第20話 高冬真友はバイト戦士①


〜高冬真友〜



4月20日


バイト戦士の朝は早い。


俺、高冬真友は早朝の新聞配達のバイトをしている。

時間は朝の5時から7時まで。

そのため、俺は4時20分に目覚まし時計の爆音で起きる。


「おはよう、世界。今日も俺を楽しませてくれよ」


そんな厨二臭いセリフを吐きながら、昨日のうちに用意していた学生服を着て朝ごはんを自室にて食べる。


「よし、行くか」


4時40分。

支度を終えた俺は壮を出て10分のところにある新聞会社へと向かう。


「おはようございまーす」


新聞会社の扉を開け、元気に挨拶する。


「はよーっす。来たか高冬。そこの山、頼むわ」


「ども、中山さん!了解しました!」


俺に仕事を教えてくれた、社員の中山さんに指示された朝刊の山を自転車に詰め込み、新聞配達開始。


「いやぁ。気持ちいいねぇ」


今日は快晴。

こんな日に早朝から自転車を漕いでいると、思わず声を上げたくなる。

そうこれだ。

俺が新聞配達のバイトを選んだ理由。

それは、早起きが習慣づけられるし、朝の陽気が気持ちいいからだ。


「あら高冬くん。おはよう。今日もやってるわね」


「あ、葉羽里さん!おはようございます!」


そしてもう1つ理由がある。

それは……。


「いつもありがとうね、こんな早朝から。さすが学生さん」


「いえいえ!学生の取り柄の1つは体力ですからね!葉羽里さんこそ、いつも早朝から掃除ご苦労様です」


こうやって、人と繋がることができるからだ。

俺は人と人の繋がりを大事にしている。

なぜなら、その繋がりが未来の自分に影響を与えるかもしれないからだ。

そして俺との繋がりが、相手にとってプラスになる事だってあるかもしれない。

だから俺は人との繋がりを大事にしている。

それがこのバイトを選んだ最大の理由だ。


「ありがとう。私も仕事が朝早いからね。早起きしないと掃除できないのよ。それより、時間は大丈夫?」


「あ、本当だ!少しやばい!すみません、ありがとうございます!じゃあ俺行きますね」


「ええ。頑張って!」


少し会話してると時間が無くなってしまう。

だけど、限られた時間の中で話すのも意外と楽しい。

さっきの人は葉羽里さん。

俺がバイトを始めた初日から今日まで、毎朝会っている人だ。

3回目に会った時から、こうやって少し喋るようになったのだ。


「おはよう、高冬くん。これ、持っていきな」


「おはようございます。え、いいんですか島さん!ありがとうございます。それじゃあ!」


次に会ったのは島おばちゃん。

たまに会うと、飴をくれるんだ。


「よし、この流れで終わらせるぞ!」


飴を食べてブーストだ!


ーーーーー


7時に仕事が終わる。

学校は8時30分登校なので、少し時間が余る。

だから俺はいつも早めに学校に登校し、色々やっている。


「おはよう高冬。今日も早いじゃないか」


「あ、おはようございます朝永先輩」


俺が登校すると、校門には自称次期風紀委員長の朝永誠治先輩がいた。

まあ、毎朝いるんだけどね。


「先輩もいつも早いですよね。朝練の人のチェックもしてるんですか?」


「当たり前だろう。朝練をしてる人たちだけチェックしないわけにもいかないからな」


風紀委員である先輩が行っているのは、生徒たちの身だしなみチェックだ。

基本的にこの学校は染髪は可能だが、ピアスを付けたり、タトゥーを入れたりするのは違反だ。


「なるほど。お疲れ様です。では、眠りこけないように気をつけてくださいね」


「おい!僕がいつ眠りこけた!変な言いがかりはするなよ!」


「いや、自覚なしっすか。ほんと、気をつけてくださいね。それでは」


俺は朝永先輩が立ったまま眠っているのを何度か見た。

だけど、先輩は自覚なしらしい。

少し面白いけど、心配になってしまう。


ーーーーー


「やってるねぇ」


一本道を歩き校舎を抜けると、そこには朝練を頑張っている生徒たちがグラウンドに沢山いる。


「そういえば、春人は部活決まったのか?アイツずっと悩んでたよな」


今週の月曜日に行われた部活動オリエンテーション。

そのオリエンテーション後に2週間の仮入部期間がある。

その期間中は自由に部活動を体験できて、仮入部期間が終わったら、自分が気に入った部活動に本入部という流れだ。

しかし問題が1つある。


それは生徒主体のこの学校だからこその問題なんだが、部活動が多すぎるのだ。

なんとその数70。

部員が3人いれば部活動として認めてもらえるシステムなので、これだけ増えてしまったらしい。

元々部活動に入る気のなかった俺はいいが、なにかしら入ろうと思っていた人たちは、悩みまくるだろう。


「駄菓子研究部、ラーメン研究部、スイーツ研究部とか、よく認められたな!」


ただ食べるだけの部活動じゃないか?

さすがに可笑しすぎてつい、独り言を呟いてしまう。

極めつけは。


「焚き火部って……。アウトドア部で良くね!?」


そう。

焚き火部なるものがあるらしい。

活動内容は単純。

夜に焚き火を行い、それを眺めるだけ。

いや、確かに焚き火は何とも言えない感じの癒しがあるけども。

最近地味に人気になってきているらしいけども。


「わざわざ部活動にする必要あったか?」


「あっはは。本当、それだよね。可笑しいよ。はは。でも、それがこの学校の良いところなんだよね」


俺の独り言に言葉が返ってきた。

その言葉の主は。


「あ、おはようございます!満上会長!」


私立楽青学園の生徒会長、満上舞弥先輩だった。



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