第25話 高冬真友の結論〜山田春人の部活動を添えて〜




〜高冬真友〜




「気持ちよかったわぁ〜」


今は4月27日の23時。

出合壮の住人が、半分ほど寝静まっている頃。

バイトから帰り、春人と京夏ちゃんが作ってくれていたご飯を食べた後、風呂から上がり自分の部屋に入ろうとしたところで、俺はとある人物を見つけた。


「おお?おーい!春人!」


俺の心友であり、親友である山田春人だ。


「あ、真友!」


俺の声に反応した春人は、俺の方へと歩いてくる。


「よう春人!少し時間があるなら話そうぜ。話したい事と聞きたいことがあるんだ」


春人はここ2週間、部活動についてで悩んでたっぽいしな。

悩んで決めた答えをぜひ聞きたいと思っていたんだ。


「いいよ!明日から2連休だしね。真友の部屋でいい?」


「ん?お、おう!」


なんだ?

待ってました!と言わんばかりの顔をして、二つ返事で俺の誘いに応じてきたんだが。

いつもなら、もうちょっと渋ったり逡巡してたりしてたのに。

まあ、最終的には毎回俺の誘いに応じてくれるんだけどな!


「それで?俺に聞きたいことって何なの?」


俺の部屋へと入り、ベッドに座った瞬間、生き急ぐかのように質問してくる春人。

なんか変だな。


「どうした春人。ナニカ良いことでもあったか?」


「え?いや何も無いよ。全然いつも通りさ」


「うん。いつも通り、ナニカあった時の春人だ」


春人は結構素直な奴だから、顔にも出やすいんだよ。


「部活でも決められたのか?」


どうせそんな所だろう。

まあ春人からしたら、すごく大事なことなんだろうけどな。

実際俺も嬉しい。


「あれ?バレちゃった?流石俺のしんゆう!」


「今の『しんゆう』はどういう意味だ?」


真友、心友、親友、どの意味にも捉えられる。

1つ目だったら結構怖いけどな。


「もちろん全部だよ!それでね、俺が決めた部活だけど……」


「ちょいちょい待て待て。落ち着こうぜ春人。興奮しすぎだ」


全部て!春人は俺を所有してるとでも思っているのか!?


「いいや落ち着けないよ!」


ええ……。

今日の春人は人生の5本の指に入るくらいには興奮してるな。

これじゃあいつもと立場が逆だぜ。


「興奮を止められない理由を教えろ。そしたら聞いてやる」


せめて今日の春人の原動力だけでも聞きたい。

部活動が決まっただけじゃ無いはずだ。


「理由?そんなの1つだよ。それはね……」


「それは?」


途端、春人はカッ!と目を見開き、天を仰ぎながら嘆く。


「なんか今日タイミング悪くて俺が何の部活動に入ったか誰も聞いてくれないんだよ!いい加減言わせてくれ!!」


これが理由らしい。


「おおう、なるほど……。ドンマイ、春人。お前はタイミングが悪すぎる主人公属性だったんだな」


数多くある主人公属性の中で、山田春人に備わっているのは『タイミングが悪い』と『空気を読まず毒舌を吐く』のようだ。


「いやいや本当酷かったんだよ!学校では勿論のこと、壮に帰ってきても誰とも会わないし、京夏さんと料理してる時は京夏さんが危なかっしすぎてそんな暇なかったし、ご飯中は話そうとすると必ず何かしら起きてたんだ!」


「それはご愁傷様。てか、口頭で伝えられなかったんならKOMEすれば良かったんじゃね?」


俺は冷静さを欠いている男に、思考が短絡的になっている現実を突きつける。

ちなみに『KOME』とは、ID交換さえしてしまえばメッセージも電話も無料になる、超絶便利なSNSアプリだ。


「それじゃあ相手の反応が直に見られないじゃん!いつも頭が回る真友にしては、随分と雑な指摘だったね!」


なっ!コイツ……言うじゃねぇか。


「確かに、2週間も悩んでた姿を見せてたんだから、そんな悩み人の結論を聞いた人たちの反応が見たいのは分かる。だがな、お前が無理やりにでも伝えれば良かったじゃねぇか。たとえ邪魔が入ったって強引に伝えちまえば……いや、違うか」


そこまで考えて、俺に一つの考えがよぎった。


「さすが真友。分かってくれたね」


それを察した春人が同意したことにより、確信に変わる。


「なるほどな。多分だが、春人は"自分の話"をメインに聞いて欲しかった訳だ」


何かしらの話に割って話たくなかったつーことだな。


「正解だよ。晩ご飯中とか、みんなに相談乗ってもらってたりしてたからね。どうせならしっかり伝えたくて……と、いうか愚痴りたいんだけど!相談に乗ってくれてたのに何で聞かないんだ!?気にならないのかな!?相談乗ってくれたんだから答えを聞く義務があるでしょう!?」


珍しく取り乱し、俺に問いかけながら嘆く春人。

コイツがここまでになるって、果たしてどれだけタイミングが悪かったんだ?


「まあまあ、落ち着こうぜ春人!お前のその悩みもここまでだ。いるだろ?ここにお前の話を聞いてくれる最高神ユピテルが!」


「そうだったね!じゃあ聞いてもらおうかな!」


そう言って座り方を正座に変えて、語り始めようとする春人。


「ん?やべぇ電話だわ」


「最高神ユピテルさまぁぁぁぁぁ!?」


タイミング悪く電話がかかってきてしまい、立ち上がった最高神である俺に縋り付いてくる春人。


「あっははは!必死すぎるぜ春人!嘘だ嘘!最高神が途中退席するわけないだろう?」


そう言って真っ暗なスマホの画面を見せる。

電話が来たのは嘘。

今の春人をいじるのが面白そうだったから、つい嘘をついてしまったぜ。


「はあ。真友……俺は今いじりを軽く流せるほど優しくはないよ?」


ものすごく怒っている……雰囲気を漂わせている春人。

雰囲気が漂ってるだけで、実際そこまで怖くはない。

ここも面白いんだ。


「悪かったって!ほら、聞くから早く話せよ!俺も実は知りたかったしさ!」


もういじるのはやめよう。

これ以上は逆に面白く無くなってしまう。


「知りたかったならこんな事しなくてよかったよね?まあいいや。やっと言えるんだもんね。なんか感慨深いよ」


1日喋れなかったことを喋れるからって、80年前の自分の写真を見ているおじいちゃんみたいな顔をする春人。


「それじゃあ話をさせてもらうけど、結果は最後にするね。もったいぶりたいし」


「ああ構わんよ。しかし、結果を言う前に電話が来ないとは限らないぜ?」


「そんなのは分からないからいいよ。来ないと思って喋るさ。もし来たら真友のスマホを奪う」


「結局強引に喋ろうとしてるじゃねぇか!」


さっき自分の話をメインに聞いて欲しいって言ってたのに!


「そんなの忘れました。それでね、まず俺はクラスメイトの太郎って奴と一緒にたっくさんの部活に仮入部してたんだ」


もう話始めたよ。

我慢できなかったんだな。


「ああ山田太郎くんね。聞いたことあるな」


いつかの日、晩ご飯を食べているときにその名前を聞いたことがある。


「最初は運動系の部活を一通り回ったんだ。いや、一通りというか全部回ったね」


「全部!それはすげえな!」


運動系の部活だけでも40近くあったはずだ。

1日に複数の部活を回ったりしていたんだろう。


「だけど運動系の部活には特に惹かれなくて、結局文化系の部活も全部回ることになったんだよね」


「なるほど。つまり楽青高校に存在する部活全部を体験したと」


「そういう事になるね」


「おめでとう山田春人くん!君の行動力は素晴らしい!良い傾向だ!」


70近くある部活を全部体験するなんて、今までいなかったんじゃないか?

春人史上1番の行動力だ。


「いや、行動力があったって、決断力が無いなら全然良いことではないと思うよ」


「うん。いつもの春人に戻ったようだな」


この冷静なツッコミ、春人って感じがするぜ。


「でも、お前は決められたんだろ?部活。ちゃんと自分で考えて」


「うん」


今までの春人は自分で考えて物事を決める事が苦手だった。

それが悩みだといつも言っていたな。

そんな春人からしたら大きな一歩だろう。


「教えてくれよ。春人自身が決めた、その部活を


「うん。理由も合わせて教えるね。俺が決めた部活はねお悩み相談部だよ」


「お、お悩み相談部!?」


ここまで誰にも言えなかったんだ。

少し言葉を溜めて、部活を告げてくると思ってたんだが。邪魔が入るのを恐れてかそこまで溜めずに告げてきたから聞く姿勢がしっかり整ってなかった。

お、お悩み相談部って言ったよな?


「うん。お悩み相談部、だよ」


どうやら俺のリスニング能力は冴えていたらしい。


「そうか。それで?その結論に至った理由は?」


それが1番大事だ。

春人は一体どういう考えでその部活に入ったんだ?


「理由はね、嬉しかったんだよ。感謝されるのが。この間初めて気づいたけど、俺は割と承認欲求が強かったみたい」


「ほうほうなるほど。春人が承認欲求が強いのは知らなかったな」


今までそんな素振りを見た事が無かったから、心の奥底に眠っていたものが起きたのだろう。


「自分でも知らなかったよ。気づいたきっかけだけど、体験入部の時に1人の生徒の悩みを聞いたんだ。まあ、落とし物を一緒に探しただけだけどね。それで、一緒に1時間ちょっと探して、落とし物が見つかった時に感謝されたんだよ。その時に、俺の身体に電流が走った。達成感、高揚感、充実感の3感が同時に襲ってきたんだ。それで思ったね。これだ!これしかない!って。これが理由だよ」


「そっか。良かったな、春人」


「うん。嬉しいよ。自分で決められて」


15年間ずっと一緒に居たんだ。

春人が嬉しそうにしていると、俺も嬉しくなる。


「つっても、人生初の部活動が『お悩み相談部』って、どんな奴だよ笑」


「はは。確かに、ちょっと変かもね。でも、俺はここで良いんだ」


「ああ。お前が幸福そうなら良かったぜ。楽しめよ」


「うん。ありがとう!それじゃあ、俺は寝るね!」


「ちょっと待とうか春人くん。俺が君を呼んだ理由、忘れたか?」


俺は話したいことと聞きたいことがあると言って、春人を誘ったんだ。


「まだ俺の話したい事が終わってないだろう?せっかちさん」


「え?ああそうなの?てっきり話したいことって、俺の部活のことかと思った」


「ちっげぇーよ!確かにそれも話したかったけども!それは聞きたいことだよ。俺の話したいことは別にあるんだ」


「そうなんだ。じゃあ、聞くよ。プリーズプリーズ」


やっぱ少しテンション高いな春人。


「よしきた。俺の話したいことはな、ずばり!俺は生徒会に入るべきか否か!?だ!」


俺は未だに答えを出せていない。

だから、誰かに相談したかったんだ。

ちなみに、バイトが終わったら悩みを聞いてやるって言ってくれた江口先輩は彼女さんを優先して先に帰りやがりました。


「え?生徒会?なんでそんな事になってるの?」


「あ、そうか。そういえば春人にこの事まだ話してなかったな。えっと、実はだな……


「でも、悩んでるなら入っちゃえば?いや、入りなよ、真友」


「んん?」


俺が生徒会に誘われた事のあらましを話そうとした矢先、春人は急に俺に生徒会加入を促し……いや、強制してくる。


「え、強制?なんでだ!?」


「生徒会は、楽しそうなの?」


「生徒会?ああ。楽しくなる予感がしてる」


満上会長が面白い人なのだ。

他にはどんなメンバーがいて、どんな行事に取り組むのか、それを考えただけで震える。

正直、めちゃ入りたいとは思っているんだ。

ん?


「ああ、そうか」


なるほどな。

春人が強制してきた意味が分かった。


「そういう事だよ。真友」


俺が春人の事を自分の事のように分かっているように、春人も俺の事は自分のように分かっているんだ。


「こんなにも欲しているものを我慢するのは俺らしくないよな」


「その通りだよ。いつも通り、貪欲にいこうよ」


そうだ。

俺は、昔から欲に忠実だった。

我慢は身体に毒、というのを身に染みた以来な。

だから自分が欲しているものを手に入れるためなら、ある程度の無理はしていた。

もちろん、常識の範囲内でだ。

家で仕事がこなせる生徒会活動は、部活動よりかは融通が効くはずだ。

ならば、俺の進むべき道はもう1つしかない。


「やっぱ、春人に相談して良かったぜ」


俺の事を分かってくれている春人だから、俺が忘れていた事を思い出させてくれた。

 

「良かったよ。まあ、早く寝たいから適当に言っただけだけどね。じゃあ、俺は寝るよ、おやすみ」


そう言って、立ち上がり自分の部屋に戻ろうとする春人。


「そうかいそうかい。悪かったな寝かせなくて。ありがとな、良い夢見ろよ」


そんな俺の事を分かってくれている、嘘つき春人くんを送り出す。


「嘘だよな?さっきの。いや、嘘半分ってとこか」


自分の話を終えた後、本当に眠そうだったからな。


「よし、満上会長にメールは……明日でいいか。こんな時間だしな」


もう0時近い。

流石に迷惑だろう。


「よっし!無事悩みも消えた事だし、明日は『竜狩り一族の大冒険』を一気に進めるか!」


あの忌まわしきアンちゃんに、カセットをぶん取られたせいで3日も遅れて始めたから、まだ全然進めてないんだよ。


「いやぁ楽しみだな、生徒会!部活動は名残惜しいが、それ以上にワクワクが身体を支配してるぜ!」


勧誘してくれた会長には感謝しないとな。


これから、さらに俺の日常は忙しくなるが、それに見合った充実感が俺を満たすはず。


楽しみでしょうがない。


こんな素晴らしい俺の人生に祝福を!!!!!!


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