第29話 高冬真友と生徒会役員たち②
〜高冬真友〜
「やあやあ高冬くん!よく来たね!ようこそ、楽青学園生徒会へ!」
生徒会室の扉を開けた俺を迎えてくれたのは、生徒会長の証である肩パッドをつけた満……ん!?肩パッド!?
「こんにちは。満上会長!?なぜ肩パッドを着けてるんですか!?生徒会長の証ってそれでしたっけ!?そんな物騒じゃなかった気がするんですが……」
挨拶もろくにせず、肩パッドに驚いてしまった俺は思わず突っ込んでしまう。
肩パッドなんて修行する人、もしくは戦いに出る人しか着けないだろ!?
「あ、これ?これはね、新しい生徒会長の証の候補なんだよ!どう!?威厳あるでしょ!」
そう言って、嬉しそうに肩パッドを自慢する満上会長。
実に可愛らしいが、その可愛らしさも肩パッドによって30%カットされていた。
「いや確かに威厳はありますよ?でも、それじゃあ何より歩きにくいでしょう!?危ないです!なんなら『生徒会長に肩パッドで攻撃された!』と苦情がきても言い訳できないですからね!」
肩パッドは少なくとも両幅40センチはある。
あんなので廊下を歩けば、ほぼ道を塞いでしまうしな。
「そっかぁ〜。天くんはすごい絶賛してくれたんだけどなぁ〜」
「ちょっと君!肩パッドの何が悪いっていうんだ!?舞弥会長にとても似合っているだろう!肩パッドの凶暴さと、舞弥会長の美しいご尊顔。このコントラストが素晴らしいんだ!」
俺に近づいてきて会長の肩パッドがいかに似合っているかを熱弁してくる、サラサラな前髪を横流しにしている男子生徒。
この人が恐らく『天くん』、もとい、さっき毒女さんから聞こえてきた名前から察するに、天皇寺さんだろう。
「いえいえ啓馬さん、想像してみてください。あの肩パッドを着けた人が廊下で目の前から歩いてくる所を。どうですか?危なくて、邪魔ですよね?」
すると、初めて見る女子生徒が俺たちに近づいてきて、少し狂った天皇寺さんの考えを正そうとする。
「……。確かに、邪魔かもしれない。でも、舞弥会長なら誰でも許すだろう!」
「それを許すのは貴方だけだと思いますよ、啓馬さん」
「ちょっとアンタたち、いきなり何新人巻き込んでんの?困惑するでしょ。まず、ウチらの事を教え込まなきゃ」
次は中性的な顔をした女子生徒が近づいてきた。
というか教え込むって……もっと別の言い方があるでしょうに。
「いいや、巻き込んでなどないだろう。先に肩パッドに触れてきたのはチビガキだ。もしこのやり取りが精神的にキツいようなら、今すぐ出ていくのが身の為だぞチビガキ」
次は毒女さんがまたもや俺に毒を吐きにきた。
おいおい嘘だろ?
この生徒会室には歯止めになる人材がいないのか?
このまま永遠に続きそうなんだがこの会話。
「ちょっと待ってください!この話は一旦ここでストップしましょう!俺、新しく生徒会に入る高冬真友っていう者なんですが……」
誰も止めてくれる人がいなさそうだったので、生意気ながら俺が止めさせていただいた。
……。
生徒会室に沈黙が流れる。
良かったんだよな?これで。
誰か反応してくれ!
「…………フフ。合格だな。たじろぐ様子さえ見せないとは」
「そうだね。これは合格でしょ、彩女さん」
俺が願った沈黙を破ったのは、毒女さんだった。
いや、それより。
「はい?合格……ですか?」
何のことだ?
合格……?
一体何が……いや待て、毒女さんの言動を思い出すんだ。
『家に帰れ』
『このやり取りが精神的にキツいなら出て行け』
このとおり、俺を家へと帰らせようとする発言と、俺を置いてきぼりにする生徒会メンバーの怒涛の会話。
そして、そのとどまるところを知らない会話を止めた俺が『合格』。
これらが意味するのはつまり……。
「分かりました。俺が生徒会に入るのを認めてくれたっていう認識で、大丈夫ですか?」
「そして頭の回転も速い……か。いいな。舞弥、ずいぶん良い素材を持ってきたな」
どうやら、俺の答えは正解だったっぽい。
つまり、俺は試されていたわけだ。
『生徒会のノリについて行けるか』、これが今回の試練の内容だろう。
「だから言ったジャーンあやめっちー!わざわざ試さなくてもいいって!私は分かってたよー、高冬くんが馴染めること!」
「まあまあそう言うなって。確かめておく事に損は無いだろう?」
「まあ僕は舞弥会長を信じてましたけどね。あ、それより舞弥会長、その肩パッド、もし使わないなら僕にくれませんか?」
「啓馬さん、なぜあんなものが必要なのですか?理由を詳しく聞かせて下さい」
「え?そんなもの、舞弥会長の使用ず……じゃなくて、アレを着けて家で修行したいからだよ!」
「修行がしたいなら、私が付きっきりで手ほどきしてあげます。なのでアレは要らないですね」
「そんな!ちょっと待ってくれ近見!」
「おーい皆さーん!また俺置いてきぼりになってますよ!早く構ってください!」
またまた俺が会話の蚊帳の外になっていたので、割って入る。
「いやぁ、ごめんね。この人たちいつもこうだからさ。止めるのも一苦労だよ」
そんな俺に、中性的な顔立ちをした可愛いとも、美人とも、カッコいいとも言える女子生徒が声を掛けてくれる。
「あ、やっぱりそうなんですか。そんな空気は感じてましたよ。ていうか、今回は止めてくれても良かったんじゃないですか?」
さっきのは試練だったから良いけど、今回は違うはずだ。
「え、もう君の仕事でしょ」
「仕事の引き継ぎ早い!」
ただの面倒の押し付けでは!?
「はーいはい、みんな!高冬くんも構ってくれって言ってることだし、そろそろ私たち生徒会紹介タイムにしようか!」
満上会長が、手をパンパンと叩いてこの場を収めてくれた。
「待ってました!」
やっと生徒会の事が詳しく知れるぞ!
楽しみだな!
「ったく、しゃーねぇなぁ。そんな私の愛犬の『待て』の時と同じような顔されたらなぁ」
「俺そんな顔してました?」
少なくとも舌は出してないはずだが。
「うるせぇ。私にそう見えたらそうなんだよ。いいか、私は徳川彩女だ。あの徳川家の子孫なんだよ。だから私の事は彩女様と呼びな。とりあえず、私ら3年はあと半年ほどだがよろしくな」
まず自己紹介をしてくれたのは、俺に散々毒を吐いていた毒女、名前は徳川彩女さん。
髪色は薄紫で、長い前髪を中分けにしている。
さっきまでしていなかった眼鏡を今は掛けており、機嫌が悪そうな目で俺を見ている。
「え?彩女先輩、俺何かしました?怒っているように見えますけど……」
俺はおずおずと、彩女先輩に機嫌が悪い理由を尋ねる。
「は?お前『様』付けはどこいったよ?しかもいきなり名前呼びとはずいぶんとやらかしてくれるじゃねぇか」
機嫌が悪かった顔がさらに怒りに染まり、俺が『様』を付けて呼ばなかった事に怒っている。
「いや、名前呼びはすみません。でも徳川先輩ってなんか言いづらくないですか?」
「1番呼びやすい『彩女様』っていう呼び方があるだろうが。何しれっと無視してんだ?お前の耳にはフィルターでも付いてんのかよ」
「名前呼びはOKじゃないですか……。ただ『様』を付けて呼ばせたかっただけですよね?信じてませんよ、徳川家の子孫っていう話」
確かに『徳川』の苗字を聞いたら徳川家を連想するが、さすがに証拠を出されないと信じられない。
「はっはは。徳川先輩、信じられてないじゃないですか!そりゃそうですよね!そんな言動していたら!」
俺が彩女先輩の話を信じなかった事に、天皇寺さんが爆笑する。
そんな天皇寺さんを見て、彩女先輩は……。
「おい駄犬。今からお前のズボンとパンツを切り裂いて家に帰れなくしてやるから大人しくしろよ」
「そんな事易々とさせると思いますか?誰かが止めてくれますよ」
そう言って余裕綽々の天皇寺さんを、2人の女子がホールドする。
「え……。近見?花宮?どうして僕の腕を掴んで離してくれないんだ?」
「啓馬さんは恥を晒すべきだと思いまして」
「こうしたら彩女さんの点数稼げるかなって思って」
「よーしナイスだ2人共。それじゃあ……行くか」
すると彩女先輩は机にあったハサミを持ち出し天皇寺さんに近づく。
「え?ちょ、ちょっと!本当に切り裂くの!?た、助けてください舞弥会長!」
「え〜。天くんのパンツ見てみたいし、助けな〜い」
「僕のパンツなら毎日見せますから今は助けて下さい!!」
「気持ち悪いんだよ天皇寺!!」
「いやぁぁぁぁ!」
ま、マジで切り裂こうとしてる!
「天皇寺さぁぁぁぁん!」
同じ男として、天皇寺さんの大事なモノは守らなければ!
そう思った俺は、天皇寺さんと彩女先輩の間に突撃する。
「た、高冬!君は!」
「邪魔すんな粗○ン野郎が!私を馬鹿にしたアイツに恥をかかせるんだよ!」
「だ、誰が粗○ン野郎ですか!言っておきますけど、俺のは本当に……
「うーわ、アンタら本当最低だね。見損ないましたよ彩女さん。高冬、アンタももう少し空気を読めると思ってたけど」
う、中性的な顔立ちの女子に怒られてしまった。
正直、ぐうの音も出ない。
俺とした事が、周りを見ずに下ネタを……。
「すいません、皆さん。確かに俺は最低でした。これから気をつけます」
素直に謝る。
「ま、ちゃんと分かってるならいいの」
「そうだぞ。図星だったからってムキになりやがって」
なっ!
こ、この人は本当に……。
「はいストップストップ。まだあやめっちしか自己紹介してないよ?これじゃあ時間が無くなっちゃうじゃん!」
た、確かに……。
さすが生徒会。
話が全然進まないほどの賑やかさだぜ!
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