第34話 新島愛希は足踏みしない②



〜新島愛希〜



「た、瀧上じゃん……」


5月1日の部活帰り。

ウチは偶然にも、今1番嫌いだけど会いたかった男に会ってしまった。

その相手は、クラスメイトの瀧上一光。

ウチの大切な幼馴染である出合恵美と一緒に学級委員をしている男子生徒。

しかし、どうやら瀧上は非常に難儀な性格をしているらしく、その最悪な性格で恵美を困らせている。

恵美を困らせる事を断じて許せないウチと同居人の山田春人は、瀧上をどうにかしようと試行錯誤してしてるけど、現在難航している。

そんな中降って湧いてきた2人きりの時間。

現状維持が嫌いなウチは、これ以上足踏みしている訳には行かないので行動に移ることにした。


「アンタ、こんな所で何してんの」


目的達成のため、ウチを見て顔を歪ませている瀧上にわざわざ声を掛けた。


「……なんで君にそれを言わなければいけないのかな?」


少し間を空けて、そんな事を言ってくる瀧上。

はい、さっそくイラつく言葉もらいました。

本当うっざい!


「気になったから聞いただけだっつの。深い理由は無いよ」


本当ならもう別れたいけど、そんな訳にはいかないウチは仕方なく会話を続けようとする。


「へぇ。君は何を企んでいるの?」


「はぁ?」


いや、ほんと、はぁ?

なんでこいつウチの事勘ぐってきてんの?

普通にキモいわ……。


「いや、なに言ってんの?アンタ相手に企むことなんて何も無いわ」


まあ図星なんだけどね。

でも、ウチは冷静に対応する。


「そうなんだ。じゃあ、僕はもう行くね。時間が限られているから」


そう言って、そそくさとウチから離れようとする瀧上。

そんな事させるかよ!

せっかく2人きりになれたんだから、このチャンスをみすみす逃すわけないでしょ!

……今のセリフ、ウチが瀧上に片想いしてる感が出てて吐き気がした。


「ちょっと待ってよ。どこ行くの?それくらい教えてくれてもいいんじゃない?」


立ち去ろうとする瀧上を引き止め、質問する。

返答次第ではここから動かさないからな……。


「……。塾だよ。19時からなんだ。教えたから、もう行くね」


なるほど、塾か……。


「よし決めた」


刹那、ウチは瀧上をどうにかする最適解を見つけた。

今から、その最適解を行動に移そうと思う。


「ウチも行くわ。紹介してよ、塾」


「……はい?何を言っているんだ君は?」


目を点にし、アホ面になる瀧上。

まあ、そう言う反応になるよね。

でも、この方法が1番良いと思ったんだよ。

その方法とは……。


ウチが、瀧上に粘着すれば良い。


なぜか知らないけど、瀧上は気持ち悪いくらい人を寄せ付けない。

だったら、無理矢理こっちから瀧上に関わっていって、恵美の問題を解決してやる。

そして問題を無事解決できたら、瀧上とはおさらばする。

これが、ウチが一瞬で考えついた最適解。


「だから、ウチも塾に行きたいからアンタの通ってる塾紹介してよ」


まだ状況を理解できてない瀧上に、ウチは改めて伝える。


「そ、そうかい。君が塾に行きたいのは分かったよ。でも、僕が紹介しなくてもよくないかな?普通に自分の通いたいところに入りなよ」


どうやら、ウチの言っている言葉は理解できたっぽい。

でも、了承はしてくれていない。

まあそりゃそうだよね。

自分でもおかしな事言ってるな、と思うし。

でも、いまさら引けない。


「いや、アンタが通ってる塾に行きたいの。アンタ頭良いでしょ?だから同じところに通えばウチも成績伸びるかなって思って」


瀧上が頭が良いのは、授業中に分かった。

先生が褒めていたし。


「……。それは、単純に僕の努力の結果だよ。通っている塾がどうこうとかじゃない」


「はいはいそういうのいいから。ほら、もう18時25分。遅刻しちゃうんじゃない?早く向かいなよ。勝手に付いていくから」


瀧上の自慢はカレイにスルーして、有限である時間を媒体に瀧上を煽る。


「あー……。これ、どうにもできない理不尽ってやつだね。本気で最悪な気分だよ。仕方ない、諦めて向かおうか……なっ!」


諦めた雰囲気を醸し出した後、突然走り出す瀧上。

どうやら、拒否するのを諦めてウチを撒くことにしたみたい。


「させるかっ!」


瀧上を追うために、迷わずウチも走り出す。

ウチを舐めないでもらいたい。

小学生の時からスポーツしてたんだよ?


「足が遅い訳ないでしょっ!」


ーーーーー


「ハァハァハァ。ここか……」


今のウチの現在地は『姫川塾』という建物の前。

ウチを撒けたと思い込んだ瀧上が入って行ったのを確認した場所だ。


「よし、入るか」


今のは建物の中に入る、塾に通う、この2つの意味で言った。

ちなみに走っている間に気づいたことがあるんだけど……それは塾に入るにはお金が必要ということ。

まあ、これはどうにかしてみせる。

なるべく短期間で問題を解決して、すぐに塾を辞めればいいんだ。


ガラララ……


「失礼しまーす」


引き戸を開けて、塾の中へと入る。


「あら?知らない顔ね……。もしかして、入室希望かな?」


中へ入ると、受付みたいな所で座っていた美人女性が迎えてくれる。


「あ、はい。ここに瀧上君っていますよね?彼からの紹介なんですけど……」


ウチは自然に嘘をつく。

瀧上に悪いなんて思わない。

だって恵美を困らせるアイツが悪いからね。


「え?瀧上君からの紹介なの?彼からは何も聞いてないけど……」


もちろん、話は伝わっていない。


「あ、紹介っていうか聞いただけなんですよ、良い塾があるって。それで、丁度塾を探していたんで入室希望を出しに来たって感じです」


我ながら、完璧な嘘だなと思った。


「そうなのね。嬉しいわ、数ある塾の中でここを選んでくれて。歓迎します。私は塾長の姫川陽美です。それじゃあ、早速手続きしましょうか。ここに座ってね」


よし、入室を認めてもらえた!

これで、瀧上がどんな奴なのか観察して手を打てるぞ。


ーーーーー


「じゃあ週2日で19時〜21時、次の授業は……明後日ということで、よろしくね」


「はい、それで大丈夫です。よろしくお願いします」


入室の手続きが終了し、授業のスケジュールを組み終わったウチは、今日のところは壮に帰る事にした。

というか、いきなり初日から授業を入れてもらえるなんてのはさすがにない。

次の授業は明後日の木曜日だ。


「ありがとうございましたー」


しっかり対応してくれた塾長にお礼を言い、姫川塾から出る。


「よし。明日から本格的に観察を始めてやる。お前の本性を暴いてやるからな、瀧上……」


少し気持ち悪い事を言っているのは自分でも分かっているけど、恵美の為ならどうって事ない。


「待っててね、恵美」


ウチの1番大切な人の為に、ウチは頑張るよ。


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