第30話 高冬真友と生徒会役員たち③
〜高冬真友〜
「はい!じゃあ次はなっつん、よろしく!」
現在、俺は新しい生徒会役員として、初めて他の役員達と顔を合わせているのだが、俺がここに来て30分経った今でも、賑やかすぎて自己紹介をしてくれた人が1人しかいないという事実に圧倒されていた。
そんな中、生徒会長である満上舞弥先輩がやっと次の自己紹介へと移ってくれた。
「はいはーい。ウチは花宮那槻。生徒会では庶務を担当してるよ。あ、ちなみにそこの彩女さんは会計ね。自分の特徴を挙げるなら……何でもできる万能な人間です。よろしく」
そんな自己紹介をしてくれたのは、黒髪ショートカットで、前髪を2つのピンで止めている、美人、カッコイイ、可愛い、どの表現も当てはまるような中性的な顔立ちの自称、万能な人間。
名は花宮那槻。
「花宮先輩、ですね!よろしくお願いします!俺、貴女のこと知ってますよ!」
「え?あー、もうそんな感じになっちゃってるかぁ」
そう。
俺は、この花宮那槻先輩を知っている。
いや、実際には噂を耳にしていただけだが。
花宮先輩の名前が『那槻』と聞いて、気がついた。
「花宮先輩が、俺たち1年の間でも噂になってる『なつき』先輩だったんですね。確かに、噂通りの容姿です」
『なつき』先輩は、超カッコ良くて超カワイイ完璧な先輩として、俺たち1年の間でも噂になっていたのだ。
「あ、ども」
ん?
俺は花宮先輩を褒めたはずだが、何故か浮かない顔をしている。
「あれ?すみません。もしかして先輩、褒められ慣れてなかったりします?」
だから浮かない顔をしているのか?
「んー?いやいや、むしろ褒められすぎてお腹いっぱいくらいなんだよ」
やっぱりそうなのか。
「じゃあな……
「さあさあ!そろそろ僕の自己紹介でもさせて貰おうかな!」
俺が『じゃあ何で浮かない顔をしているんです?』と聞こうとしたら、天皇寺さんが割って入ってきた。
「全く、こういう時だけそう言う気遣いしてくれるんだから……」
花宮先輩が、顔を少し赤くしながら何かを呟いた。
俺には聞き取れなかったが。
「おっほん!僕は副会長を務める天皇寺啓馬だ!偉大なる舞弥会長の後を継ぐ者として、日々研鑽を積んでいる!くれぐれも、僕のじゃ……
「まだ啓馬さんが会長になるとは決まってませんけどね。初めまして、高冬さん。私は会長補佐を務めます、近見恋華と言います。貴方にはとても、とても期待していますよ。よろしくお願いします」
「おい近見!僕がまだ自己紹介しているところだろう!割り込んでくるんじゃない!」
「そんなに期待してくれてるんですか?応えますよ!俺は!よろしくお願いします、天皇寺先輩、近見先輩!」
続いて自己紹介してくれたのは、天皇寺啓馬先輩と、天皇寺先輩の自己紹介に割って入った近見恋華先輩。
天皇寺先輩はいじられキャラっぽいな……。
近見先輩は黒髪で、ポニーテールだ。
天皇寺先輩は割と背が低め。
まあ、俺よりはデカイが、女子組よりも低いんじゃないか?
「よーし!じゃあ、最後は私だね!」
そう言って、生徒会長の椅子の上に乗り出す満上会長。
「私の名前は満上舞弥!役職は生徒会長!より良い学園を作るために、最高の仲間と共に頑張ってるよ!高冬くん……いや、真くん!君も今日からその仲間だ!ぜひ、私たちと一緒に最高の学園を作ろう!」
「ヒューヒュー!パヤパヤパヤ!」
天皇寺先輩のガヤが入り、すごく壮大な自己紹介になった。
満上舞弥会長。
黒髪のショートヘアーに、アホ毛とクリッとした目が特徴的な超絶可愛い人。
ていうか、彩女先輩以外みんな黒髪なんだな。
1人だけ髪色が違う彩女先輩が、言動も相まって余計異端に見える。
そして、会長の『真くん』呼びに密かに心躍っている俺。
「改めて、よろしくお願いします、満上会長!俺、誘いを受けて本当良かったって今思ってます!」
俺は賑やかな場所が好きだ。
この生徒会は誰がどう見ても賑やかな場所。
すごく居心地が良い。
「本当?それなら良かった!私も嬉しいよ!」
私も嬉しい?
そんな事を言ってくれるなんて!
俺には満上会長が女神に見えるね。
「それでね、私たちの活動なんだけどー」
「はい!」
生徒会の活動内容。
一体、どれだけ忙しいんだ?
「今は暇でーす!」
「そんなに忙し……え?」
ん?
今、『暇』って言ったか?
「先週も言ったと思うけどー、今は生徒会、暇なんだよねー」
「えぇー?そ、そうなんですか?」
生徒主体の学校だから、てっきり生徒会はくっそ忙しいと思っていたんだが……。
なんならバイトを減らす気持ちでいたぞ。
「つっても、今だけだけどな。イベント事がある時の忙しさは、夏の熊谷と冬の北極の温度くらい違うぞ」
「そ、それは違いすぎますね……」
そりゃそうか。
イベント事となると生徒会が仕切って、色々進めるはずだ。
くっそ忙しくなるのもうなずける。
「まあとりあえず真くんの目下の仕事は、来週の月曜日に、ボランティアでお世話になる方たちに挨拶してきてほしいんだよね。なっつんと一緒に」
「お、最初はウチと一緒か。よろしくね」
「挨拶、ですか。なるほど、了解しました!よろしくお願いしますよ、花宮先輩!」
ボランティア。
正直、忘れていた。
俺たちには、この学校に入学する代わりにボランティア活動に参加するっていう制約があったな。
まだボランティアの話は1回も来ていなかったが、今月、とうとう初活動って事か。
「くれぐれも、粗相のないようにしろよ。もしミスったらボランティア活動が白紙になるんだからな」
天皇寺先輩が釘を刺してくる。
「了解っす。ボランティアは大事ですもんね。ミスったりしないように気をつけます」
ボランティア活動が無いと、俺たち特別入学組がどうなるかも分からない。
無くす訳には行かないな。
「でもお前初めての生徒会活動で暴走して失敗したよな」
突然、彩女先輩が天皇寺先輩の失態を暴露する。
「そ、そそ、そうですね!僕は初活動で失敗した経験を活かして、後輩にアドバイスをしてるんですよ!アハハハハハハ!」
痛い所を突かれたと言う顔をしながら、天皇寺先輩はバレバレの言い訳をする。
「スケスケの言い訳をしてんじゃねぇよ死にかけの蛾がよぉ」
「啓馬さん、ダサいですよ」
「あの時は見苦しかったなぁ」
彩女先輩も近見先輩も花宮先輩も呆れている。
一体どんなミスをしたんだ!?
「くぅ〜。面目ないよ」
自分を哀れむ顔が3つもある為、さすがに天皇寺先輩も申し訳なさそうな顔をしている。
「でも、失敗を活かせる事は良い事だよねぇ〜」
「ですよね舞弥会長!僕は失敗するだけの男じゃないですから!失敗は、成功へと繋げる為の失敗。高冬!僕の失敗を無駄にするんじゃないぞ!」
満上会長のフォローが入り、一瞬で顔を明るくさせ、いい感じのことを言う天皇寺先輩。
女子3人からの哀れみの目が、さらに増したのを、俺は確認した。
「もちろんですよ天皇寺先輩。でも、先輩はどんな失敗をしたんですか?それを聞かないと、活かすに活かせないというか……」
「え、あ、ああ。僕がどんな失敗をしたか?あー、なるほどな、うんうん。あれ?大変ですよ皆さん!もう下校時刻が迫っています!急いで帰り支度をせねば!」
俺が過去の失敗を聞き出そうとしたら、そそくさと帰り支度を始めた天皇寺先輩。
「それでは、舞弥会長、他のみんな!今日もお疲れ様でした!また明日、よろしくお願いします!失礼!」
そして、チーターのごとく走り去ってしまった。
「待ってください啓馬さん!失礼します!」
走り去った天皇寺先輩を、近見先輩が追いかける。
「バイバーイ!」
満上会長は笑顔で手を振っている。
「確かに下校時刻は迫ってますけど、今日の活動はもういいんですか?」
まだ解散の合図が出てなかったので、勝手に終わっても良かったのだろうか。
「いいよいいよー。昨日、今日の活動内容は伝えてたからね。今日はもう終わりだよ!真くんも帰宅していいからね!」
「あ、そうだったんですね!了解しました!じゃあ、俺も帰ります。改めて、これからよろしくお願いしまっす!!!」
全力全開の挨拶をかます俺。
「うん!よろしくね、真くん!あ、後でKOMEで生徒会のグループに招待しておくから入ってね!それじゃ、バイバーイ」
「じゃあな。お前のキモいKOMEのアイコンをいじってやるから覚悟しておけ」
彩女先輩からも別れの挨拶をもらえたが、いらない言葉ももらってしまった。
「キモいって決めつけないでくださいよ!全く!さようなら!」
最後に花宮先輩にも手を振り、俺は生徒会室を後にする。
私立楽青学園生徒会。
生徒主体の学校のため、生徒会活動も忙しいけど充実した日々になるだろう。
個性的なメンバーも揃っていて、退屈する未来が見えない。
「満上会長、本当に、ありがとうございます」
将来のために、今を少し諦めていた俺に道を切り開く勇気をくれた満上会長に、俺は改めて感謝をする。
果たして、これから俺はどんな学校生活を送るのだろう。
くっそ忙しくなる事は目に見えているけど、それ以上に楽しい日々が過ごせると、俺は確信している。
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