第27話 瀧上一光の友達ロスト①
〜瀧上一光〜
「瀧上くん!もし良かったら俺とペア組まない?」
「え?」
4月30日の6時限目。
本日最後の授業は体育だ。
今は体育教師に、ペアを組み卓球を行えと指示があったのでペアを探していた。
そんな僕にクラスメイトの山田春人くんが声を掛けてきた。
「うん、いいよ。よろしくね、春人くん」
特にペアを組む予定の人もいないので、春人くんからの誘いを受ける。
……そしてこれは最近感じている事なのだけど、春人くんから声を掛けられる事が増えた気がする。
あの、部活動オリエンテーションの準備で手伝ってもらって以来。
僕にここまで声を掛けてくる人は少なかったから、余計そう感じる。
正直、迷惑だ。
何を考えて、僕に絡んで来るんだ?
そんな春人くんが怖いし、こんな事を考えている自分が嫌になる。
「どうしたの瀧上くん、早くやりに行こうよ」
全く動かなかった僕を不審に思ったのか、ラケットで僕の顔を仰ぐ春人くん。
「あ、ごめん。ボーッとしてたよ。行こうか、卓球台は限られているからね」
この学校には卓球台が6台しかないんだ。
体育の授業は3つの競技から選択する方式で、卓球を選択した生徒は18人もいる。
つまり、6人も余りが出てしまう。
これは、部活動が多い学校故に、部費を卓球部に回せていないせいだろう。
部費問題は、多くの部活動が抱えている問題らしい。
だけど、そんな中でも生徒会は良くやっている方だと先生方は褒めていた。
全く、何が『良くやっている』だよ……。
「あ、台がもう取られてる!空きが無いよ瀧上くん!」
僕がまた考え事をしている間に、どうやら卓球台が埋まってしまったらしい。
悪いことをしてしまったな。
いや、ダブルス方式で入れてもらえれば僕たちも出来るけど、今卓球台でプレイしている人達は極力人を入れたくはないだろう。
「空いてないし、もうその辺で喋ってようか」
そう言って、見学者用の椅子を指差す春人くん。
喋る?
僕と春人くんに、喋る話題はあるのか?
「他の余った人に取られる前に座っちゃおう!」
春人くんは、僕が返事をする前に椅子に向かって歩き出してしまった。
強引だな、と思いつつ僕もついて行く事にする。
春人くんが僕に話しかけてくる真意を確かめるチャンスかもしれない。
「あのさ、瀧上くんはゲームが好きなんだよね?」
椅子に座って開口一番、そんな事を聞いてくる春人くん。
「なぜそんな事を聞くの?」
素直に疑問に思ったので、聞いてみる。
「え?な、なぜって言われてもな。ただ気になったからだよ。自己紹介の時に言っていたよね?」
「そうだね、好きだよ、ゲーム」
良く覚えてたな。
もう、約1ヶ月経ってるのに。
まさか、その時から僕に狙いを付けていたのか?
パシリとかにでもする為に。
……いや、さすがに早計だな。
春人くんに失礼だ。
もっと確信を得られないと。
「やっぱり!どんなゲームが好きなの?俺も、結構ゲームするんだよね!」
目を輝かせている。
もしかして、何も企んではいないのだろうか?
僕の考えすぎなのか?
とりあえず、ここは話に乗ろう。
「そうだね、よくプレイするのはFPSかな。連続キルした時が気持ち良くて辞められないよ」
実際のところ、そこまでゲームはプレイできていない。
時間が限られてしまっているから。
でも、連続キルが気持ち良いのは本当だ。
日頃の鬱憤を晴らせるからね。
「FPSかぁ!俺も、友達と結構やってるよ!平地合戦とか、銃騎士バトルロイヤルとか!」
そんなつもりはないんだろうけど、春人くんのさりげない友達がいるアピールに、心がザワッとしてしまう僕。
本当、情けないな。
「僕も同じゲームをプレイしているよ」
まさかの、どちらも僕がプレイしていたゲームだった。
偶然もあるもんだね。
まあ、この2つはメジャーなゲームだからそこまで偶然では無いのかもしれないけど。
「本当!?もしかしたらマッチングしてたかもね!」
「そうだね」
「今度一緒にやりたいな」
「まあ、タイミングが合えばぜひ」
とか言っておきながら、どうせやらないのだろう。
こんな何気ない日常の会話なんて、すぐ忘れてしまう。
「だね!あ、FPSのほかにはやってるゲームはある?」
「他かぁ。放置した分強くなれる育成ゲームならやっているけど」
放置するタイプのゲームは、プレイする時間が少なくても強くなれるから、これも快感だ。
「あー!あれか!俺はやってないな。この際だし、俺もやろうかな?色々教えてよ!」
「いいよ……って言っても、チュートリアルをちゃんと読めば全部わかると思うよ。簡単だから」
なんてったって、基本放置するゲームなんだからね。
「そ、そっか!じゃあ、後でやってみるね」
「うん」
……。
僕たちの間に沈黙が流れる。
……果たして、今の会話に意味はあるのか?
いつのまにかそう思えてきた。
会話に意味を探すのはお門違い?
分からない。
もう、確信をついた質問でもする……?
これ以上話したところで、僕たちの関係性はクラスメイト以上にはならないだろう。
だって、僕が、一歩踏み込めないんだから……。
だから、たとえ嫌われても構わない。
現在の気まずい空気も嫌だし……。
「ねえ、春人くん」
「ん?なになに?」
なんて聞けばいいんだろう。
いや、ストレートに聞けばいいか。
「最近、僕によく話しかけてくれるよね?それは、なんでなのかな?」
「え?」
せっかく話しかけてくれてるのに、こんな事を聞くのは失礼だよね。
でも、僕は、聞き出さなければいけない。
「え、やっぱりバレてた?だよね。話しかけて、そのまま去ることもあったもんね……。うん、いや、そうだね。正直に言うと、俺はただ、君と友達になりたいだけなんだ」
「……!!」
まさかの回答だった。
僕と、友達になりたい?
そんな事を面と向かって言われたのは、これで2回目だ。
正直、嬉しい気持ちはある。
でも、僕は……。
「そっか、そうだったんだ。ありがとう、そんな事を言ってくれて。でも、ごめん。コイツなんなんだと思うかもしれないけど、僕は、君と友達になれない。ごめんね」
そう言って、僕は椅子から立ち上がり、現在進行形で卓球をプレイしている人たちの所へ向かう。
「え、ちょっと!瀧上くん!?どう言う事なの!?おーい!」
後ろから春人くんの困惑が混じった声が聞こえてきたけど、僕は無視した。
ごめん。
「やあ。点数係を探していないかい?暇だからやらせてよ」
教師に何もしてないと思われたくないので、適当なペアに点数係として混じることにした。
「お?マジか瀧上。さすが学級委員!サンキュ!」
どうやら了承してくれたみたいだ。
……春人くんから未だに向けられている視線が痛い。
けど、仕方ないじゃないか……。
僕は……自由に友達を作る事も、できないんだから。
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