第13話 彼ら彼女らは学級委員
〜高冬真友〜
4月3日
今は高校初日の翌日、つまり登校2日目の3時限目。
俺たちのクラスは委員会決めを行っていた。
ちなみに、バイトのために朝4時起きしたから眠い。
「それでは次に学級委員に立候補してくれる方、いますか?」
富取先生が学級委員の立候補者を募ると同時に1つの手が挙げられる。
「わたくしがなります!わたくし以外にはあり得ないでしょう!わたくしがこのクラスのトップに立ちますわ!」
速攻立候補したのはお嬢様の姫乃真輝ちゃん。
社長令嬢らしく、このクラスのトップに立ちたいようだ。
これも彼女の試練の1つなのだろう。
「ほかに立候補者がいなければ、女子生徒は姫乃さんで決まりです。男子生徒で立候補する方はいますか?」
委員会は基本的に、男女1人ずつがなる。
「共にトップに立つには、わたくしに釣り合う方になっていただきませんと。このクラスにはいないようですね。時間がもったいないですし、次に進めませんか?先生」
男子からの立候補者が出ず、姫乃さんが痺れを切らす。
そこまで言っちゃったら誰も出ない気がするけど……。
「学級委員は後に回します。次は体育実行委員です」
先生も決まらないと判断したのか、次の委員会決めに移った。
「はいはーい。ウチがなりまーす」
体育実行委員に名乗りをあげたのは久留美だ。
「あと、そこの染谷くんもやりまーす!」
「はぁ!?おい片名!勝手に決めんなって!」
久留美は相方を「勝手に」研士郎にしようとする。
昨日の朝から喋ってたし、あいつら知り合いだったのか?
「おーい、真!俺の身代わりになってくれね?俺は片名とは出来ねーよー!」
おいおい研士郎!俺に振るんかい!
俺は……仕方ねぇか!
「んん?いや、悪いけど無理だわ。先生!俺、学級委員やりますわ!」
さっきから考えていたことだ。
誰もやろうとせず決まらないのなら、俺がやってしまえばいい。
「わかりました。では男子の学級委員は高冬さんで決まりです。よろしくお願いします」
「高冬さん」という呼び方に慣れてないので、若干むず痒さを感じる、が、これで学級委員は決まりだ。
残りは体育実行委員だけ。
ちなみに、他の委員はすでに決まっている。
「それでぇ?やるよねー?染谷くーん。体育実行員!」
さっきの話の続きだ。
研士郎が体育実行委員を久留美とやるか。
「……。わかった降参だ。やるよ、実行委員」
研士郎が折れ、実行委員を承諾する。
「いえーい!決まりだね!改めてよろしく!」
久留美も嬉しそうにVサインを作る。
なぜそんなに研士郎とやりたかったのか。
是非とも詳しく聞きたいな。
「それでは次の時間は教科書を配ります。学級委員の二人には運ぶのを手伝っていただきます。着いてきてください。他の生徒はパンフレットでも見ながら待機していてください」
早速仕事が来たな。
先生の手伝い。
なんとも学級委員らしい仕事だ。
俺は姫乃さんと一緒に先生へついて行く。
目的地へ向かう途中で、不機嫌な顔の恵美ちゃんとすれ違った。
俺には気付いていない。
おそらく一緒に歩いていた男子生徒に怒っているのだろう。
「ここからここが、3組の教科書です。手分けして持ち運びましょう」
多目的室に到着。
クラス全員分の教科書が7種類以上ある。
結構な量だ。
もうちょっと人員を増やした方がいい気がするが、ここには俺たちしかいないので仕方ない。
「仕事があるからと仰ったので何かと思って来てみれば、こんなことをやらせるつもりですの?」
姫乃さんが学級委員の仕事に文句をつける。
「まあまあ。これも学級委員生活、つまり試練の1つだからさ。一緒に頑張ろうよ。俺もたくさん持つから!」
「試練」という言葉を使い、姫乃さんの説得を試みる。
「……。分かりました。これもお父様の試練だというならこなして見せましょう」
そう言うと姫乃さんは一気に教科書を持ち上げようとしてふらつく。
「おっと。そんな無理しないで、自分に合った量を持ちなよ」
ふらついた姫乃さんをキャッチしする俺。
「あ、ありがとうございます。ですがこの程度の量ならば心配要りません」
姫乃さんはそう言っているが、手はプルプルと震えている。
身体は正直だ。
「よっと。俺がその分多く運ぶって!だから姫乃さんは少ない数での往復で数をこやしてよ!」
姫乃さんから教科書をぶん取り、別の方法を提案する。
「わ、分かりました。自分の裁量を測るのも大事だ、とお母様から言われていました。これもその一環と捉えます」
「そうそう。それじゃ!パパッと終わらせよっか!」
ーーーーー
「ゼェゼェゼェ。つ、疲れた……」
「お疲れ様です。次で最後になりますね」
運び始めてから約15分。
やっと終わりがきた。
途中でもっと楽になる道を見つけたから少しだけ疲れは減ってるはずだけど、それでもヤベェっすわ。
「最後は私が持ちます。お2人は教室で休んでいてください」
最後に残っているのは俺が毎回持っていた、鼻辺りまでの高さの束。
俺がそれを持つのに、実は結構無理していた。
「いえいえ、最後は漢である俺が持ちますよ!力仕事は漢の仕事ですから!」
最後のは俺が運ぼうと思い、多目的室に向かおうとする。
「いえ、貴方はもう限界でしょう。むしろここまでよく頑張ってくれました。休んでいてください」
先生に却下された。
「いえいえ、先生も結構運んでたでしょう。ここは俺が……
「休んでいてください」
「俺が運びます」と言おうとしたら、物凄く怖い形相で止められた。
そして多目的室へと向かう。
「お、恐ろしい方ですわね」
先生が見えなくなってから、姫乃さんが俺と同じ気持ちを呟く。
「ああ。俺が15年間生きてきた中で一番怖い女性だよ。俺の身を案じてくれるのはありがたいけどね」
先生はもう限界の俺の身体を気遣ってくれた。
怖い人だが、優しい人でもある。
「わたくしはお母様が恐ろしい方なので、慣れているつもりでしたが……まだまだですね」
「へぇ〜。姫乃さんのお母様、怖いんだ?」
気になる話を聞いたので、真相を確かめる。
「ええ。それはもうとんでもなく。ですが、それはわたくしを想っての事と知っているので、嫌ではありませんわ」
「なるほどねぇ。お父様は?厳しかったりするの?」
「お父様ですか?お父様は……というか、貴方に教える意味はないですわね。早く教室に入りましょう。流石のわたくしも、少しだけ休息が欲しいです」
そう言って教室へと入る姫乃さん。
なぜか分からんが、急に話を切り上げられた。
まあたしかに、俺に教える意味はないけど……。
まあいいや!
それよりさっき見かけた恵美ちゃん、結構怒ってたなぁ。
それこそ、俺に怒ってる時みたいな……。
〜出合恵美〜
「本当なんなの!アイツ!」
多目的室で1人になった私は壁に向かって毒を吐く。
「あんな奴と組まされるなんて、最悪よ!」
私の怒りの矛先は、私の前の席に座っていた瀧上一光という男子生徒だ。
私は彼と同じ学級委員になった。
私は昔から学級委員をしていたから、自分から立候補した。
彼も昔から学級委員をしていたらしい。
私がアイツの何に怒っているかというと……
ーーーーー
「僕が全部運ぶから、出合さんは休んでてよ」
これから使う教科書を学級委員の私たちが教室へ運ぶ際、そんなことを言われた時はアイツの神経を疑った。
「はあ?なんでそうなるの?私も普通に運ぶわよ。同じ学級委員なんだから」
私がそう言うと、アイツは一瞬驚いた顔をして、
「いや、僕が運ぶよ。女性に重いものを運ばせるわけにはいかないし」
そんなことを言ってきた。
「はあ?あまり舐めないでよ。体力は割と自信あるんだから。てゆうか効率悪いじゃん。1人で運ぶのは」
「いいよ。効率悪くても。この量を運ぶのに2人しか人員を割かなかった先生が悪いんだ。何か言われたら言い返すよ」
そう言って教科書を運び始める瀧上。
持った教科書の量は顔が隠れるほど。
持ちすぎよ!
「ちょっと待って!話を聞け!」
アイツは大量の教科書を簡単に運んでいる。
アイツの筋力に少し驚きながら、追いかける。
「ちょっと!待ってよ!」
アイツに追いついた私は彼を責め立てようとした時。
「……ほら。さっきは手伝うとか言っておきながら、持ってきてないじゃん」
「え?」
瀧上が少し残念そうな顔でそんなことを言う。
「本当に運ぶ気があるなら僕なんか放っておいて、勝手に運べば良かったのに。それをしないってことは、任せられるなら任せたかったんでしょ?」
せ、正論……。
確かに、私が取るべき行動は勝手に運び始める事だったかもしれない。
でも、だからってこの言い方はムカついてしょうがない。
「なにその言い方。アンタが私の話も聞かずに勝手に運び始めたから追いかけてきたの。
終わってない話し合いを終わらせるためにね。任せようとしてるなんて勝手に決めつけないで」
私も反論する。
「僕は話し合いをしてるつもりはなかったんだけど」
あーもう!
ムカつく!
「あっそ!もういいわよ!勝手に運ぶから!話にならない!」
こいつには話が通じない!
こいつが言ったように勝手に運べばいいのよ!
そう思い、私は多目的室へと戻る。
「ありがとう 」
私の去り際、瀧上が何か言っていたけど、その言葉は私には聞こえなかった。
ーーーーー
「本当なんなの!アイツ!」
そうして今に至る。
アイツ……瀧上は私に頼らず1人で仕事をこなすつもりだった。
それは「女」を舐めてるから?
それとも「私」を信用してない?
会って2日の私を信用しろとは言わないけど。
ていうかこれは信用が必要な仕事でもない。
ただ2人で運ぶだけ。
なのに瀧上は私に運ばせようとしなかった。
なぜなの?
考えても答えが出てくるわけではないので、考えるを辞めて、教科書を運び始める。
「高冬を相手にするよりもイライラするわね」
高冬も、いちいち言動や行動がムカつくけど瀧上ほどイライラはしない。
それが何故だかはわからない……けどなんていうか、瀧上は私をバカにしてる感じが伝わってくる。
それがイライラに繋がっているんだと思う。
「これからアイツと一緒に学級委員、できるの?」
堪らずそんな独り言が漏れてしまう。
「……!」
教科書を運んでる最中に瀧上とすれ違った。
言葉は交わさない。
でも瀧上は私とすれ違うときに少し驚いた顔をしていた。
なんで?
そんな驚くことなんてないと思うけど。
ますます瀧上の事が分からなくなる。
アイツは私の学級委員生活の中で1番厄介な相手だ。
学級委員生活はこれからも続く。
私は果たしてアイツと……瀧上一光と、上手くやれるのかな?
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