第33話 新島愛希は足踏みしない①



〜新島愛希〜



5月1日



バシュッ!


「ナイスシュート、新島!」


ウチが放った3ポイントシュートが、きれいな弧を描きゴールへと入る。

それを見た先輩たちからお褒めの言葉を貰う。


「くっそアイツ……身長のおかげでしょ……」


それと同時に、同級生から貶しの言葉も貰う。


「別に身長が全てじゃないでしょ、バスケは。ていうか元々、低身長の人の為にスリーポイントのルールが生まれたんだから、そこで高身長を批判するのはお門違い」


腹が立ったウチは、貶してきた同級生へと近づき、反撃する。


「高身長アピうっざ。てか総合的に見たら、結局アンタら高身長が有利でしょ。低身長を口撃する口実を作るなよ」


コイツは何を言っているんだろう。

自分で自分が低身長という事を認めているのに気が付いてないのか?

『だったら低身長なりに努力しろ』と言ってやりたいけど、暴力沙汰になりそうだからウチが我慢してやる。


「はぁ。もういいよ」


「だっせ。言い負けてやんの」


勝手に勝った気になっている同級生。

ほ、本気でムカつく……。

もっと言ってやりたいけど、それで暴力沙汰になったら恵美にも迷惑が掛かる可能性があるから、それは出来ない。

本当にこの女……ウチのクラスメイトでもある、春崎花樹咲は嫌いだ。


春崎は口が悪く短気で、すぐ手が出る性格。

しかし教室では、いつも一緒に居る葉羽里咲和が彼女のストッパーになっている為、その性格は鳴りを潜めている。

……というか同じ匂いがする葉羽里がストッパーになってるのが不思議だわ。

まあとりあえず、ストッパー葉羽里がいるお陰で

クラスで問題は起きてないし、そこまで目立った行動もしていない。


でも、春崎が1人になってしまうココ、バスケ部では違う。

春崎は、気に食わない事があるとすぐに突っかかってくる。

『触らぬ神に祟りなし』と言わんばかりに、みんな彼女と極力関わらないようにしているけど、向こうから絡んでくるので厄介極まりない。

『春崎がウザい』と言って部活を辞めた同級生も数人見た。

そしてもっと厄介なのが、彼女は顧問の前では大人しくしているので、誰も顧問に相談できないところだ。


「うわ下手だなぁ。そこはフェイントでしょ。よし、アイツには勝てるな」


今も、春崎は同級生のプレイを見て貶しながら分析している。

『勝てる』と言ったのは、今週末にスタメンの入れ替えゲームがあるからだろう。

いくつかのチームに分かれて試合をして、顧問の目利きによりスタメンが決められるらしい。

ちなみに、小学生の頃からバスケをやっていたウチから見て、春崎のプレイは普通に上手いと思う。

場面ごとに最適の動きを良くできている。

まあ、スタメンには絶対入れないだろうけど。

その理由は単純。

バスケ漫画にたまに存在するけど、春崎はパスを全く回さない1人プレイなんだ。

だから、スタメンには選ばれない。


「まあ、どうでもいいけど。ウチはウチのスキルを向上させないと」


ウチだってスタメンに入りたい。

他人の事を構うより、今は自分だ。

だから今日も今日とて、ウチは自分の課題であるドリブルのフェイントを練習する。


ーーーーー


「今日の晩ご飯は何かな……」


午後18時。

部活が終了し、壮へ帰るために校門を出たウチは、適当な考え事をする。


「ていうか、うん。こんな事考えてる場合じゃないな」


ウチにはもっと考えなきゃいけない事がある。

正直、この案件に思考時間を取られるのはムカつくけど、恵美のためを思えばそんなストレスも無くなる。

ウチが考えなきゃいけない事。

それは、瀧上一光のクソ野郎についてだ。

この件が思った以上に、しち面倒臭いことになっているらしい。


というのも、昨日山田と一緒に料理を作っているときに聞いた話だと、山田が瀧上に『君とは友達にはなれない』と、言われたらしい。

これを聞いてウチは……。


『はぁ!?なんだそれ!?こっちはてめぇと本心から友達になりたいと思ってる訳でもないのに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだよ!?

無駄にやり取りさせるんじゃねぇよボッチが!』


って、山田に言ってやったね。

まあ、山田は『俺は本心から友達になりたいと思っているよ』とか言ってたけど。

でも、本当何なんだ瀧上一光……。

せっかく、山田が『友達になりたい』って言ってくれたのにそれを無下にしやがって……。

山田には、また近づいてみてとは言っておいたけど、やっぱりウチも動いた方が良いよな……。

ウチは現状維持が嫌いなんだ。


「よし。次瀧上に会ったらもう一回問い詰めてやる」


山田が介入してくるのを避けるために、教室で問い詰めるのは辞めておくか。

山田には『勝手に行動しないで』って釘を刺されてるからね。

どこかで、瀧上と2人きりになれた時にでも……


「「うわっっ」」


あっぶな!

目の前の曲がり角を右に曲がろうとしたら、曲がり角から出てきた人と危うくぶつかりそうになった。

とりあえず謝らないと。


「あ、すいません。こちらの確認不足で……」

「すみません。確認を怠っていまし……」


相手に謝ろうとウチが正面を向くと、そこには今1番会いたかったような、会いたくなかったような男が、苦虫を噛みつぶしたような顔でこちらを見ていた。


「た、瀧上じゃん……」



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