第9話 山田春人と1年1組

〜山田春人〜


……。


俺は今1年1組の教室という新天地にいるのだけど……気まずい。

新しいクラスの時って最初はこんな感じだったっけ?

今までは真友と一緒だったから分からなかったけど。

そう。

今は俺1人。

真友とは7年ぶりにクラスが分かれてしまったのだ。

真友は3組になった。

ちなみにこのクラスには一応、恵美さん、七瀬さん、新島さんがいる。

でも彼女らは3人で集まって話している。

そこに俺1人が行くのはなんか……ね?

勇気が出ないのだ。

俺はこんなにもコミュニケーション能力が低かったのか?

早く先生来てくれ!!!


そう願いながら長い10分間を1人で過ごしていると、教室のドアが強く開け放たれる。


「みんな!おはよう!」


ものすごく元気な声で挨拶をする、恐らく俺たちの担任の先生。

やっと来た!

挨拶と同時にチャイムが鳴る。


「みんな!改めて!おはよう!」


俺たちからの返事がなかったので、もう一度元気な声で挨拶をする先生。


「「「おはようございます」」」


新クラスなので仕方ないとは思うが、俺たち生徒の挨拶はバラバラで、元気もない。


「いい挨拶だ!じゃあみんな!席についてくれ!机の上に名前が書いてあるから!」


と、立って喋っていた生徒たちを着席させると。


「よし、着席ありがとう!……。まずは、僕の自己紹介をしよう!僕は1年1組の担任を受け持つことになった、藍野勇儀といいます!」


タメ語と敬語の混じった声で自己紹介を始めた藍野勇儀先生。

身長175センチの整った顔立ち。

年齢も20代だろう。

ただ、笑顔が少し引きつっているように見える。

緊張しているのだろうか?


「なにか僕に質問はありますか?いや、質問をもらいたい!」


問いかけを催促に変えてくる藍野先生。


「はーい。質問いいっすか?」


俺の前の席の男子が手をあげる。


「はい!君は山田……太郎くん!」


先生が名前を呼んで指す。

すごい。

生徒の顔を見ただけで名前を呼んだ!

もう覚えているのかな?


「もう俺の名前覚えてるんすね!あ、質問なんすけど、先生のことはなんて呼べばいいっすか?」


軽い敬語で質問する山田太郎くん。

俺と同じ名字だ。


「質問ありがとう!呼び方か!呼び捨てじゃなかったらなんとでも呼んでくれ!」


「なるほど。目上の人として敬っていればなんとでも呼んでいいと……了解っす!」


「他にはないかな?無いようであれば、まずは新クラス初日恒例、自己紹介の時間にしますよ!」


きた……。

自己紹介タイム。

正直ここで向こう1週間の自分の末路が決まると言っても過言では無い。

失敗すれば友達が出来ず、成功すれば友達が出来る。

そんな中俺は、真友から自己紹介が下手という言葉を貰っている。

どうしよう?

幸い、出席番号が後ろの方なので他の人のを見ながらできるのがラッキーだね。

真友に貰ったアドバイスは、「とりあえず元気に楽しいことが好き!と言ってればイケる」

と、言われたけど、そんな簡単にイケるかな?

まあ、真友は過去にそれで成功してるし……。

よし!これで行こう!

信じるぞ!真友!


「じゃあ自己紹介を始めよう!とりあえず、黒板に名前を書いてください。あとは自分の好きなようにどうぞ!それじゃあ、1番の阿倍川さんから!」


藍野先生が1番の阿倍川さんを指す。


……。


ここからは俺が気になった人を紹介していく。

もちろん全員気になってはいるけど、その中でも特に気になった人達だ。

まずは……。


「はじめまして。私は、阿倍川衣澄と言います」


出席番号1番、阿倍川衣澄さん。

前髪を横に流しているのが特徴的な美人。

身長も165センチくらいはある。


「特技は記憶力がいいことです。特定の物に限りますけど笑これから1年間よろしくお願いします!」


笑顔で頭を下げて自己紹介を終える阿倍川さん。

可愛い……。

少し顔を赤くしているのも可愛い。

いやいや、こんなに可愛いを連呼してたら真友になってしまう!

あいつは、可愛い可愛いとすごく言ってるからね!


「はい!ありがとう!阿倍川さん!じゃあ次2番の……」


そこからどんどん自己紹介が続いていく。


「はじめまして!椎名季子です!昔から元気が取り柄です!体を動かすのが大好きなので運動部に入ろうと思っています!1年間よろしくお願いします!」


出席番号8番、椎名季子さん。

赤茶色の髪をした、可愛い系の元気な人だ。身長は低めの150センチ。

最後にウインクをしていたけど、あれはなんだったんだろう?

それが印象に残っている。


まだまだ自己紹介は続いていく。


「はじめまして。瀧上一光です。趣味は……ゲームです。時間を忘れて出来るので、ハマっています。よろしくお願いします」


出席番号12番、瀧上一光。

白髪の爽やかな顔立ち。

趣味を語るときに結構な間があったのが印象的だ。

次は……。


「出合恵美です。1年間よろしくお願いします」


出席番号13番、出合恵美さん。

恵美さんは引きつった笑顔で、簡単に自己紹介を終える。

そういえば、恵美さんの趣味とかまだ知らないな、俺。

気になるし今度聞いてみよう。


「新島愛希です。一応、バスケが好きです。よろしくお願いします」


出席番号15番、新島愛希さん。

真顔で自己紹介をしている姿はまさに、山姥のよう。

バスケが好きなのは出合荘で聞いた。

まあ自己紹介の時に言ってただけで、2人っきりで喋ったことはないんだけどね。

そして自己紹介は続いていく。


「春崎花樹咲。よろしく」


出席番号17番、春崎花樹咲さん。

これはあれだ。

完全なるギャルだね。

金髪にピアス、つけまつげなど、フル装備だ。

そして次の人も……。


「葉羽里咲和だよ。よろしくね〜」


出席番号18番、葉羽里咲和さん。

こちらは、春崎さんとは違うタイプのギャルだ。

春崎さんが陰なら、葉羽里さんは陽。

スカートは短いし、ボタンも開けているため、男子は釘付けになってしまっている人もいる。

ちなみにこの2人は教室に入った時から一緒にいたので、仲間なのは確定している。

この2人がどんな人たちなのか、気になる。


……。

次は七瀬さんの番だ。


「はじめまして!日向七瀬です。音楽鑑賞と楽しいことが好きです!よろしくお願いします!」


え!?

「楽しいことが好きです」が取られた!

まあ、俺のものではないんだけど……。

そんな……どうしよう?

ちなみに七瀬さんは出席番号19番だ。

そして自己紹介も終盤になっていく。


「山田太郎っす。カラオケが好きっすね!よろしくお願いしまっす!」


出席番号26番、山田太郎くん。

先程先生に質問していた、俺の前の席の男子生徒だ。

どうやら、語尾に「っす」をつけて喋るのが癖っぽい。

なんとなく、真友に似た何かを感じる。

あとで話しかけてみようかな……同じ苗字だし。


そして次は俺の自己紹介の番だけど……。

何も考えてない!

もういいや!思うがままに行こう!

意を決した俺は緊張した足取りで黒板の前へ立つ。


「はじめまして。山田春人です。趣味……とまではいかないですが、料理が得意だと自負してます。名前に春がついていますが、春生まれではないです。よろしくお願いします」


自分の得意なことと、ちょっとした笑える話。

俺の中でのテンプレを結局使用したけど……。

反応は?

なんか下向いてる人が多いな。

もしかして聞くに耐えなかった?

確かに、他の人はちょっと笑える話とかしてなかったよね……。

まあ、気にしたら負けな気がする!


「山田春人くん、ありがとう!席に戻ってください!」


俺はやり切った顔で自分の席へと戻る。

自己紹介も残り後2人。


「はじめまして。夜風楓斗です。料理が得意です。1年間よろしくお願いします」


出席番号28番、夜風楓斗くん。

ものすごく柔らかな笑みを浮かべている、黒髪の美少年。

料理が得意らしい。

これは仲良くなるチャンスでは!?

あとで話しかけてみようかな……。


そして自己紹介の大トリ。

ものすごく、ゆっくりと歩きながら黒板の前にたどり着く。


「皆さま、はじめましてでございます。わたくし、和国撫子と申します。どうぞ、よろしゅうございます」


出席番号29番、和国撫子さん。

……大トリにふさわしい人が現れた。

身長は低いが、顔は美人。

立ち振る舞いや喋り方も、名前の通り撫子だ。

つまり、そうゆう家系なのだろう。

こんな人と同じクラスになれて俺は幸せだよ。

と、思えるくらいには美しいオーラを放っている。


和国さんが自分の席に戻ったところで、自己紹介は終了。

再び藍野先生が教壇に立つ。


「みんなありがとう!この1年1組で、充実した1年間を過ごそう!それじゃあ、次は時間割表を配ります!」


自己紹介の後は時間割の確認や学校の地図を配られて終了した。

入学式は9時からだったので、今はもう12時前だ。

今日の学校はこれで終了らしい。


「それじゃあ、これで今日のHRは終わりだ!また明日元気に!1番の阿倍川さん!挨拶を頼めるかな?」


最後の挨拶を1番の阿倍川さんにお願いする先生。


「はい。分かりました。起立!礼!」


「「「ありがとうございました!」」」


よし。学校が終了だ。

他のクラスメイトは、もともと仲が良かった人と帰宅しようとしている人が多い。

俺は……。


「よう!春人くん!同じ苗字だし、仲良くしねぇっすか?」


俺がどうしようかを考えていたら、前の席の山田太郎くんが突然話しかけてきた。

嬉しい。


「う、うん!いいよ!これからよろしく、太郎くん!」


俺も待ってたと言わんばかりに元気な声で返事する。


「ふぃ〜。良かったぜ。突然話しかけて引かれたらどうしようとか考えてたからさ」


「いやいや、むしろすごい嬉しいよ。実は俺も同じ苗字だから話しかけようかなとか考えてたからさ」


「まじっすか!そりゃ良かったっすわ。あ、誰かと帰る予定とか立ててたりしてる?してなかったら一緒に帰ろうぜ」


太郎くんが、一緒に帰るのを誘ってくれた。


「いや、立ててないよ。一緒に帰ろう。もっと話したいしね」


俺は予定を立ててないことを伝える。

ちなみに、恵美さんたちとは一緒に帰る約束はしていない。

真友は、学校終わったら行くところがあるらしく、一緒には帰れないらしい。

どこ行くんだろう?


「よっし。じゃあ帰ろう!あ!俺のことは太郎って呼んでよ!俺も春人って呼んでいいか?」


「了解。俺も太郎って呼ぶよ。改めてよろしくね」


「おう!」



こうして、俺の高校生活初日の幕が降りた。

結果は上々。

初日からクラスメイトと仲良くすることに成功した。


しかし、高校生活は始まったばかり。

気を引き締めていかないと!


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