第11話 高冬真友と1年3組②




〜高冬真友〜



「おはようございます。私は、1年3組の担任を努めます、富取万智子です。よろしくお願いします」


うん。

フラグを立てた俺が悪かった!

担任になって欲しくないなんて思わなければよかった!


俺の担任となった先生は富取万智子先生。

先程の劇的に怖い女性の先生だ。

まあ美人ではあるので、怒らせなければいいだろう。


「では、まずはパンフレットを配ります。後ろに回してください」


富取先生の配った学校のパンフレットには、この学校についての規則や地図、存在する部活などが事細かに記載されている。

これさえあれば学校のことが殆ど分かる。

それぐらいには完成されたパンフレットだ。


「何か質問はありますか?」


質問か。

正直、このパンフレットが完璧すぎるので聞きたい事がない。


「無いようでしたら、次はこちらを記入してもらいます」


誰からの質問も無いことを確認した先生は次の紙を配る。


「今から15分時間を取ります。自己紹介シートを記入して下さい」


自己紹介シートか。

出来れば前に出て口頭で自己紹介する形が良かったけど仕方ない。

その方が良くその人のことを知れるからね。

いや、シートに書くからこそ出せる部分もあるか?

これはどっちもどっちだな。

よっしゃ!めちゃめちゃ目立つように書いてやるぜ!

シートを見てみると、名前、趣味、特技、好きな音楽、好きなTV番組、などなど、結構な量の書くべき欄がある。

ここまでされると確実にシートに書いた方が口頭よりもより相手のことが分かるね。

実にありがたい。


「では、その自己紹介シートを持ったまま机を移動しましょう。形は……」


きっかり15分後に次の指示を出す先生。

次はグループ学習的なことをするのか?

とりあえず、席の形を黒板に書かれた通りに動かす俺たち。


「今同じ島にいる人たちは、来たる校外学習で同じ班になる人たちです。自己紹介シートを交換し合い、交流を深めてください」


校外学習か。

そういえばパンフレットに書いてあったな。

確か、来週の月曜だった気がする。

そうか。

とりあえずは一定の人たちと重点的に仲良くなった方が良い、という先生の判断のもとこの感じにしたのかな。

それなら、教壇に立って自分の好きなように自己紹介するのではなく、シートに細かく書かせたのもうなずける。


「それじゃあ交換を始めようか。時計回りでいいよね?」


俺は我先に場を回すポジションになる。

こうゆうのは得意だからね。


「OK!じゃあ回そうか」


俺の2つ後ろの席の男子生徒が賛成したところで、シートの交換を始める。

最初に回ってきたのは俺の前の席の男子生徒。

名前は染谷研士郎。

俺の第一印象は襟足くんだ。

元ヤンなんじゃないかと思うくらいに襟足だけ長いのだ。

書いてあることを見てみると、趣味はゲーム、特技は格闘技。

好きな音楽はロックで、好きな番組はスポーツ系。

なるほどね。


「染谷くんは昔ヤンチャとかしてた?襟足長いけどこだわりとかあるの?」


俺は早速気になったことを本人に聞く。


「ん?ああ。これは俺の家の伝統?的なやつなんだ。ヤンチャとかはしてなかったよ」


そう笑って言う染谷くん。


「あと、俺は研士郎でいいよ。君は?」


「あとでシート回ってくると思うけど、俺は高冬真友。好きなように呼んでくれ!よろしくな!」


「おっけ。真って呼ぶわ」


「了解!」


襟足くん……もとい研士郎は、ヤンチャではなかったらしい。

とりあえず話しやすい奴でよかった。

……なんかやけに俺と研士郎の話に耳を傾けていた女がいたが、そこは気にしない方向でいこう。


次に回ってきたのは左の列の女子生徒。

名前は片名久留美。

まあ、あの久留美だ。

説明は無しで行こう。

書いてあること全部知ってるわ。


「おいおい!すげぇな!たかとう!」


と、久留美の紹介を飛ばして次のシートに行く準備をしていたら、2つ後ろの席の男子生徒が驚きの声を上げて俺を呼ぶ。

なんだ?なんだ?


「ん?俺を呼んだ?どうしたの?」


「ようようたかとう!実は俺もたかとうなんだよ!そして君もたかとう!これはたかとう同盟を組めるぜ!運命だぜ!」


たかとうを連呼されすぎて崩壊しそうになるが、これくらい騒がしい人の方が俺は好みだ。

てか、俺から3人続いて、苗字がたかとうだって!?


「まじで!それはすげぇな!俺は高いの高に寒い冬の冬で高冬だ!よろしく!」


俺は興奮気味に自己紹介する。


「俺は同じ高いの高にエッフェル塔の塔で高塔だ!こちらこそよろしく!」


2つ後ろの席の男子生徒……もとい、高塔も興奮気味に自己紹介する。


「君は?君もたかとうなんだよね?」


俺は横に座る女子生徒にも声をかける。

彼女もたかとうらしい。


「わ、わたしは、高い島で、高島です。よ、よろしく、お願いします」


と、小さい声で、途切れ途切れに自己紹介をする高島さん。

髪の毛も前髪で目が隠れているし、引っ込み思案な子なのかな?


「よろしくね!高島さん!てか俺たちみんなたかとうなら下の名前で呼んだ方が良くない?」


「確かにな!俺は道也だ!」


俺が提案するとすぐに道也が賛成してくれた。


「俺は真友ってんだ!好きに呼んでよ!高島さんは?よければ名前を教えてほしいな」


「 な、名前ですか!?な、な、な、名前は、ま、眞友、です」


耳まで赤くして名前を教えてくれた眞友ちゃん。


「教えてくれてサンキュー!眞友ちゃんって呼んでいいかな?」


「ええ!?あ、わ、は、はいぃぃ」


名前呼びに慣れてないのが伝わってくる。

でも、了承してくれたのは嬉しいな。


「ちょっとー、そろそろシート回そうよー」


久留美が待てなくなったみたいだ。


「そうだね!ごめん!時間取っちゃって!」


そう謝罪した後、シート回しを再開する。


次に俺に回ってきたのは、久留美の後ろの席の女子生徒。

名前を金山瑠璃奈という。

趣味はライブ鑑賞と食べること、それとイケメン鑑賞らしい。

イケメン鑑賞?まあいいや。

特技は目が良いこと。

好きな音楽はラブソング、好きな番組はテスターハウスだ。


「金山さんは、好きな俳優さんとかいるの?」


他のみんなも質問したりしているので、俺も金山さんに気になったことを聞く。


「ん?いるよ。武中京真とかね。高身長でスタイルいいから好き。あんたとは似ても似つかないね笑」


なっ!こいつ!

早速俺の身長弄りやがって!

見れば久留美が笑いを堪えてやがる!チキショー!


「あーあ!俺の身長馬鹿にしたな!そんな君のことはこれから山ちゃんと呼んでしまおう!」


反撃として、俺は金山さんにあだ名をつける。


「なっ!絶妙に嫌なあだ名つけないでよ!呼ぶならコンちゃんでしょ!なんで山の方なのよ!まあ、あんたにあだ名で呼ばれるのは嫌だけどね!」


「まあまあ落ち着ちつきなよ、リナちゃん。彼はコンプレックスを突かれてムキになってるだけだから」


山ちゃんの隣の席に座る女子生徒がなだめる。

なんかしれっとコンプレックスと決め付けられたんだが。

まあ、正解なんだけどね。


「まあいいさ。俺は高校卒業する頃には180センチ超えるからな」


「もうちょっと現実を見たほうがいいんじゃない?まずはわたしを超えなよ笑」


だぁぁぁぁぁ!チキショー!

山ちゃんが笑いながら挑発してきやがる!


「ああいいぜ!すぐに超えてやる!てか、身長高くね?山ちゃん。羨ましいねぇ。かっこいいよ!」


「……。それはどうも。てか山ちゃんって呼ぶのやめてよもう!」


少し顔を赤くする金山ちゃん。


「おけおけ。じゃあ普通に金山ちゃんで」


「まあ、それならギリ……いいよ」


「よし!じゃあ次回そう!」


続いて俺に回ってきたのは金山ちゃんの隣に座る女子生徒。

名前は最河優美。

ロングヘアーの優しそうな笑みを浮かべている子だ。

趣味は、リナちゃんと遊ぶこと。

特技は記憶力があること(リナちゃん関係のみ)、好きな番組好きな音楽はリナちゃんと一緒。

うーん、これは……。

リナちゃん愛が爆発してるな!

リナちゃんとは、金山ルリナのリナだろう。


「最河さんは金山ちゃんとは幼馴染とかだったりするのかな?」


どうせそうだろうとは思うが聞いてみる。


「貴方には教えないわ」


極めて優しい笑顔できっぱり断られた。

え?もしかして俺、また嫌われちゃいました?


「それはウチも気になってたんだけど、実際どうなん?」


次は久留美が聞く。


「私たちは中学からの付き合いだよ」


普通に教えてくれた。

つまり、俺は嫌われちゃいました。


「ほーん」


「いや、聞いたんだからもっと興味持てよ!」


久留美があまりりも興味なさそうだったのでツッコミを入れてしまった。


「いや、あんたの代わりに聞いてあげたんだから感謝してよー」


「ありがとうございます!」


「いやー、真友は騒がしいな!俺は嬉しい!じゃあ次、回そうぜ!」


道也が嬉しそうに、次を促す。


次に回ってきたのはその高塔道也のシートだ。

趣味の欄を好きなものに訂正してある。

好きなものは、面白いことと、ロードバイク。

嫌いなものは面倒なこと。

特技は運動で、好きな音楽は疾走感のある曲。

好きな番組はお笑い系。

面白いことが好きで面倒なことが嫌い。

なんとも分かりやすい性格だな。


「とゆうか真ちゃん。シートびっしりと書きすぎじゃない?途中で飽きたんだけど」


久留美が俺の自己紹介シートに文句を付けてくる。


「あーはいはい。久留美に飽きられるのは別に全然構わないさ。他のみんなはしっかり読んでくれてるよな?」


「おう!しっかり読んだぜ!」


道也が……いや、道也だけが反応してくれた。


「まじかよ!みんな読んでねぇのか!眞友ちゃんも!?しくったなぁ!あんだけびっしり書いてあったら興味惹かれて全部読んでくれると思ったんだが」


予想外の結果に落胆する。


「そういえばさっきから気になってたんだが、真と片名は知り合いなのか?妙に親しい感じがするが」


研士郎が俺と久留美の仲がいいことに疑問を持つ。


「ああ。それはわたしも気になった」


金山ちゃんも気になっていたっぽい。


「ええ?あ、ああ。えっとねー」


久留美が見るからにうろたえる。

俺たちが一緒に住んでいることを言おうか迷っているのだろうか。


「ああ、俺と久留美は行きつけのお店が同じで、昔から顔馴染みなんだよ」


俺はとりあえずそれっぽい嘘をつくことにする。


「そうなのか。同じ中学とかではないのか?」


「おう。学校が同じだったわけではないぜ!行きつけのお店でよく顔あわせてたから、自然に仲良くなった感じだ」



「なるほどね」


「そうそう!早く次、回そ!時間が無いよ!」


久留美が話を変えるために次を促す。

時間が無いのは事実だけどね。


最後に回ってきたのは俺の隣に座るたかとう同盟の一員、高島眞友。

長い前髪で目が隠れている引っ込み思案な少女。

趣味は、家の中で出来ること。

特技はタイピング。

好きな番組は特になし、好きな音楽はラブソング。

なるほど、インドア派か。

俺と久留美と気が合うかもな。


「眞友ちゃん?さっきからウチのこと見てるけど、何か顔についてる?」


久留美がさっきから送られている眞友ちゃんの視線に気づく。


「え、あ、す、すみません!ご迷惑でしたか!?」


慌てて謝罪する眞友ちゃん。


「いやいや、迷惑ではないよー。もしかしなくても、ウチの魅力にヤられてた?」


「は、はい!か、片名さんは魅力的だと思います!」


突然大声を上げる眞友ちゃん。


「おいおい久留美。なんか言わせたみたいになってるぞ」


「違うしー。眞友ちゃんは真剣な顔だったから本気だよー。ウチは魅力的だからね!」


ドヤ顔をしながら久留美が親指を立てる。


「お話中失礼。そろそろ時間なので、机を元に戻して下さい」


どうやら時間切れのようだ。


「いやー、楽しかったな!これからよろしく!」


「「「こちらこそ!」」」


その後俺たちは机を元に戻し、先生の話に耳を傾ける。


「今日の授業はこれで終了です。明日の内容は、お配りしたパンフレットに書いてある通りです。遅刻せずに、気をつけて登校してください。それでは阿倍川さん、挨拶を」


先生が出席番号1番の男子生徒に挨拶を頼むと同時に12時のチャイムが鳴る。


「起立。礼」


「「「ありがとうございました!」」」


初日の終了にしては実にあっさりとしているが、パンフレットが完璧なのでこれでも大丈夫だ。

効率が良い。


さて!

俺は行くべきところがあるので、速攻で教室を出る。

一緒に帰る予定だった春人にはすでに伝えてある。


高校生活初日。

俺のクラスには賑やかな生徒が集まっている気がする。

これからがものすごく楽しみだな!

とりあえず目下の楽しみは校外学習だ!


ここから俺の、青春が、始まる。



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