」

彼の話はどこまでいっても綾那達にとっては興味が尽きないものだった。

おごったことを逆手にとるわけではないが、ちょっとした見返りを期待していなかったと言えば嘘になる。

そんなことも鳳龍はわかっていた。

「いえ、そこまでご迷惑は……。それに直接会って渡さないと失礼ですし」

「それもそうか」

「学校の場所を教えていただければ、ぼくひとりで行けますよ」

いつになく慎重になっていた。

自分が預かった物は必ず本人に手渡しで渡さなければならない。

表情がそんな義務感に満ちていた。

「それはね、心配しないで。寮に帰らなきゃならないし。そのついでではないけど、案内はできるからそんなに問題はないと思うけど、」

横目でちらりと美咲の方を見た。

「ちなみにどなたにお会いになるの?」

その視線に美咲も気づいた。

また、綾那の世話好きが始まったと困った顔だ。

「ご存じだといいんですけど、」

「誰誰?」

ずいっと前に身を乗り出して、綾那は興味津々といったところだ。

「そこで講師をしている、葛巻臣人くずまきみとっていう人なんですけど」

「!」

名前を聞いた途端、彼女達は顔を見合わせた。

「ご存じなんですか?」

「知ってるもなにも、ウチらの顧問よ」

「ご縁がありますね」

頭の中にある人物の顔が浮かんできた。

この可能性はないのだろうか?

「ひょっとして、鳳龍君ってバーン先生とも知り合い?」

「はい、そうですけど?」

きょとんとして鳳龍はあっさり答えた。

「うわっ!なんかを感じるわね」

偶然の一致にしてはできすぎた話だが、それでもよかった。

「そんなモノ感じなくていいですから、落ち着いて話をしてください」

「十分落ち着いているわよ」

「そうですかしら?」

「?」

眼前の二人の雰囲気が険悪になった。

何やらこそこそと打合せらしきことを始めた。

何かを聞き出そうとしているふうに見えた。

彼女たちは何を知りたがっているのだろう?

「ね、鳳龍君……」

綾那がさっきまでよりは真面目な顔で彼を見ていた。

「はい?」

「変なことを聞くかもしれないけど、答えてくれない?」

「?」

「バーン先生ってどんな人?」

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