第26話 山田春人と友達の作り方


〜山田春人〜


「おはよう!瀧上くん!」


「あ、ああ。おはよう」


よし!

今日も元気よく挨拶できたぞ!

今は4月30日。

部活の悩みを解決した俺は、恵美さんと新島さんの頼みを完遂する為に瀧上くんと仲良くなろうとしていた。

だからまずは挨拶から!と思ったんだけど、ここからどうしようか?


「うぃ〜っス」


俺が次の会話を考えていると、すでに疲れた様子の太郎が教室に入ってきた。


「あ、太郎!おはよう!」


「おお。よっス春人」


俺は作戦を考えるため、太郎の元へ一時撤退する。


「今日から朝練だっけ?」


「ああ、そうだぜ。本当、まじキツいわー」


「お疲れ様。ロードバイク部だよね?脚がやばいんじゃない?」


俺のこの学校での初めての友達である山田太郎は、俺と一緒にいくつもの部活を回って最終的にロードバイク部に決めた。

今までやってこなかったタイプの運動で、楽しそうっていうのが理由らしい。

昔から部活動を転々としている太郎がどれだけ続くかは分からないけど、今は楽しそうだ。


「そうなんだよ、脚がやべぇんだよ。ココ、触ってみ」


そう言って、太ももを出してくる。


「うっわ。パンパンだね」


自転車競技の人の太ももはまるで丸太の様だとは聞くけど、太郎のもそれに匹敵するくらいになるのだろうか?


「これはやりがいあるわぁ〜」


どうやら、太郎自身やりがいを感じているらしい。


「良かったね!今回は続きそうなんじゃない?」


「ああ。今までで1番気持ちが昂ぶってる。これは続くぞ!とか言って毎回辞めるんだけどな」


「なるほどね。じゃあどうなるか分からないって事か」


「そういう事だ。まあ、今が楽しけりゃ良いけどな!」


「それは大事だね」


真友も同じ事を言いそうだ。


「てか春人!お前の部活教えろよ!こないだKOMEで教えろって言ったのに口頭で言いたいって言っておいてからに!」


「あ、そうだったね!」


そういえば一昨日の土曜日に、太郎が部活何入ったか教えろってメッセージが来てた。

それで、せっかくだから口頭で伝えたいって返したんだよね。


「教えてあげましょう。俺が入った部活はね……」


さすがにもう邪魔は入らないだろうと思いながら話を進める。


「お悩み相談部だよ!」


さすがに邪魔は入らなかった。


「「お悩み相談部!?」」


俺が想像していた反応をする太郎。

ん?

でも今、もう1人の反応があったような……。


「夜風……くん?」


声がした方を向いてみると、怪訝な顔で俺を見ている1つ後ろの席のクラスメイト、夜風楓斗くんがいた。


「どうしたんだよ夜風。お前も春人の部活が気になってたのか?」


太郎も夜風くんに気づいたらしく、声をかける。


「え?あ、ああ。ごめんね。割って入るつもりはなかったんだけど、ちょっと驚いちゃって」


驚いた顔をしていた夜風くんは、すぐにいつもしている笑みを顔に浮かべ直して、太郎の問いの答えを返す。


「だよなぁ!驚くよな!何スか、『お悩み相談部』って!」


「ええ……。そんなに驚くことなのかな?名前そのままの部活だよ。生徒の悩みを聞いて解決する部活」


「はは。すごいなぁ」


夜風くんから少しだけだけど、乾いたような笑いが感じられた。


「そうだよすげぇよ春人。よくそんな部活入ったな!」


「前も言ったけど、ビビってきたんだよ。俺の性に合ってたっぽい」


「なるほどなぁー。じゃあ、俺も悩みができたら頼らせてもらうかー!」


「ぜひぜひ来てよ、歓迎する。あ、夜風くんも何かあったら来てね」


「うん。何かあったら頼らせてもらうよ」


夜風くんは相変わらずの良い笑顔だ。

いつも誰かと話すときはこの顔をしている気がする。

感じが良いから俺も見習いたいな。

これから沢山初対面の人と関わるから。


「あ!そういえば」


思い出した。

俺はさっきまで、とある事で悩んでたんだ。


「んお?どうした春人」


「突然なんだけど、友達になる条件って……何だと思う?」


「お前が悩んでるんかい!!!!」


俺が疑問を投げかけると、太郎はツッコミ芸人の如く背中を叩いてくる。

結構痛い。


「強く叩きすぎだよ太郎。そんなんじゃあツッコミが強すぎるって炎上しちゃうよ」


実際に存在したからね、炎上した人。


「別に俺は芸人になりたくはねぇよ!いや、無数にある可能性のドアの1つではあるかもしれんけど!そのドアを開くことはないだろ!」


なぜか、少しだけその気になっている太郎。


「でも、人生どうなるか分からないからね。太郎と俺でコンビを組んでる未来もあるかもしれないし」


「……。うん。今想像してみたけど、悪くはねえかもなとか思っちまったわ」


「それより友達の作り方なんだけど……」


「話題を変えるな!俺の想像力の消費を返せ!」


また俺の背中を叩く太郎。


「いや、元の話題はこれじゃん」


未来の話は派生しただけだ。


「ま、まあ確かにな。で?『お悩み相談部』の山田春人君が聞きたいのは、友達の作り方だって?」


「そうそう。どうやって作ればいいか分からなくなっちゃってさ。誰かに意見を求めようと思って」


「こいつ俺の皮肉を軽く流したな。んで、友達の作り方か……。俺もちゃんと考えた事は無かったな。まず、春人が今仲良い人とどうやって関係が始まったか考えてみれば?」


皮肉を言っていたが、しっかりと俺の相談に乗ってくれる太郎。

ありがたい。


「俺が今仲良い人か……。えーっと……」


1番仲が良い幼馴染の真友を抜いて、よく連絡を取り合ったりしてる人は4人ほどいる。

彼らとどう仲良くなったか……。

……。


「あれ??」


おおっと??


「ん?どした春人」


今まで、当たり前のようにつるんでいたから考えてこなかったけど、俺と彼らは真友を介して仲良くなったんだった。

つまり、俺が自分から作った友達は……いない?


「やばい事実に気付いてしまったよ。俺は友達を作った事が無いらしい」


「え?マジっスか?」


さすがに太郎も驚いただろう。


「うん。小学校の事はもう覚えてないけど、今現在つるんでる人たちは、全部俺の親友を介して仲良くなっただけだった……」


「おおぅ。そ、そうか、まだ無かったか……。ならば!この高校で友達を作ってしまえば良いだけだろう!?まだまだ全く遅くはないぜ!」


「な、なんでポジティブなんだ!」


太郎のポジティブマンっぷりが眩しい。


「当ったりめぇよぉ!ポジティブじゃないとやっていけんさこの世界は!」


そう言って自分の胸をドン!と叩く太郎。


「んで、友達の作り方だが、やっぱり共通の話題が1番だと思うんだ。だから友達になりたい相手の調査がまず必要だな」


「やっぱり共通の話題が1番かー。彼の好きな物は確か……」


瀧上くんは、自己紹介の時ゲームが好きだと言っていた気がする。

ゲームなら、俺も真友と一緒に良くやっていたから割と知識はあるぞ!


「彼?もう仲良くなりたい人は決まってんのか?」


そういえば、太郎には俺が誰と仲良くなりたいか言ってなかった。


「そうなんだよ。俺は、瀧上くんと仲良くなりたいんだ」


あの理由はさすがに伏せといた方がいいよね?


「この間少しだけ話す機会があってさ。その時に思ったんだ。この人と友達になってみたいなって」


話す機会とは、部活動オリエンテーションの準備の時だ。


「なるほど瀧上か。アイツすげぇ真面目そうでとっつきにくそうだけど。まあ、ただの偏見だけどな」


「いや、そうでも無いよ。ああいや、そうでも無いよって言うのは決して貶してるんじゃなくて、真面目な所もあるけど、真面目じゃない所もあるって言うか、とっつきにくくはなかったな」


藍野先生にキレて、報告を怠っていたし。

恵美さんとは少し仲悪そうではあったけどね……。


「へえ、意外だな。よしプラン決めたぞ。今日6時限目に体育あったよな?そこで瀧上とペアを組んで仲良くなるきっかけでも掴んでこい!」


「ナイスアイデア太郎!それいただき!」


太郎が実に良いプランを考えてくれた。

体育でペアを組めば、一緒に体を動かしながら自然と会話が出来るはずだ!


「よし!そうと決まれば、6時限目までの授業をとりあえず乗り切るぞ!」


「おー!」


今回の件は太郎にはあまり関係のない事なのに、こんなにも協力してくれるなんて……。

太郎には感謝しないとね!



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