第24話 山田春人と高冬真友と部活動③



〜高冬真友〜



「……。ムムムムム。生徒会、ねぇ……」


とある商店街のゲーム屋のレジに立つ、悩んでますオーラ全開の男が1人。

まあ、俺なんだけどね!

何に悩んでいるかは言うまでもない。

今朝、満上舞弥生徒会長に生徒会に勧誘された件についてだ。

部活動に入らないと決めた俺が何故こんなにも悩んでるかというと、それは今朝の満上会長との会話に起因する。

あ、こっからは今朝の回想に入るぞ。


*****


「君にはぜひ、私たち生徒会に入って欲しいな!」


「え?えええぇぇぇぇ!?」


満上会長からの唐突すぎる勧誘に、俺は思わず大声で驚いてしまう。


「ちょ、ちょ待って下さい!俺たち、今部活動に入らないって話をしてましたよね!?そこからどう転んで生徒会に入って欲しいって話になるんですか!?」


生徒会活動だって忙しいはずだ。

それに勧誘するなんて、会長は一体何を考えているんだ!?


「私が君を誘った理由?それを話すには少し時間を取るけど、大丈夫かな?」


先程と立場が逆転した。


「え?ええ。俺の時間は大丈夫ですよ。けど、会長こそ大丈夫なんですか?結構ここに居座ってますけど」


生徒会長が朝早く登校しているんだ。

何かやる事があるに違いない。


「大丈夫大丈夫!実は私、今暇なんだー!だから、いくらでも話せるよ!」


「そうなんですか?じゃあ、理由お願いします」


じゃあなんでこんな早く登校してるんだ?

そんな疑問が浮かんだが、今は飲み込む。


「ではお話しさせて貰います!私が君を生徒会に誘った理由はね……」


そこで1度切り、真剣な顔になる満上会長。


「高冬くん。君が、私に似ていたからなんだ」


「え?俺が、満上会長に、似ている?」


思ってもみなかった理由だったので、思わず聞き返してしまった。


「そう、似てるんだ。私の、高校入学当初にね!」


入学当初、つまり高校1年生時代の会長に、俺が似ている?

一体どういう事だ?


「俺と昔の会長が似ているって一体どんな風に似ているんですか?」


答えを早く聞きたくて、急かすように早口で聞いてしまう俺。


「まあまあ、落ち着きたまえ。えっとね、実は私、入学当初は完全無気力女だったんだよね。なにも自分から行動する気が起きなかったんだ」


「ええ!?そ、そうなんですか!?」


驚いた。

今の会長を見ていると、そんな過去は想像できない。


「うん。ちょっと私も色々あってね、疲れてたんだ。今の私からは想像できないと思うけど」


「そ、そうですね。想像できないですよ」


心で考えてたことを言われてドキッとした。


「でしょ?でも、そう思ってもらえてるなら、成功だね!」


「成功……ですか?」


なにが成功なんだ?


「うん、成功!というのも、そんな完全無気力だった私を変えてくれた……いや、変わるきっかけをくれた人がいるんだよ!その人のおかげで今の私がいるんだ!」


満面の笑みでそんなことを言う会長。


「なるほど。でも、待って下さいよ。話の腰を折って申し訳ないですけど、俺は今無気力では無いですよ?なのに会長に似てるんですか?」


俺は将来に向けてバイトもしてるし、遊びだって存分に楽しんでいる。

だから、会長と同じく無気力では無いつもりだ。


「そうだね。確かに君は無気力では無いね!だから私と似ていたのはそこじゃないよ」


彼女は1度そこで言葉を切り、俺の後ろに回り込み振り返ってくる。

実に可愛い。


「ずばり!君、本当は部活動やりたいでしょ?」


「……!!」


俺に小銃バキューンポーズをしながら、そんなことを聞いてくる。

そんなこと。

そんなこと、なんだが……。

いやあ参ったな。


「図星……かな?」


何も言わない俺を見て、図星だと思ったんだろう。

それは図星だって?


「図星……です」


そう、図星なんだ。

……虚しく感じるからなるべく考えないようにしていたんだが、何を隠そう俺は部活動がやりたいんだ。

そりゃそうだろう?

だって、仲間達と切磋琢磨しながら人として成長したり、協力しながら同じ場所を目指したり、最高に楽しいだろう!

会長が先週言っていた通り『部活動』は高校で最後だし、尚更やりたい。

でも物事には優先順位があるわけで。

今の俺の中で部活動は3位なんだ。

だから仕方なく、部活動は諦めたんだが……。


「なんで、俺が部活動やりたいって分かったんですか?全くそんな気持ち出して無いつもりだったんですけど」


まさかバレるとは。

俺は割とそういうのを隠すのは上手いんだけどな……。


「うん?分かってなかったよ?」


「はい?」


え?

分かってなかったって?


「え?ま、まさか、かまをかけたってことですか!?」


「そう、せいかーい!いやぁごめんね、成功しちゃった!でも勘違いしないでね!もしかしたら、部活動やりたいんじゃないかとは思っていたんだよ」


やっぱりかまをかけられていたようだ。

やっちまった、油断してた。


「そうですか……。まあ、バレちゃったら仕方ないですね。認めますよ。俺は、部活動がやりたいです。でも、それがどう生徒会勧誘に繋がるんです?」


俺と会長が似ていたから勧誘されたらしいけど、まだその明確な理由を教えられていない。


「そうだねぇ。さっきの私の過去の話に戻るんだけどね、私は今の高冬くんみたいに、1年生の頃から朝早く登校して部活の朝練を眺めてたんだ。心のどこかで部活動やりたいなぁ、とか思ってたんだろうねぇ」


「でも、行動する気力が起きなかったということですか」


一体、何が会長をそうさせていたんだ?

気になるけど、それを聞くのは少し憚られる。


「そうそう。それでね、君と私が似ていたのはそこなんだよ!」


「そこ、というと、朝練を眺めてるところですか?」


「うん!その朝練を眺めてる顔がね、そっくりなんだよ、昔の私と。顔交換アプリを使ってるんじゃないかと疑うくらいにね!」


すると、会長はポケットをゴソゴソとし、スマホを取り出して俺にとある写真を見せてくる。


「ほらコレコレ!どう!?あり得ないくらい似てるでしょ!?」


「え?」


会長が見せてきた写真は、俺が逆光の中朝練を眺めてる画像だ。

こ、これは……。


「いやこれ逆光で顔映って無いですよ!ていうかめちゃめちゃ神々しいですね俺!」


「写真のタイトルは『逆光を浴びる高冬』だよ」


「いやタイトルそのまま!っていやいや。俺に見せてくれんじゃなかったんですか!?朝練を眺めてる画像を!」


そのためにスマホ取り出したと思っていたんだが。


「これも眺めてるじゃーん!まあ、これじゃないけどね!本当はコレだよ!」


ニヤニヤしながら、次に俺に見せてきた写真は俺が朝練を眺めてる(逆光無しバージョン)写真だ。

そうだよコレが見たかったんだ……ん?


「あれ?これ、良く見たらガチで顔交換されてません?俺と満上会長で。なんか俺がすごく可愛いんですけど」


いや、どう見ても顔交換されてるぞ!

顔の形がおかしい!


「可愛いなんてそんな!もうもう!」


少し照れた顔をして、俺の肩を叩いてくる会長。

相変わらず可愛い!


「本当はこれだよ」


そう言って見せてきた写真は、よくやく俺の朝練を眺めている横顔。


「で、こっちが私」


次に見せられたのは、ほぼ同じアングルで朝練を眺めている、今より少し幼い満上会長。


「うーん。確かに、同じ顔……してますね」


俺たには、俺が思っていた以上に同じ顔をしていた。

まるで、何かに想いを馳せるような顔。


「あれ?というか、この会長の写真は誰が撮ったんですか?まさか自撮りしたわけでもないですよね?」


これが自撮りだったら、もうそれは、モデルとかのオーディションに送る用の写真を撮ってるようにしか見えないし。


「これはね、私に変わるきっかけをくれた人が撮っていたんだ。あ、誰かって言うのは秘密ね!」


片目を瞑り、『しぃ〜』のポーズを取る会長。

そんなことされたら、余計気になる!


「秘密ですか……。分かりました。それで、話を戻すと、俺が会長と同じ顔をしてたから勧誘したって事でいいんですか?」


「うん。私に変わるきっかけをくれた人はね、

『君は今の現状に満足してるのかな?してないよね?そんな顔をしているんだから。だったら、今の現状を受け入れた上で、今をもっと楽しく出来るように努力をしたまえ!まず……そうだな。部活動に入りなさい!自分から動くことができたら、何かが少しずつ変わっていくはずさ!』

って言ってくれたんだ」


その時のことを思い出しているんだろう。

少しはにかみながら、語ってくれる。


「その言葉をきっかけに、私は行動を起こした。そしたら、本当に色々なことが変化していったんだ!ものすごい楽しい学校生活にになったんだよ!だから私は、私を変えてくれた人を心から尊敬してる。そして、私はその人と同じ事を、他の人にしてあげたいなぁ〜と、思うようになったんだ。それが、君を部活動や生徒会に誘った理由!」


「そうだったんですね……」


なるほどつまり、無気力だった会長が心の底の気持ちを看破されて、その気持ちに従ったら最高に楽しい日々を過ごせた。

だから君も、心の底にある気持ちに従えばもっと楽しい日々が待ってるよ!という意思のもと、勧誘してくれたって解釈でいいって事だよな?


「これでこの話はおしまい。どうかな?考え直してくれた?」


生徒会……か。


「いくつか質問構いませんか?」


考える前に聞きたいことがある。


「もちろん!」


「まず、この時期に生徒会に入れるもんなんですか?たしか、生徒会選挙が9月にあった気がします」


富取先生に渡されたパンフレットに記載があったはずだ。


「あーそこね!そこはもうね、うん、会長特権ということで!」


「なるほどそうきましたか」


さすが会長。

割となんでもありらしい。


「次の質問なんですけど、役職とかは?空きがあるって事ですよね?」


空きが無いと勧誘出来ないはずだ。

まさか、会長特権で新たな役職を作るわけでもあるまいし……。

あるまいし……。


「そこは気にしないで!今月から海外に留学し始めた役員がいてね。書記なんだけどね。そこが空いてるよ!」


「あ、そうなんですか」


会長特権を使うんじゃないかと考えていたから、ちゃんとした理由があって少し安堵する。


「分かりました。少しだけ、少しだけ考える時間をください。会長の話が結構身に染みたので、今答えを決めれそうにないです」


正直、会長の話を聞いて心が揺らいだ。

部活動に入れば、学校生活が楽しくなるのは目に見えている。

それを改めて、しかも2年先輩の人に言われてしまったら、心が揺らぐのも無理はないってもんだ。


「うん、いいよ!じゃあ、答えが決まったらすぐに連絡頂戴ね!スマホ出して!連絡先交換!」


「え?あ、はい!」


まさかの、図らずとも満上会長の連絡先をゲッツしてしまった。


「はいオッケー!良い連絡待ってるね!それじゃ!」


時計を見ると、すでに8時になっていた。

続々と生徒が登校してくる時間帯だ。


「はい!今日は長々とありがとうございました!」


*****


これが、今朝の一連の出来事だ。


「マジでどうすっかな〜」


「なんだ高冬。悩み事か?」


「あ、江口先輩」


俺が悩んでいると、よく同じ時間帯に働いている大学生の江口先輩が話しかけてきた。


「そうなんですよ。ちょっと、学校のことで」


「なるほどな。まあ、今は仕事中だ。仕事が終わったらいくらでも聞いてやるから、今は忘れろ」


しれっと、人生の先輩らしい事を言ってくれる江口先輩。

か、かっけぇ!


「そうですね。今は仕事に集中しようと思います。後でお願いしますよ?江口先輩」


どうせ明日からは2連休だ。

時間はまだあるさ!



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