第23話 山田春人と高冬真友と部活動②
〜高冬真友〜
「おはよう高冬。今日もやかましいな」
「おはようです朝永先輩。今日も眠そうですね」
4月27日金曜日、朝7時20分。
早朝の新聞配達のバイトが終わり、今日も早く学校に登校した俺は、校門前にいる眠そうな朝永先輩と挨拶を交わす。
「眠くなどない。朝の日差しが強いから目を細めているだけだ」
「そうだったんすか。確かに、今日はいい天気です。でも、気をつけてくださいよ?」
「ん?なにに気をつけるんだ?」
「え、先輩わからないんですか?今日、気をつけなければいけない事」
「なに?今日……。ああ、あれか!日焼けだろう!?」
「アッハハ!何言ってるんですか!違いますよこれですよ」
朝永先輩の回答に少し笑いながら、俺はポケットからスマホを取り出し、とある画面を先輩に見せる。
「んん?ハッハッハッハッ。なんだそれか!全く、僕を馬鹿にするのも大概にするんだな高冬!」
この人、腰に手を当てて笑っているぞ。
これがナチュラルなんだもんなー。
そんな朝永先輩も、ポケットからスマホを取り出して俺に画面を見せる。
「フンっ!どうだ!僕はもうすでにこなしているんだよ!」
「おお!本当だ!流石っすね!」
先輩が見せてきたのは、スマホのアプリゲーム『Earth娘』だ。
このゲームは、地球の環境を悪くする敵『汚染ン』を地球のEarth娘達が撃退する、という設定のソーシャルゲームだ。
俺が言っていたのは、このアプリゲームのプレ金クエストの事。
月の最後の金曜日に、超お得なクエストが出現するのだ。
俺と朝永先輩は、話してるうちにこのゲームをお互いやり込んでる事が発覚し、たまにゲームについてこうやって話しているんだ。
「フン。ちなみに、プレ金クエストの報酬で引いたガチャではこの娘が出てしまったよ」
口角を吊り上げて笑っている先輩が見せてきたのは、今ピックアップされているガチャの当たりキャラだった。
「ええ!マジっすか!う、羨ましすぎる!それ、フレンドに出しといてくださいよ!」
「何?出して欲しいのか。なるほどなるほど。では、強化アイテムを5個くれ」
「じゃあいいですさようなら」
取り引きに応じる気が無い俺はそそくさとその場を去る。
「おい!ならば3個でどうだ!なあ!」
このゲームにおいて、強化アイテムは貴重なんだ。
それを渡すわけにはいかないぜ!
俺は朝永先輩を無視して、校舎へと再び歩き出す。
ーーーーー
「意外ともう登校してる人いるんだな」
いつものように一本道にある花達に水をあげ終えた俺は、校舎の中を適当に歩いていた。
「おっはー!高冬くん!」
そんな俺の肩を、後ろから叩いて挨拶をしてくる人が1人。
俺が後ろを振り返るとそこには。
「うお!ま、満上会長!?おはようございます!」
例のごとく、満上舞弥会長がとびっきりの笑顔でそこにいた。
「やあやあ高冬くん!今日も水やりご苦労様!」
「え!?見てたんですか!?」
「うん!この目でバッチリと見ていたよ!」
「そうなんですか。まあ、朝学活まで暇なのでやってるだけですよ」
「うんうん!ありがとうね!」
「い、いえいえ!」
点数稼ぎも兼ねて行なっているため、少し罪悪感が襲ってくる。
「それでね!君に声を掛けたのは聞きたい事があったからなんだよね!」
人指し指をピンと立てて俺の目をじっくり見てくる満上会長。
「俺に聞きたい事ですか?いいですよ!なんでも聞いてください!」
あまりの可愛さに、目を逸らしながら会話に応じてしまう俺。
だって仕方なくね?
マジで可愛いんだって!
「そうさせてもらうよ!そう、君に聞きたい事とは、ずばり!」
「ずばり?」
「君の部活動についてだよ!」
「あ、あー!その事についてですか!」
俺は今絶賛笑顔を振りまいているが、心の中では少し焦っていた。
まじかー。
他でもない満上会長にそれを聞かれちゃうかー。
というのも、ちょうど1週間前にも満上会長と部活動の話をした。
その時点では、俺は部活動に入るつもりはなかった。
そしたら会長に『部活動には入っといた方が良いよ』と言われたのだ。
それから1週間じっくり考えた。
確かに、仲間たちと楽しく切磋琢磨できる部活動は魅力的だ。
考えるだけでも胸が躍る。
でも、俺は将来に向けてお金を貯めなければいけないだ。
しかも、今考えてる進学先に進むと遊ぶ時間も無い。
つまり、俺に残された遊べる時間は高校生活だけなのだ。
そんなこんなを考慮すると、やはり俺に部活動に割ける時間は無いという結論に至る。
だから、俺の結論をわざわざ部活に入るのに誘ってくれた会長に告げるのは、少し申し訳なく思う。
まあ、いずれは伝える事になるのだから、ここで嘘偽りなく伝えてしまおう!
「それでどうかな?部活動に入るか入らないか決めた?」
「ええ、もちろん決めましたよ!今日が期限日ですからね!」
ちなみに、部活動への入部届はこの時期にしか受け付けてないらしい。
「1週間じっくり考えました。その結論はずばり!」
「ずばり?」
「すいません!やっぱり入らない事にしました!」
頭を下げて、俺は考えた結果を会長に伝える。
「そっか……。頭を上げて、高冬くん」
言われた通り頭を上げると、満上会長の少しガッカリした顔が目に入ってしまった。
「理由、聞いても良いかな?」
「ええ。良いですよ。でも、少し長くなりますけど時間は大丈夫ですか?」
ここまで気にかけてくれてるんだ。
理由を話さない理由は無いよな。
忙しいであろう会長の時間が許してくれるなら。
「大丈夫だよ!30分でも、1時間でも!」
「いや、さすがにそんな掛からないですよ!……では、話しますね」
「お願いします」
「俺……将来先生になりたいんです」
これはまだ、誰にも話していなかった事だ。
「その為に、教育学部のある大学に行くつもりなんです。だから今のうちに出来るだけ学費をバイトで貯めておきたいんですよ。それが1つ目の理由です」
「……。先生……か。将来の夢を決めるのが早いね!まだ1年生なのに」
満上会長が目を細めて、慈しみがこもったような顔で見つめてくる。
「そうですね。確かに早い方だと思います。まあ、昔色々あったんですよ。過去の出来事がきっかけで将来の夢を決める人も少なくは無いですよね?俺もその部類なんです」
『子供の頃に医者に命を救われた』や『ドラマの俳優さんと仲良くなりたい』とか、将来の夢への想いが芽生えるシチュエーションは少なくは無いと思う。
「そしてもう一つ理由があります。遊ぶ時間の確保ですね。ネットで調べんたんですけど、教育学部はバイトも出来ないくらい忙しいらしいんですよ。学校にもよるらしいですけど」
バイトが出来ないくらい忙しくなると、当然遊びに回せる時間も少ないだろう。
「もちろん、就職したら遊ぶ時間が増えるわけでも無いじゃないですか。なので俺に残された自由時間は高校生活の間だけだなぁと思って。これが、2つ目の理由です」
「なるほどー」
「以上の2つを踏まえ、やっぱり俺は部活動には入らないという結論に至りました。ご清聴ありがとうございます」
「パチパチパチー!」
俺の話にしっかりと耳を傾けてくれた会長にお礼をする。
「うーん……うん!君の考えはよーく分かったよ!」
首を縦に振り、ウンウンと頷いてくれる満上会長。
納得してくれたのか?
「そんな君の考えを尊重して、私から1つ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「え?聞きたい事ですか?いいですよ!なんでも聞いてください!」
人生の先輩の意見は貴重だ。
もらって損は無い!
「君の話を聞いて、私は決心したよ!」
決心?
俺の話を聞いて、先輩が決心する事なんてあるか?
「高冬真友くん!」
「は、はい!」
急にフルネームを呼ばれた。
い、一体何を言われるんだ!?
「君にはぜひ、私たち生徒会に入って欲しいな!」
「え?ええぇぇぇぇ!?」
先輩から告げられたのは、唐突な生徒会への勧誘だった。
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