第22話 山田春人と高冬真友と部活動①
〜山田春人〜
今日は4月の27日金曜日。
部活動仮入部期間が終わり、本入部届けを提出する日だ。
仮入部期間は2週間もあった。
この期間中、俺はクラスメイトの山田太郎と一緒に膨大な量の部活動を体験した。
なんでも、この学校には部活動の種類がありすぎるのだ。
ただでさえ優柔不断な俺には、正直選べる気がしなかった。
だから、とりあえず気になった部活からどんどん体験したわけだけど……。
「うーん」
「おっす春人!」
朝8時20分、朝学活が始まる10分前。
俺が自分の席で悩んでいると、太郎が登校してきた。
「あ、おはよう太郎」
俺も挨拶を返す。
「悩んだ顔してるっスなぁ〜。部活だろ?」
「うん、正解……なんてね。実はもう部活は決めてるんだ」
「ええ!?まじっスか!なになに!?どこ!?」
太郎が早く教えろと言わんばかりに顔を近づけてくる。
そうなんだ。
実はもう、入る部活は決めている。
色々な部活動を体験してる時に1つだけ、たった1つだけ、ビビッ!と来たやつがあった。
1つだけだよ?
これはもう、優柔不断な俺にとって奇跡に等しい事だ。
そんな俺にビビッ!と来た部活はというと……。
「悪い、こいつ借りてく」
俺が選んだ部活を太郎に教えようとしたら、誰かに乱暴に首根っこを掴まれ教室の外へと連れ出された。
「え、あ、おい待って!せめて部活教えてくれぇ!気になるわ!」
太郎の静止も虚しく不発に終わり、俺たちはどんどん教室から離れていく。
一体誰なんだ!?こんなひどい事する人は!?
「ちょ、ちょっと!く、苦しくなってきた……。自分で歩くから離してください!」
俺が抗議すると、掴んでいた手を離してくれた。
「ゴホッ。あふぅ。全く、誰なんだ。こんな事する人は」
苦しかった息を整えて後ろを振り返ると、そこには乱暴でお馴染みのあの人が仏頂面で立っていた。
「……。山姥……」
ガッ。
「痛った!なんて事するんだ新島さん!今回ばかりは俺なにも悪くないよ!」
いきなり頭にチョップ入れてきたよこの人!
俺の事を強引に連れ出した、乱暴者は山姥……もとい、新島愛希さんだった。
「いいや、今回もアンタが悪いね」
「いや今回『も』って!俺がいつも悪いみたいな言い方しないでよ!」
それは人聞きが悪い。
俺も思った事を口に出してしまっているが、そう思わせる行動をする人が悪いと思うんだ。
「いやアンタが……じゃなくて、今はそんな話をしたいんじゃない」
そう言うと、新島さんの顔がさらに怒りに染まる。
「アンタ、瀧上の件はどうなってんのよ」
「ええ?あ、ああ。瀧上くんね。恵美さんの件だね」
「そう。アンタ、まだなんもやってないでしょ?」
「え?」
それは……。
「だから、アンタまだ瀧上と仲良くなってないでしょ?」
「え、なんで新島さんがそれを」
知ってるんだ!?
「アンタから話が来ないからウチが瀧上に接触した」
「えっ!なんでそんなことを!」
正直、俺のペースでやらせて欲しかったりする。
ここ2週間は部活に頭を悩ませてたから。
入りたい部活が決まったのも昨日だし。
「恵美の悩みを早く解決してあげたいの。逆に恵美からは何も言われてないの?」
「うん。恵美さんとはあの日以来その話はしていないよ」
恵美さんは基本、俺に任せてくれるみたいだ。
「あっそ。まあいいわ。それで、瀧上に接触した時にアンタの事を聞いたのよ」
「そんな勝手な!相談くらいはくれてもよかったんじゃないかな!?」
「うっ。ま、まあ確かにそれは悪かったけど……でも、アンタが何も報告しないから!」
「それはまだ俺が何もしてないからだよごめんなさい!」
話の流れで俺の非を認めてしまった。
「やっぱり……。2週間もあったよね?何してたのよ」
「この2週間はどの部活動に入るか悩んでたんだ。だからそっちに頭を回せなかった。優柔不断でごめん」
優柔不断な俺も悪いとは思っているので、ここは素直に謝る事にする。
「そ、そんな素直に謝られると、急かす気も失せるわね……。でも、入部届は今日提出でしょ?っていうことは……」
「そうだね。入りたい部活も決まったし、来週からは瀧上くんと仲良くなる作戦を遂行できそうだよ」
部活問題が無くなった今、考える脳を恵美さんの件に回せるようになった。
「ほんと、頼んだわよ?」
「うん。遅くなっちゃった分を取り戻せるように出来るだけ頑張るつもりだよ」
上手くできなかった時の為に、保険をかけるような言い方をしてしまった。
「あからさまに保険かけたわね」
うっ!
新島さんがジト目で俺を見つめている。
「まあいいわ。それより瀧上の事なんだけど、アイツほんと嫌な奴ね」
「え?なんかあったの?さっき接触したとか言ってたけど」
1回接触しただけで『嫌な奴』認定するほどの事でもあったのかな?
「あったわよ。昨日の放課後、ウチが瀧上に『ねえ、アンタって友達いるの?』って聞いたら……」
んん?
「いや待ってよ新島さん」
「は?なに?」
「確認なんだけど、瀧上くんとは昨日、初めて会話したんだよね?」
「そうだけど」
「ていうことは君はクラスメイトとはいえ、ほぼ初対面の人に向かって『友達いるの?』って聞いたってことだよね?」
「そうだって。アンタと友達になったかの確認なんだから、この質問で合ってるでしょ。なんか問題ある?」
「いや大アリだよ!よく初めて会話する人に対してそんな事聞けたね!」
さすが新島さん。
恵美さんの事になると相変わらずの馬鹿っぷり。
「うっさい!アイツと話すことなんてないんだから、聞きたいこと直球で十分でしょ!?」
「直球すぎるよ!それで?瀧上くんは何て言っていたの?」
『友達いるの?』なんて、初会話で言われた人は、果たしてどういう反応をするんだろう。
「アイツはウチに向かって『え?そんな事を聞くってことは、君は僕と友達になりたいのかな?』って言ってきたのよ?そんなわけないっての!」
「うわぁ。そういう反応をしたんだね、瀧上くんは」
確かにそう捉えることは出来るけども。
「そんで、ウチが『ちげぇよ。アンタはこのクラスに友達いるの?』って、改めて聞いたのよ」
「まだその質問続けるんだ……」
「そしたら『はあ?まあ、このクラスにはいないよ……。ていうか言わせてもらうと、君も友達多そうには見えないけど』って言われたわけ。それがムカついたから踵に蹴りを入れておさらばした」
こ。これは……。
「ひどすぎる!正直全部新島さんが悪いと思う!」
新島さんが先制攻撃をしているから、瀧上くんは嫌な奴みたいな反応しかできなかったんじゃないのかな?
「はあ!?なんでウチ?ウチはただ質問しただけじゃん」
「質問の内容も酷いし、何より手出しちゃってるから!その手を出してしまうのは、なんとかならないの?」
……。
いつだって、先に手を出した方が悪者になってしまうんだ。
「フッ」
ん?
「ど、どうしたの?突然笑って」
今笑うところあったかな?
「いや。思えば、ウチら同じような話しかしてないなと思ってさ」
「あ、言われてみれば……」
確かに、初めてたくさん会話した公園でも、同じようなことを話していた気がする。
2回目の公園でも同じだった。
「ははっ、本当だ。思い出してみたけど同じだね」
俺も思わず笑ってしまう。
「でしょ?まあ、そうなっちゃうのはアンタが悪いと思うけど。いちいちうるさいのよ。アンタは」
「いやいやいや!新島さんの暴力的なところが……って、これじゃあまた同じ流れになるね」
流石にもう学習したぞ。
「確かに。ウチも手を出したくなった」
「よし別の話しよう。新島さん部活動は決まった?」
また手を出されると面倒なので、早速別の話題を振る。
「部活ねぇ。まあ普通にバスケ部に入るつもりだよ」
「バスケかぁ。そういえば、自己紹介の時も言ってたね」
「言ったね。じゃあ、アンタは?2週間も悩んだんでしょ?ウチの頼みよりも優先させてたんだから、さぞ大層な理由があるんでしょうね?」
ふくみ笑いをしながら聞いてくる新島さん。
な、なんて意地の悪い人なんだ……。
「え?いやまあ、大層な理由というか、色々体験入部していっていたら、ビビッときた部活があってさ」
「あっそ。大層な理由は無いんだ。で?どの部活に入ったわけ?」
「それはね……」
新島さんの意地の悪さに呆れながら、俺はどの部活に入ったのかを告げようとする。
チャチャチャリュルリン……
相変わらずの、意味がわからないリズムのチャイムが鳴った。
朝学活開始の合図だ。
「あ、チャイム鳴ってんじゃん!遅刻する!戻るよ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!?俺の部活は!?」
「そんなの後でもいい!」
そう言って、廊下を走りながら教室へと戻って行く新島さん。
そんな!
さっきの太郎の時といい、今日はタイミングが悪い!
俺がどの部活に入ったか、いつ言えるんだ!?
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