第8話 彼ら彼女らの入学式



〜山田春人〜


4月2日


「「「それじゃ、行ってきまーす」」」


「はい、気をつけてね〜」


理香さんに見送られ、高校へ向かう俺たち6人。

槍彦くんは中学校だから別の道だ。

そう。

今日は4月の第一月曜日。

つまり、入学式だ。


「いやぁ、3年ぶりだな!このワクワク感!」


隣を歩く真友が元気な声で言ってきた。


「そうだね。入学式なんて人生で数えるしかないからワクワクするのもわかるよ」


少し緊張の混じった声で返す俺。

入学式。

それは、新しい出会いのイベント。

俺たちはこれから、たくさんの人達と出会おうとしている。

そんなイベントに、ワクワクしない訳がない。


「荘から徒歩で5分の最寄駅から電車で20分だっけ?それならチャリでも行けそうじゃね?」


「そうだね。自転車でも行けそう。雨の日以外は自転車で行こうかな」


自転車で行けば運動にもなるしね。


「ちょっと高冬!その変な歩き方やめて!恥ずかしいから!」


少し後ろを歩く恵美さんが怒鳴る。

真友は首の後ろに手を回して大股で歩いている。

うーん、確かに一般的な歩き方ではないね。


「ごめんごめーん。この歩き方少し憧れてたんだよね〜。俺の観てたアニメのキャラがこの歩き方しててさ。かっけぇーって思っちゃったわけよ」


と、悪びれる気が全くない顔の真友。


「それってもしかして君スタのベジの歩き方じゃない?」


同じくアニメをよく観る久留未さんが、目を輝かせて真友に聞く。


「そうそう!さすが久留未!俺あのアニメ観て野球少しやったわ〜」


そのまま後ろに下がり、久留未さんと話し始める真友。

ちなみに「君スタ」とは、「君と目指すスタジアム」を略している、俺たちが中1の頃に流行った野球アニメだ。

主人公が野球好きのヒロインのために甲子園を目指す物語。

俺は真友に話を聞いただけなので、これ以上は知らない。


「はぁ。今日は入学式だけど、高冬を見てると誰でもまともに見えそうね……」


恵美さんが愚痴る。


「そうでもないと思うよ。高冬くんは確かに少し変だけど、この世界には同じくらい変な人もいるはずよ」


七瀬さんにも変と言われてしまう真友。

ここは俺が、親友としてフォローしてあげよう。


「そんなに変かな?真友。面白い奴だから、友達も多いよ」


「あんたは高冬と一緒に過ごしすぎて感覚がおかしくなってんのよ。少なくとも私の中学にはあそこまでの人は居なかったわ」


「そうだね〜。悪い人ではないのは分かるけどね〜」


ダメだった。

見れば、京夏さんもうなずいている。

ごめん、真友。


そんな話をしていたら最寄駅についた。

電車に乗ると同じ制服を着た人たちが数人いる。

もしかすると、彼らが自分と同じクラスになるかもしれない。

少しソワソワしながら電車に揺られること20分。


「来たな!ここが俺たちが通う学校!私立楽青学園!」


真友がすごく大きな声でそう叫んだ。

恥ずかしい……。

他のみんなはそんな真友と一緒にいるのが嫌だと言わんばかりに、そそくさと学校の中に入っていく。


「ちょっと君!正門の前でなんだ!酔っ払ってるのか?未成年飲酒になるぞ!」


校門の前に立っていた身長170くらいの生徒が真友に詰め寄ってきた。


「え?いやいや、ちょ、待ってくださいよ風紀委員さん!俺は正常です!未成年飲酒なんてしてないっすよ!」


あらぬ疑いをかけられた真友が少し焦って弁明する。


「僕は次期風紀委員長の朝永誠治だ。新1年生。君にはちょっとついてきてもらう必要があるな」


と、真友の返事も聞かず、何処かへ連れて行こうとする朝永、先輩?でいいのかな?


「え?マジですか?問答無用ですかー?」


真友は口ではああ言っているが抵抗する気は無いようだ。

どうせ面白そうだからついて行ってみよう、とか思ってるんだろうな。

なので真友のことは放っておくことにする。


真友が連れて行かれるのを無視して俺は校門を潜る。


おお!

私立楽青学園。

創立9年の私立学校。

9年しか経ってないだけあって、すごく綺麗な校内だ。

まず目の前には一本道と、その周りを彩る沢山の花たち。

一本道の真ん中に噴水があり、その先に校舎がある。

校舎を超えたらそこは、とても広いグラウンド。

今は誰も使用してないが、サッカーコートやテニスコートなど、部活ごとにエリアが割り当てられているっぽい。

俺は「入学式へ参加する方はこちら」の指示に従い移動し、グラウンドを横切り入学式が行われる会場の体育館へ到着する。

見てみると、入学式の並び方は、体育館へ入った順で並んでいるらしい。


うーん。

なぜか俺の周りには複数人で来てる人たちが多い。

恵美さんたちは?

周りには見えないのでもうすでに並んでしまっているんだろう。

……。

なんか気まずいな、1人は。

こんなことになるなら真友を助ければよかったよ。


「あれ?春人じゃーん。あの恥ずかしい子は?」


後ろから久留未さんに声を掛けられた。

恥ずかしい子とは真友のことだろう。


「あ、久留未さん!真友は風紀委員に連れて行かれちゃった」


「あはは!入学初日に何やってんの!はは。はぁ〜。ほんと笑えるわ〜」


久留未さんが腹を抱えて爆笑する。

確かに面白い話ではあるよね。


「久留未さんは1人?恵美さんたちは?」


久留未は今1人なので、恵美さんたちの居場所を聞いてみる。


「ん?ああ。ちょっち、知り合いに似てる人を見つけてね。その人に声掛けたかったから先に入ってもらったんだ。どうせだし、一緒に入っちゃおうか?囚人はまだ帰ってこないでしょ?」


囚人とは真友のことだろう。


「そうだね。入っちゃおうか。実は、1人は気まずいなーと思ってたところだったから助かるよ」


「そうだったん?まあ確かに、2人以上で来てる人割と多いね」


そんな会話をしながら、体育館に入る。

列を並んでみると、俺たちは結構後ろの方っぽい。

今は入学式開始15分前。

来るのがちょっと遅めだったかも。


「今年の新入生はどのくらいいるんだろう」


体育館は新入生が入っても結構スペースが空くほど大きい。

ここも部活ごとにエリアが割り当てられてそうだな。


「理香さんは、確か180人くらいって言ってた」


「なるほど180人か。俺たちの中学が1学年240人だったから少し少なめだね」


俺たちの中学では1クラスに40人いた。

それと比べると、ここでは1クラス10人くらい減りそうな感じがする。


「春人と真ちゃんは中学の時同じクラスになったことある?」


「あるよ。なんなら、1、2、3年全部同じクラスだったよ。小学生の時も1、2年は違ったけど、3年生からはずっと一緒だった。これ、結構凄くない?」


そんなことを思い出して、俺は少しだけ声を弾ませる。


「マジで!?すご!!もう君たち運命の赤い糸で結ばれてるんじゃないの?」


久留未さんが笑いながらとんでもないことを言う。

いや、とんでもなくはないか。

実は。


「それと同じようなこと昔からずっと言われてたよ。言われすぎて、本当に結ばれてるんじゃないかって思った事もあるくらい」


実は同じようなことを何回も言われたことがある。


「君たちが結婚する未来もあるかもね笑」


久留未さんが冗談交じりに言う。


「はは。あっても0.1%くらいだよ」


俺も冗談まじりに返す。


そんな話をしていると。


「あー。あー。まもなく、入学式を開始いたします。お静かにお願いいたします」


入学式開始のアナウンスが来た。

体育館に集まった新入生が静かになるのを確認すると、1人の女子生徒が一礼をして壇上に上がる。


「新入生のみなさん、おはようございます!生徒会長の満上舞弥です!僭越ながら、私が入学式開始の言葉を述べさせていただきます!」


そう元気いっぱいに挨拶したのは、黒髪ショートヘアーの生徒会長さん。

凄く可愛らしい人だ。

アホ毛があるのも特徴的。

周りの男子たちが少しだけざわついている。

まああれだけ可愛らしい生徒会長さんが出できたら、仕方ないよね。


「えー、これより入学式を開始致しますが、ここで!私から1つ注意点がございます!これから私の後に学園長が出てくる予定ですが……凄く変人です!なのでどうか引かないであげて下さい!まあ、私は入学時は引きましたが……それはそれ!今はむしろ……


「ちょっと舞弥くーん!なんてことを言うのさ!僕が変人?それはつまり僕が唯一無二な存在ということだろう!?ああ、なるほどね!褒めてくれてたのか!ありがとう!そう!僕はこの世に唯一無二の存在!つまり!主人公だ!」


生徒会長さんの話に割って入ってきた変人……もとい、自称主人公。

絶対この人が学園長だね。

そんな感じがプンプンするよ。

しかし、凄く若く見えるな……。

身長も高いし、見た目だけなら30代と言ってもおかしくない。


「舞弥会長!避難してください!こっちこっち!」


1人の男子生徒が、裏から生徒会長さんを学園長から引き離そうと呼びかける。


「えー、それでは!続いては学園長のお言葉です!学園長よろしくお願いします!」


そう言ってそそくさと退場する生徒会長さん。


「うむ!承った!」


元気よく返事をすると、いきなりマイクをガッツリ掴み前へ進み出る学園長。


「はじめまして!輝かしい希望の子たち!僕はこの学校の長である、建城総二郎である!まずは君たちの新たな門出を祝福しよう!おめでとう!そしてどうかこの3年間の高校生活を存分に楽しんで欲しい!決して、この学校に入学したことを後悔させない!何年経っても、君たちの心に残るような、そんな学校生活を提供しよう!そのために!我々大人は、全力を尽くすことを誓おう!」


「「「おおーーー!」」」


すごい!

学園長が熱い言葉を紡ぎ終わった瞬間、体育館の端に並んでいた先生方が声を揃えて叫んだ。

俺たちに後悔させないような学校生活を提供する。

そんなことを言ってくれた学園長。

変人かもしれないけど、俺たち生徒のことを1番に考えてくれる人なんだな。

なんか好きになれそうだよ、学園長。


「そして!この学校では生徒たちの自主性を尊重している!学校行事や地域活動などは君たち生徒主体でやっていってもらっている!しかし!それでは教師たちがただただ、授業を教えるためだけに出勤していることになってしまう!君たちを君たちの教師として、サポートしていくから、どんどん頼ってくれたまえ!僕は君たちの成長を心より応援している!……ふぅ。少し喋りすぎてしまったな。僕は疲れたので今日はこれまでとする!以上!建城総二郎より、ありがたきお言葉でした!」


喋りたいことを喋りきると、自分で締めて退場していく学園長。


「なんか……すごい人だったねー。理香さんすら変わってる人って言ってたからどんな人だろうと思ってたけど、なんだろうねー。熱いというか、若いんだろうね、心が」


隣の久留未さんが俺が思っていたことを代弁してくれた。


「そうだね。ちょっと変わってるけど、俺たち生徒のことをしっかり考えてるっぽいから、俺は好きだな。学園長のこと」


俺の学園長への印象はすごく好印象だ。


「ウチも真面目で、よくわからない話をしまくる校長よりかはよっぱど好きだね」


久留未さんの印象も良いっぽい。


「続いて、閉会の言葉です。満上会長よろしくお願いします」


司会の人が進行すると、先ほどの満上会長が壇上に再び登場する。


「えー、皆さん。学園長がお騒がせいたしましたが、これにて、入学式を終了いたします。この学校の詳しいことは明日のオリエンテーションにて説明があると思います!……それでは最後にもう一度!新入生の皆さん!ご入学おめでとうございます!これから3年間、たくさんのことを経験して成長していってください!」


「これにて、入学式は終了です。新入生の皆さんは.昇降口に貼られているクラス表にて.自分のクラスを確認して各教室へ向かってください」


元気いっぱいに閉会の言葉を言い終えた満上会長が退場後、司会の人よりこれからのアナウンスが入る。

どうやら次はクラスの発表らしい。

ぞろぞろと新入生たちが昇降口へ移動するために体育館を移動していく。


「次はクラス発表だね。できれば真友や、恵美さんたちと合流したいけど」


「だねー。せっかくのクラス発表だしねー。てか真ちゃんは入学式参加できてんの?連行されたんでしょ?」


「うん。連行された。まあ、抵抗してなかったから興味本位で連行されたんだと思うよ。真友はおもろしろそうなこと好きだからね」


「ふーん。ウチも連行されたかったなー。ウチもおもろしろそうなこと好きだからさ。真ちゃんとは意外と気が合うんだよね」


「確かに、俺から見ても2人は少し似てる気がするよ。喋り方とかね」


俺がそう評価すると、久留未さんは嫌そうな顔をする。


「いや、似てるのは普通に嫌なんだけど。その評価は改めてよー」


どうやら真友と似てると言われるのは嫌らしい。

真友……。


「わ、分かったよ。久留未さんと真友は似てない!」


「そうそう。それでいいのさ〜」


久留未さんと会話していると、いつの間にか体育館の外に出ていた。

するとそこには。


「おう!春人!久留未!俺参上!」


先ほど捕まった真友がいた。


「あれ、062さん。おひさー」


「いやそれ囚人番号で呼んでるだろ!確かに俺は捕まったが、こうして無事ここにいる。なんならタブレットで入学式観てたしな。あ、すみませんすみません」


そう言って俺たちの列に入る真友。


「なんだ。入学式観れてたんだ」


てっきり観れてないと思ってたけど。


「おう。詰所みたいな所で朝永先輩たちとな!てか凄かったな!学園長と会長さん!学園長はめちゃ面白い人だし、会長さんはすげぇ美人!しかも生徒主体の学校ときた!これはすげぇ楽しみになってきたぜ!」


興奮しながら話す真友。

生徒主体。

いかにも真友が好きそうな方針だ。


「生徒主体っていいよねー。ウチもすごい楽しみだよ」


久留未さんも真友に同意する。


「だろ?つーかクラス発表もドキドキするな!俺たちがどうゆうクラス分けされるのか!まあ春人とは同じになる気がするけどな。ん?いや、今フラグ立てたかもしれんわ」


「ちょっと真友。それ回収しそうな予感が

するよ」


「俺もそんな予感がするわ!まあそん時はそん時だな。俺と春人が別れるのもそれはそれで面白いかもな」


「そうかもね。俺たちずっと一緒だったしね」


自分が真友がいないクラスでどう過ごすのか。

それが気になる。

不安でもあるけどね。


「お、人だかりができてるぞ。昇降口についたらっぽい。けど人多いし少し待つか」


「だねー。ついでに恵美たちも見つけたいねー」


真友の提案に久留未さんも同意する。

俺も同意だ。

俺たちは昇降口から少し離れたところで待機を始める。

するとそこへ。


「あれ?恵美たちじゃーん」


「お、すぐ合流できたな!さっきぶり!」


「やっと見つけたわ。久留未と山田春人はどこ行ってたのよ」


恵美さんたちが近づいてきた。


「いや、先に行ってしまったのは恵美さんたちでは?」


俺は思うがままに反論する。


「いや、普通ついてくるでしょ。ウチらはただ高冬を見捨てただけなんだから」


新島さんに反論されてしまった。


「そうよ。それで久留未は?何してたのよ」


「ごめんねー。ちょっち知り合いに似てる人を見つけちゃって急いで追いかけちゃった。まあ、結局違ったけどねー」


「そうだったのね。まあいいわ。それより、学園長が相当変わった人でびっくりしたわよ。まさかこんな早くに高冬と同じくらい変わった人に出会うなんて思ってなかったわ」


そう言って真友を見る恵美さん。


「いやー、楽しくなりそうだね!恵美ちゃん!さ!人だかり減ってきたし、クラス分け見に行こうぜ!」


ウインクしながら親指を立て、恵美さんをイラつかせた後、クラス分けが貼られている場所へ向かう真友。


「さあ行こーう!ほらほら!みんなも!」


久留未さんが真友に続く。


「行こう。いちいちイラついてたらキリがないから」


新島さんも続く。


「そうね。まあ、今のは別にイラついた訳じゃないけどね」


へえ。

そうだったんだ。

少しだけだけど、恵美さんと真友の仲が進展してる気がする。


「それじゃあ、私たちも行きましょう」


「だね」


俺も七瀬さんもみんなに続く。


「おいおい……これは!なるほど!そうきたか!」


真友が先にクラス分けを見て驚きの声を上げる。

そして、俺もそのクラス分けを見る。



……!!




果たして、これから俺たちはどうなっていくのか。


予想がつかない日々が始まる……!!


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